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プロローグ 目覚め、そして逃亡

周りの視線が俺を刻み、

周りの罵声が俺を鞭打った。

こんな世界で、俺はどうして生きていかなければならないのだろう。

何度も狂いたいと思った。

何度も死にたいと思った。

でも、この世界は俺にそう甘くない。

狂おうにも死のうにも恐怖が伴い、俺を躊躇させた。

そんな矛盾を抱え、俺は周囲からの攻撃を耐え続けた。

だが、そんな生活も今日で終わりだ。

遂に、俺は「アレ」を覚えることができた。これでこんな生活とはおさらばだ。

俺は今から「寝る」。だから、絶対に起こさないでくれ。と言っても、起こそうとしても俺は棺桶の中だし、俺がお前らが生きているうちに起きることはないだろう。

それじゃあこの世界に生きている阿呆ども。

お互いで争い、自滅しながら

世界とともに滅べ。今さら取り繕ってももう遅い。お前らはもう救われない。

                      ールシウス・ゲーテの遺書ー


「……クソッタレが」

俺は過去に俺が書いた遺書を破り捨てる。

(俺の見立てではこの世界はおよそ1000年前に滅んでいるはず。なのにどうして……いや、まだだ。まだ外に行けば何か分かるかもしれない)

俺は4000年もの間動かしていなかった体を必死で動かし、出口を探した。すると、一つの扉を見つけた。だがその扉には外側から鍵がかかっていて今の俺では破壊することは不可能だ。……今の俺なら。

つまり、少し経てばこの扉を破壊できるぐらいの魔力は溜まるだろう。だから俺はその時までここで待たせてもらうことにした。その間、周囲を物色することにした。

そしてそれから魔力が回復するまで物色していたが、結局服や武器など使えるようなものは見つからないうちに魔力はある程度回復していた。

(まだ少ししか回復してないが、壊すぐらいならこれぐらいで十分なはずだ)

そう言って俺は、4000年経ったのにも関わらず、伸びたと思えないほど短い爪で腕に浅い傷をつくる。当然切れ口から少量だが血が流れ始めた。しかし、その血は流れ出した量からは考えられない広がり、すぐに俺の腕を赤色に染めた。

(よし、使えるには使えるようだな……けど、質はどうだ?)

俺はその腕を振りかぶり扉を殴りつける。その直後、轟音と共に壊せそうになかった扉がただの破片に変貌を遂げていた。

(質はそこまで落ちてないみたいだな……)

俺は扉の向こうの景色にあることを気づかされた。

「……はぁ、やっぱりか」

この世界がまだ「生きている」ことを。

棺桶が置いてあった倉庫は恐らくとある村にあったのだろう。眼前には数えられるくらいだが、誰かが住んでいるような建造物があった。だが、その建造物は俺が最後に見た建造物とは素材、造りが大きく異なっていることが遠目からでも見て取れた。

そのほかにも周囲の変化を観察していると、何かの足音が聞こえてくる。

(ここに住んでいる奴らか……こんな厳重に保管してあったことということは、秘密にしておきたかったのか?)

とりあえず俺は近くにあった家の陰に隠れる。あたりが比較的見渡せるようになっている村だがそれでも調べようとしなければバレない程度に隠れられる場所はある。

俺が隠れてからあまり経たずして、足音の主は到着した。

(人数は3人、大方ドアを破壊したときの音で来たんだろう。……全員甲冑を着てて顔が見えねぇから種族がわからない)

俺の時代では世界に4種族が存在していて、どの種族も、隠さなければ見た目だけで種族がわかる特徴を有している。ここがどこだか分からない以上、彼らの種族を知ることはここがどの種族の生活範囲なのかを知ることができる唯一の方法だった。

その三人のうちの一人、おそらくリーダー的存在であろう騎士は倉庫の扉が破壊されていることを確認すると他の二人に指示を出す。

「まだここにいる可能性が高い。周辺をくまなく探し捕獲しろ。相手は腐っても魔族だ、油断はするなよ」

「「了解」」

三人は頷き、散開する。どうやら俺を探し出そうとしているらしいが、残念だがそれは叶わないことだ。俺はここから逃げる。ここがどの種族の生活範囲なのかは知りたいところだが、今の状況では、それは優先順位の低いことだ。今優先すべきは捕まらないようにすることで、見つからないよう逃げることはこのことに関して、最善と言えるだろう。

 俺は背中から魔族の象徴の一つである黒い翼を出し、空を飛ぶ。彼らがもし魔族なら翼を出せるかもしれないが、彼らが甲冑を着ていることから翼を出すのにはそうとうの時間がかかるはずだし、それでも追いつかれそうになったら俺の能力で翼を強化をすれば追いつくのはほぼ不可能だ。

(さて、問題はこれからだ。4000年もの間眠っていたから確実に俺の知り合いは死んでるだろうな。……まぁ、どっちにしろ頼る気は毛頭ないがな)

俺の口が無意識に「はっ」とつぶやく。

(ともかく、気配がなさそうな場所で一回降りるか。このまま飛んでいても体力が尽きるのは目に見えてるし、何より誰かに発見されることはなるべく避けたいからな)

その条件にあてはまるような場所は飛んでいるとすぐ見つかった。

そこは森の中で、その周辺に気配は感じられないが、それは情報源がないのと同義だ。

だが、今優先すべきは魔力や体の感覚の回復だ。この二つが眠っていたせいでほとんど無いに等しい。4000年でこの世界に平和になったかもしれないが、持っているに越したことはないだろう。

(とりあえず、ここの地理を出来るだけ把握しよう)

俺は歩を進める。



この世界が、4000年の中でどう変化したのかを知るために。

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