第二十六話「昼休憩」
楽しんで頂ければ幸いです。
――キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを告げる鐘が鳴った。今は四校時目が終わり、昼休憩の時間だ。三校時目と四校時目は主に食事に関してのマナーの授業だった。貴族みたいな上品さや優雅さを求めるモノではなく、周りを不快にさせない程度の最低限のマナーを習った。
「いやぁ、疲れた。マナーなんて意識すると肩がこるんだよなぁ」
「なんてこと無いわよ。むしろあれくらいなら日常から意識しておくべきよ」
なんて言ってくるのはシルフィードだ。貴族のマナーに慣れたシルフィードならこの程度のマナーは逆立ちしてても造作もないだろう。
……いや、逆立ちしちゃったらマナー違反か。
「そりゃ、シルフィードは貴族だったからなぁ。ごく普通の一般市民である俺にはキツいよ……」
「まぁ、まだ時間はあるんだからゆっくり身につけていけばいいわよ。昼休憩が終わる前に昼ご飯を食べましょう」
「そうだな。そうしよう」
この学校には食堂があり、殆どの生徒はそこを利用して食事をするらしい。授業のときに言われた。ちなみに食事は全て無料だそうだ。その代わり、マナーの授業を担当している教師が数人、食堂に立って生徒のマナーを見ているらしい。
……気が重くなってきた。全く食堂に足を運ぶ気が起きない。腹は減ったんだが食堂で食事がしたくない……。
そんなことを考えていると……
「あのね……お弁当を作ってきたの……食べる?」
若干恥じらいながらシルフィードがそう聞いてきた。嗚呼シルフィード。貴女が神か……
「勿論! ありがとう。正直食堂行きたくなかったから助かる」
「あら、そういえば食堂にいけばマナーの先生が居るんだったわ。風人の為にも食堂に行きましょうか」
そう言って彼女は弁当を仕舞おうとした。そんなぁ……
「フフ、冗談よ。そんな顔しないの」
冗談だったようだ。
そんな会話を経て弁当タイムだ。さっそく蓋を開けてみると俺の頭部は全て弁当に支配されてしまった。彩の良さを兼ね備えながら食欲を刺激される盛り付けに目を奪われ、食欲を刺激する良い香りに鼻を奪われ、脳はそれを咀嚼し胃に入れる事しか考えられなくなってしまった。いただきます、と挨拶し急いで一口目を放り込んだ。その食材は噛むと子気味いい音を出した。耳はその音に釘付けだ。その音を聴けるというだけで感動すら覚える。舌で味を感じるとその食材の旨味、そして調味料の甘辛い味。二つが完璧に融合した味だった。その味をコンマ一秒でも長く感じていたいと思わせる程、美味い。まさに神がかった味だ。舌はもうそれを感じることしか出来なくなってしまった。唾液を分泌し、それを分解してしまうことすら惜しく思える。が、噛んでいると次第に喉を通り過ぎ、舌からは消え去ってしまった。
「う……美味ぇぇぇぇぇぇ……」
気が付くと俺は一言、言葉を呟き涙を流していた。
「きんぴらごぼう一つでなんで泣いてるの……」
シルフィードは俺を見て呆れていた。
味の描写に凄く拘ってみました。僕は趣味で料理をするのですが、なかなか味を文で表すっていうのは難しいですね。
シルフィードのキャラ的にメシマズ属性でも良かったのですが、理想のヒロインを貫きたかったのでメシウマ系ヒロインにしました。
次回もお楽しみに。




