奇妙で微妙な双六プレイ
双六マニアで、学校内でも有名なただおの発案で、三人は正月でもないのに、双六をプレイすることになった。
ただおは、ほこりだらけの紙をうやうやしく持ち出してきてテーブルの上に置く。
「昔、学習雑誌の付録についてきた双六が出て来たんだ。すぐやろう。さあやろう。いそいでやろう」
ただおは興奮して、唇を震わせ、その振動が手足に伝わり、まるで地震人間と化していた。電気あんまがそばに来たようなものだ。
「まあ落ち着いて、君が双六愛なのはわかった。しかしそんな古い双六で楽しめるだろうか」
皮肉屋のれいじが、ただおを落ち着かせるためにあえて苦言をぶつける。しかし、ただおはムキになって反論した。
「古いということはそれだけ、双六の面白さのエッセンスが詰まっているということだ。つまりサイコロを使った競技の原点がここにはある」
ただおは、とにかく双六をやりたくてたまらないのか、無理やり考えた誘い文句で参加をうながす。ただおが一度決めたことは、中々ひっくり返せない。三人は、あきらめて従うことにした。
「温故知新ということばもあるし、その化石の様な双六、プレイしてみる価値があるかもしれません」じゅんは、ゆっくりと椅子に腰を下ろし、双六の盤面を見つめる。赤、青、黄色の色あせた原色に彩られた厚紙のシートは、ほこりでくすぶっていて年代物の雰囲気をかもしだしていた。
「少しきれいにしないと」れいじは除菌ティッシュでシートを拭こうとしたが、「色が落ちたら困る」とただおに言われて止められた。れいじはしぶしぶ人形を手に取って、丸椅子に座った。
そしてもう一人、てつろうも無言のまま、小さな人形を手に取り、参加の意思をあらわした。てつろうは無口なので、彼の身振りから判断するしかなかった。
「では、双六を始める。まずはサイコロを……。あれサイコロがない」ただおは引き出しの中や筆立ての中、ベッドの下から、ランドセルの中、衣装ケース、本棚の分厚い本のページをくりぬいた所、おにぎりの中まで探したが、サイコロは出てこなかった。
「いいことを思いついた!」
一階に降りたただおは、冷蔵庫からカットスイカをひとつかみ持ってきた。
「サイコロも四角、カットスイカも四角、さあ双六を始めよう」
ただおは嬉々としてカットスイカを転がした。黒い種が二つ浮き出ていた。ただおは小さな人形でできたコマを二つ進めた。
続いてれいじがカットスイカを振る。強度に問題のあるカットスイカは角を潰し、黄色い種の浮き出ている面を見せた。
「黄色い種は数に入れないぞ」
「いや、これも数に入れないとおかしい」
「黄色い種は種未満だ」
「これはサイコロの赤い目と同じことにすればいいんじゃないでしょうか」
じゅんのとりなしで、れいじは一つコマを進めた。マス目には『三つ戻る』と書いてあった。
「え、まだ一マス目だよね」
「印刷ミスだろうね」
「でもルールはルールだから守れよ」
しばらくの押し問答の後、根負けしたれいじはしかたなく三つ戻った。スタートラインから二つ後ろぐらいの場所に人形を置いた。
続いてじゅんがカットスイカを振る。ところが押し問答の間にアリがたかっていて黒い点がびっしりになっていた。
「黒い点が六つで六進めますね」
「いや、ちょっとまて、アリは二匹だから二つ進むのが正しい」
泣く子とただおには逆らえない。しかたなくじゅんは二つ進んだ。
てつろうが無言のままカットスイカを振ると、勢い余って机の下に落ちた。壁と床の二か所にぶつかったカットスイカは、見るも無残につぶれてしまい続行は不可能になった。
ただおは再度台所に向かったが、母親の「食べ物を粗末にするんじゃありません」という叱る声が聞こえた後、手ぶらで戻って来た。
「サイコロもなくなったことだし、これでお開きにしましょう」
最後はじゅんが取り仕切り、つまんない双六地獄からやっと解放と思いきや、ただおが消しゴムを切り出して手製のサイコロを作り始めた。
「さあ、プレイの再開だぞ。スタートは一緒でやり直しだ」ただおは笑顔で、消しゴム製のサイコロをかざしてやる気満々の様である。三人は仕方なく、プレイを再開させた。しかし、ただおが不器用すぎたのか、サイコロの目は六しか出なかった。
『一回休み』に一人が止まり、残り三人も同じマスで止まった。結局双六は中止になった。
「残念だったなあ(棒読み)」
「サイコロ買ってくるからまた再開しないか」
「もう塾の時間だからさようなら」
てつろうも無言で、帰り支度を始める。
三人が帰った後も、一人三役で双六を進めるただおだった。サイコロを作り直して、目の出方を調整してプレイを進める。
「三回回ってワンと言うか」
「いいからやれよ」
「ワン」
「三つ戻るか、厳しいなあ」
「歌を歌うか。恥ずかしいなあ」
勝負は、ただおBが一着でゴールインした。




