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主人公、物語に置き去りにされる

 そいつは突然現れた。

  


 ♠♠ ♠♠ ♠♠



 かけがえのない日曜日。四畳半にひじついてうたた寝してるとドシン! とけったいな音がした。

 大型コンテナ車が横転したかのような衝撃だ。

 眠気は一目散に飛びさってしまった。


 でも起き上がるのも目をあけるも面倒くさい。

 だからしばらくはじいっとしてようかとも思った。

 ところが、


「旦那さま、事件です」


 女の声がきこえた。  

 もちろん俺は独身で、生まれてこのかた交際経験はない。


 あまりに女っ気がなさすぎてついに自己救済的幻聴がきこえだしたんだと思った。

 あるいはこれも夢の地続きなんだろうなと1人合点した。

 いわゆる明晰夢ってやつなんだと。


 ところがあまりにしつこく揺り動かされる感じがして、目をあけてみると、正座したままじっとのぞきこむ女がいる。

 ひじついて寝ていると思い込んでたが、太ももに頭をあずけて仰向けで眠っていたらしい。


「え? え!?」


 俺が硬直している間にも、黒髪を耳にかけなおした麦わら帽子の女は話をすすめていた。

 正直なにを言ってるのかはこれポッチもわからなかった。

 ただ最後に、


「説明はあとです。事態は一刻を争うのですから」

 

 とこめかみに手を添えられると、俺の視界はボロアパートから白の宮殿内にうつりかわっていた。

 四畳半から40畳へ。

 ヒビの走ったボロアパートからツルツルした宮殿。

 中年のおっさんは続投で中年のおっさんのまま。

 セオリーなら若返ってたり、イケメンになってたり、金持ちだったり、魔術をおぼえてそうだが、やっぱり続投でそのままだった。


「よく来たぞ田中ヒロト」


 玉座にふてぶてしく座るヒゲオヤジが両手をひろげた。


「あのオッサンがこの国の王です。無能ですけど」


 いつの間にやら肩をならべている麦わらの女が耳元で教えてくれた。

 よくわからないまま会釈してみた。

 ヒゲオヤジは満足したのか何度もうなづいた。

 この癖は上司に似ていて一気に嫌いになった。


「ひじ掛けに腰掛けてるのは従者です。なんでもヒゲオヤジが貧民窟から顔だけで拾ってきて英才教育を施してるとか」


 たしかに玉座の肘かけに12歳弱の少年少女がこれまた偉そうに座っていた。

 彼、彼女は俺を見るなりバッチイものが視界に入ったかのように眉間にしわ寄せてわきをむいた。

 これは俺の従兄の子供たちに似ていて複雑な気持ちになった。


 さてそうこうしているうちに王、従者たち、麦わらの女がこんこんと話し始めた。

 俺はひとりかやの外だった。

 けれど輪の中には入れてもらえているらしく、チラチラと俺のみてくれに視線をすべらせていった。

 そして、ふむふむ、とかこの男が、と納得している。


 話が終わったのは30分くらい過ぎてからだ。


「田村 ヒロト」


 ヒゲオヤジがほほヒゲをなでながら仰々しく俺の名を呼んだ。


「はい」


「ガンバれよ」


「はい?」


 困惑している俺をよそにうなづく王は、のっそり立ち上がると従者の肩に腕をまわして奥へ引っ込んでいった。

 ペドなのかもしれないと思った。


 残されたのは俺と麦わらの女だ。

 

「では行きましょう」

 

「いやどこに?」


 女は答えずに俺の手をふんわりにぎった。


 ぐにゃり。

 まただ。

 今度は白の宮殿からボロアパート。

 40畳から四畳半。

 俺は俺のまま、明日出勤の身として現実へ帰ってきた。


 ところがかわったことが1つ。

 

 謎の同居人がもれなくついてきた。

 

 

 ♠♠ ♠♠ ♠♠



 


 

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