夜会3
◇裏事情
起きるタイミング逃した~!
まあ、いいや。
もしかしたらこんなにも変わってしまった”物語”の秘密を知ることができるかもしれない。
「お前がレイス家のパーティーに参加するとはな」
「ここに来れば、兄上を捕まえられると情報を頂きましたのでね」
「さっきまで見なかった」
「令嬢方に付きまとわれたくない兄上はパーティーが終わりかける時間帯にすべり込むでしょう。
余計な令嬢方に目を付けられたくないのは私も同じですし、私の主目的はなかなか帰ってこない上、連絡もろくによこさない兄に会うことですから。
ところで……」
と、そこで曲が終わった。
次の曲が始まったのを確認して、ぐっと声を落として、
「アレス・ラハードは信用できる男でしたか?」
会話のタイミングを計れるところが、ウォーターフィールドやラインハルトとは違う。
「遠目に見ただけだ。レイに確認したところによると、人嫌いではあるが、先祖から預かった土地を無事次代に繋げたいとは思っているらしい。 あの件は簡単に尻尾を出さなかったが」
「まあ、ルビアの話が本当なら、魔女扱いされて一族もろとも消されても不思議ではないですが」
「しっ。めったなことを言うな」
「数百年の恩讐がより良き未来に繋がってくれればと思いますが」
「まあ、そうだな」
「で、兄上の恋人は会場に連れて来ていないのですか?」
「恋人?」
こ、恋人?
ゲームの中では婚約者も恋人もいなかったはずだ。
「ラインハルト殿から聞いていますよ。
このままじゃ票数を集められないから、兄を助けるつもりがあるのなら、レイス家に優しい圧力をかけてくれって」
「はあ? あいつ勝手にばらしやがったのか」
「ジェムリア山脈の地質調査をしたい人がいるそうです。ウエストレペンスはすでに許可を下ろしているとか。 良かったですね優しいご友人がいて」
「……」
アズライトの口からわずかに笑い声が漏れる。
ルチルのほうは何も言い返せないようだ。
レイス家の出身なら、実際に爵位を持っていなくても貴族とほぼ同等の扱いを受ける。
優秀な平民を弟子や養子にと、一族に引き入れているから、貴賎結婚の穴を埋めるために利用する貴族もいる。
ゲームでも、レイス家がライラを養女に迎えて、貴族に準ずる地位を与えるというくだりがあったはずだ。
ただ無秩序になんでもかんでも受け入れるわけではなく、探究心の強い学者向きな人がなんらかの審査の末、一族に迎えられる。
「まあ、シャムロー・レイスが養子ではなく実子であれば票数集めも楽なんですがね。
ラインハルト殿は若すぎて、実績がない。
彼としてもさすがに年上の女性を養子に迎えるわけにはいかないでしょうし……。
別に山をそっくりひっくり返すわけではないのでしょうから、兄上が本気なら許可を下ろしてもかまいませんよ」
だが、話を聞く限り、多少の裏工作は可能なようだ。
ゲームでもこういう地道な裏工作をヒロインの知らないところでやっていたのかもしれない。
しかし、ルチルは弟の提案に投げやりに返した。
「余計な気を回さなくてもいいよ。相手にされていないから」
「そうですか?」
そこで会話は一段落着いたようで、彼らはこの場を離れた。
そんなこんなで、謎の解明どころか、さらに謎が増えてしまったのである。
「結局寝ている間にパーティー終わっちゃったわね」
◇
「ですから、ウエストレペンス伯爵の名前がアレス・ラハードです」
「つまりは?」
はて、ウエストレペンスって確か……
「ナイラ様が会ったのは、ライラ様の婚約者の弟ですよ。なんで勝手に接触したのですか?」
「弟があんなイケメンイケボイスなら兄のほうも相当期待できるわね」
「工作がばれますと、伯爵の気性からして、ライラ様に危害を加えられる可能性があります。
あちらは貴族でこちらは庶民。多少のことはお咎めなしになってしまいます。
余計なことをせずにおとなしく――。 聞いていますか?」
「あのバカ妹ぉ。ちゃんと夫の兄弟に美形がいるって伝えときなさいよ!」
「手紙を読んでいないのはナイラ様でしょう」
読んでも箇条書きの手紙には客観的な特徴しか書かれておらず、美醜の個人的な感想はほとんど書かれていないのだが。
「よし、この目で確認するわよ!」
「でも、学校がありますし。夏休みには修学旅行が……」
「ふ。私の計画に抜かりはないわ。修学旅行はウエストレペンスよ! 」
修学旅行というよりも学校を挙げた避暑で参加も自由。
『修学旅行のご案内』には避暑地が二つと欠席の枠。
ゲームでは『山』、『湖』、『参加しない』の三択が現れていた。
行き先は、山は『ジェムリア山脈 (ウエストレペンス)』、湖は『ウォーターフィールド湖』だ。
これからさらに個別イベの選択があるわけだ。
『参加しない』は、好感度にはほとんど影響を与えないが、お忍び中の第一王子に出会い、町を案内するというイベントが。
第一王子とのイベもおいしいが、攻略できないことがわかっているのに第一王子を選ぶのも不毛だ。
それに、イベ消化のついでに妹のシンデレラな姿を笑ってやろうと思っていたのだ。
「その頃には二ヶ月の期限がー」
「レイ・ラハード様に 私が行くまで待っていてね」
レイ・ラハードがはずれだった場合はうまくルルナを排除して、第二王子にそっくりな人と結婚すればいいだけの話だ。
レイ・ラハード……ナイラの妹の夫。イリア・ラハードの兄。ラインハルト、ルチルとは友人同士。
ウエストレペンスに在住。ウエストレペンス学院在籍。
ラインハルト・レイス……レイス家の次期当主(予定)。レイ、ルチルとは友人同士。
ウエストレペンスに在住。ウエストレペンス学院在籍。
ルチル・ベリルシュタイン……ベリルシュタイン家次期当主。レイ、ラインハルトとは友人同士。
ウエストレペンスに在住。ウエストレペンス学院在籍。
アズライト・ベリルシュタイン……ルチルの弟。アルミナの夫。ベリルシュタイン当主代理。
留守にしがちな父と兄の代わりに領を守っている。ボイスはルチルと同じ声優さん。
ルビア……?