森の中で
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俺が歩き始めてからかなりの時が経ったのだろう。既に森の中は周りが見渡せないほど暗くなっていた。そして、俺は二つの選択を迫られている。徹夜して森を探索するか、ここで仮眠をとるかだ。いくら能力で夜目を利かせられるからといっても、能力を使うにはそれなりの魔力の消費が求められるし、それより体力がもたない。もちろん探索したいのはやまやまなのだが、体力や魔力調整を失敗し倒れてしまうわけにはいかない。それらを踏まえて、行動か休養かを天秤にかけた結果。
(……ここは仮眠するべきだな、魔力やさっき飛行で使った体力の回復も重要だし、まだ朝と夜が分かるうちに生活のリズムをつけておくことも重要だろう)
だが、それでもここは森の中ということを忘れてはいけない。この中ではいくら俺でも寝首を掻かれる可能性はある。あくまで「何も対策していなければ」の場合であるが。
俺はまたもや自身の右腕に傷をつける。ただ、今度は大きめにつけ、滴る血で一人分入れるような円を描いた。この円がセンサーの役割を果たし、俺以外の存在がこの円に近寄った瞬間、俺の頭の中で警報、もとい目覚ましが鳴り響くはずだ。
(……一応、これで寝首を掻かれる心配はないだろう)
安心した俺は、その円の中で横になり、意識を暗闇の中に落とした。
『お前の能力は人間どもに対抗するために必要不可欠だ!ぜひ、我々魔族のために使ってほしい』
(知るかよ、そんな事情)
『そんな甘えは許さんぞ。さぁ、早くその人間を殺すのだ』
(そんなの俺の勝手だろ。あんたにそれを強制する権利はあるのかよ)
『はぁ……お前には少し教育が必要なようだ』
(教育?なんだよそれ、俺はあんたの所有物じゃない……)
……
『ひゃっひゃっひゃっ、お前が魔王様に従わないから悪いんだよ』
(……うるさい)
『お前、には、期待、していたのに、裏切られた、んだよ、こっちの、気持ちも、考え、ろ!』
(……うるさいうるさい)
『はぁ……なんでお前がなんでそんな能力を持っているんだ‥…これこそ宝の持ち腐れというのだよ』
(……うるさいうるさいうるさい)
『いっそ死んで償ってほしいものだがな、まぁ能力が摘出できる方法をただいま研究中だ。それが完成したら能力を摘出した後お前を殺してやる』
(……うるさいうるさいうるさいうるさい!)
「うるせぇこの腐れ親父が!」
思わず俺は絶叫してしまう。そのせいかかすかだが草を揺らす音ような音が聞こえる。恐らくだが、俺の絶叫を聞いて確認しに来ているのだろう。
そして、確認しに来る奴らに見つからないよう、俺は逃げる。ここで戦ってもいいのだが俺はあくまでも寝起き、全力を出すことは到底難しいだろう。それなら今のうちに逃げてしまった方が安全だといえるだろう。
俺は足首に浅い傷をつけ、血が流れたことを確認すると、すぐさま走り出す。
先ほどまでいた地点はマーキングしてあるはそのマーキングは消される可能性の方が十分高いだろう。つまり、この森の中で迷う可能性ははるかに高いものであるということだ。
だからと言って何か支障が出るわけではないが、それでも昨日の探索が無意味となるのはそれはそれで心苦しいものがある。これで振り出しに戻ったわけなのだから。
撒いた後のことを考えていると前の方からも草を揺らすような音が聞こえた。
(……俺のことを探しているわけではないと思うが、一応迂回しておこう)
そして、俺は左を向こうとした瞬間
(!?吹き飛ばされる!?)
前方から吹かれた風に身体を飛ばされ、木に背中を打ち付けられる。
(さっきの風、魔力を感じた……てことは十中八九魔法だろうな)
俺はその場から起き上がり、風が吹いてきた方を睨みつける。すると
「……え!?」
その驚きの声と共に、美少女が現れた。茶色の長髪を有した彼女は緑色の服を着ていて、それも彼女の容姿を一層映えさせていた。
しかし、俺が最も注目したのは彼女の耳だった。彼女の耳は先が尖っていて、これは4種族のうちの一つ、エルフに見られる特徴だった。
(エルフは確か魔法を得意としていた、だがそれでもこの威力は並の風魔法じゃ出せない……4000年で魔法の技術が向上したというのか?)
「驚きました、気絶させるつもりで打ったのですが……普通に立ち上がる体力があるとは……」
彼女は俺の足から視線を上へ昇らせ、俺の目のところで止める。
「赤と黒のオッドアイ、ですか。貴方、魔族ですね?」
「……」
俺は答えに困っていた。ここで魔族だと明かしてしまったら、この場の雰囲気は悪いものになってしまうかもしれない。
4000年前での話だが、魔族は4種族の中でも血気盛んな種族で、様々な種族相手に戦争をしかけ、多大なる犠牲を生み出す原因を作ってきた。
そんな種族の者だと知れたらそれだけで相手の感情は敵意に塗れてしまうだろう。
正直、ここで彼女に会えたのは幸運と言ってもいいだろう。うまく話が運べば彼女から情報をもらえるかもしれない。このチャンスはものしておきたい。その手段を思考をフル回転させ、導こうとしていると
「やっと、追い、ついたぞ、侵入者!」
後ろから一人の男が現れた。いくつかの弓を背負った男は、なかなかに体が鍛えられていて、何より彼の発言から追っ手が彼であり、俺が能力を使って走った距離をこの早さで追いついてきたことが彼の強さを表していた。そして、彼も先の尖った耳があることからエルフであることがわかる。
「ガレン!?ってことはこの人は」
「えぇ、お嬢様が考えておられる通りでございます」
どうやら男はガレンというらしく、彼女と主従関係にあるらしい。しかし、少女の方は俺がガレンという男が追っていたものとは別人だと思っていたらようだ。そう考えると少し抜けているのかもしれない。
「さ、さて」
彼女は咳ばらいをし、
「改めて、貴方、魔族なんですよね?」
「……あぁ、俺は魔族だ。何か文句あるなら言ってみやがれ」
ごまかすことはもちろんできた。しかし、ここで嘘をつくのは得策ではないだろう。嘘をつくことはそれが嘘だと露見しないよう神経を使う必要がある。ただでさえ俺は一応追われている身だ。捕まらないようにさらに神経を使うのは流石に堪える。
それよりは正直に話し、信用を得た方が情報を得られる可能性が高い。
「……そんな魔族が、このエルフの森に何用ですか?」
「別に、ただこの辺を歩いていたらここに辿り着いた。ここがエルフの森だとは知らなかったんだ」
エルフという種族は、森を愛する種族と本で見たことがある。その文化は4000年前から変わっていないようだ。少なくとも森に入った他種族を捕まえようとするぐらいには。ガレンからの視線からすぐにわかった。
「それでは、それを証明するために我々と一緒に来ていただきますよ。もちろん、拒否権はありません」
その言葉と同時にガレンが消える。そして、少女が俺に指を差し出す。
「”貫け、風よ、我が敵を討ち倒せ”」
少女が詠唱し、彼女の指から風が放たれ、
俺の肩を貫いた。
次は遅くても一週間後に投稿する予定です。
まだまだ若輩者なので、矛盾している場所もあるかもしれませんが、その時は指摘してもらえると嬉しいです。