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夜会1(六月中旬)

 攻略対象が少ない上、アルミがいないおかげで、夜会に出席するのも一苦労だし、イベントも発生しないしで、なかなか攻略が進んでいない。 


妹のライラは夫の薦めで学園に入学したようだ。

 ねたが尽きたのか、最近は特にお土産は送られてこない。


 どうせ、障害物がいないのなら、色んな男と仲良くしてみたい。


 緑髪とはおさらばして次は水色の髪の伯爵だ。


 有名な男爵家、レイス家の人が叙勲を受けたとかで開かれた夜会にウォーターフィールドと訪れた。


 うまくいけば、攻略対象のラインハルト・レイスがいるかもしれない。

 ラインハルトはちょっと電波系で、仙人のようなところのある。

 彼が見る世界を肯定しつつ、いかに現実の世界に目を向けさせるかが、攻略のポイントになる。

  ちなみにルルナの義理の兄に当たる。


「っえ!?」


 レイス家の夜会で私は彼女を見つけた。


「ええっ!?」


「どうしたんだ?」


 人を指差すなんて、そんな失礼なことは普段しないが、私がぷるぷる震える指をさした先にはルルナと第二王子がいた。


「ああ、死霊王子か」


 ウォーターフィールドは、蔑むような目を彼らに向ける。 


 死霊王子というのは御伽噺に出る幽霊で、前王はその死霊王子に取り付かれて狂ったそうだ。


「アレス・ラハードの息子とそのパートナーだ」


「今なんつった?」

「え?」


 『ラハード様』って言ったら、『鮮血のジェムリア』のメインヒーローではないか。


 第二王子にそっくりな顔でなおかつ『鮮血のジェムリア』のメインヒーローと同じ名前。


「アレス・ラハードの子息は二人いるが、パートナーの方が有名だな。 

 スズ・ハニーボックス。平民出身だそうだ」


 蜂蜜色の髪とヘーゼルの瞳の少女。


 ルルナの容姿は確かに美しいが、元の世界ではありえないこの美形率の中では、さほど派手には見えない。

 特に、シャンデリアの明かりの元では、髪は平凡な茶色に見える。

 今は容姿よりも、サーモンピンクのドレスのほうが目立っている。


「こんな夜会にはいつも本物の薔薇に埋もれたドレスで出席するそうだが、今日はまともなドレスを着ているな」


 つまりは歩く菊人形? それは一度見てみたいものだわ。


「王子様のほうは?」


「俺も詳しくは知らないが、双子だそうだ。こういう集まりにはどちらか都合がつく方が婚約者と共に出ているようだ」


 名が違うわ、仲良さげだわ、どういうこと?


 何で、死んでいるはずの第二王子がここにいて、こちらを凝視しているのかしら。


 こ、これはヒロイン補正で一目で私のこと好きになったとか? 


 いやいやいや。なぜ、いないはずの裏ボスと攻略キャラクターがここに居るのか。

 それも仲良く寄り添っているんだ?


 悔しくて悔しくて……って悔しがっている場合じゃない。


 なんとしてもお近づきにならないと。


「彼らに興味があるのか?」


「ええ、本物(・・の死霊王子に呪われてみたいわね」 


 上目遣いにウォーターフィールドを見て、ついでに彼の腕に絡めている手に少しだけ力を入れると彼は気を良くして第二王子(仮)とルルナ(仮)のほうに近づいてくれた。


「死霊王子が私の花に何か御用かな? それに婚約者殿はいつもの奇抜なドレスではないようだが」 


婚約者(・・・)殿に不躾な視線を向けてしまい申し訳ありません。

 親戚のお祝い事に商売を持ち出すのもどうかと思いまして」


 答えたルルナはにこっと邪気を含んだ笑みを浮かべる。


 ウォーターフィールドは、肯定も否定もできずに顔を怒りと羞恥で赤く染める。


 ……この女、ウォーターフィールドに婚約者がいることを知っていた上で、わざと私を婚約者と呼んだのだ。


 いやいや、ルルナにかまっている場合ではない。

 私は死霊王子に顔を向けた。


「お名前をお聞きしてよろしいでしょうか?」


「名を名乗るほどの者ではありませんが、レイス家の遠縁の者です」


 うぉ。甘いキャラクターボイスに心臓が打ち抜かれた。

 カル様がこの私に話しかけてくれる。


 でも、これは私が名乗らないのなら、向こうも名乗るつもりがないということだろう。


 しかし、婚約者と勘違いされた(・・・・・・)状態で、公然と名乗るのはさすがにまずい。


 今も貴婦人方が扇で口元を隠しながらひそひそと成り行きを見守って――楽しんでいる。


 隣のウォーターフィールドがどんな表情していても、気にならない。

 こんな人目のあるところで、私のことをわざわざ「私の花」って言ったあなたが悪いのでしょう。


 ちょっとでも、カル様のそのすばらしいボイスを聞きたくて、質問をひねり出す。


「その双子とお聞きしましたが」


「年子なだけで双子というわけではないですよ」


 だが、答えたのはルルナだった。

 お美しい声を聞きたいのに、なんでアンタが答えるのよ。

 彼女は笑みを湛えたまま、私に問いかけた。 


「一つお聞きしたいのですが、ご親戚にあなたのような黒髪に紫色の瞳の女性はいらっしゃいますか?」


「ええ。私の故郷では黒髪は珍しくありませんので」 


 紫の瞳はバルバスであっても結構珍しいけれど。


 と、私とルルナのやり取りを穏やかに眺めていた第二王子(仮)の穏やかな表情が一変し、硬い表情になる。

 その凛々しいお顔も素敵だわ。


 そう思って、彼が気にしている方を見る。


 ぴりっとした雰囲気が流れる中、私は場違いな黄色い声を上げそうになる。

 きゃーっ。本当の本当に攻略不可能キャラの第一王子がこちらを見つめている。


 ウォーターフィールドなどは完全に固まっている。


 と、私たちの輪の中に唐突に人が一人入り込んで来た。


「肉食べる?」


「えっと、ラインハルト? 」 

「うん」


 ラインハルト・レイス。茶色の髪に青の瞳の攻略対象な彼は、どこかぼんやりした表情で頷く。

 ルルナはラインハルトに軽く頭を下げる。 

 その対応は知り合いであるが、大して親しくもしていない他人行儀な挨拶だ。

 間違っても兄妹の態度ではない。

 ラインハルトはルルナの礼に特に何の反応も示さず、第一王子からの視線をさえぎるように立つと私のほうを向いた。


「ん?」


 ラインハルトが少し考える様子でじっとこちらを……私を見つめている。

 この世界の神様、私にヒロイン補正を付けてくれてありがとう!!


「違いますよ」


 せっかくの攻略対象との感動の出会いをまたルルナが邪魔する。


「ん。髪型と"色"が違う。ルチルはまだ来ていないみたい。肉おいしいよ?」


 ラインハルトが、くいくいと第二王子の服をひっぱる。 


「初めて会ったときは普通に話していたのに、なんでそんなぶつ切りなんだ」


「人に憑いているモノがいっぱい。たまに入ってこようとする。気力使う。あっちは死霊王子はじめラハードの祖霊が土地を守っている」


「え?」

 

 ゲームで、ラインハルトから聞いた話では、確か死霊王子は悪霊化していたはずなんだけれど。 


「ふーん。そうなんだ」


 内容が多少不気味だったため、第二王子とルルナは苦笑いであいまいに相槌を打つ。

  

 ウォーターフィールドはあからさまに気味の悪いものを見るような目をラインハルトに向けているけれど。


 私はまったく気味悪くない。だって一度死んでいる以上は、幽霊になっているはずなんだから。

 幽霊期間のことなんて覚えていないけれど。


「ああ、ウォーターフィールド殿。本日のパートナーは彼女なのですね」


 衆目の前で、ラインハルトは無表情で特に声を落とすこともなく言った。

 ちょうど曲と曲の合間だったのがいけなかった。

 騒ぎに目を向けていた付近の人々の耳にその言葉はしっかり届いたようだ。


 貴婦人方が扇で口元を隠しながら、ひそひそと囁き合う。

 二度も婚約者に対する不義理を暗に責められたウォーターフィールドは瞬時に顔を怒りに染めた。

 (ラインハルトは事実を言っただけで、責めているわけでは無いんだろうけれど)


 だが、たかが男爵家とはいえ、ホスト側の人間の胸倉を掴むわけにはいかない。 

 結局、口の中で不満をもごもご言うだけに留めた。


「まったくなんだとー」


「肉あっち。僕、男の子と女の子が困っていたら、女の子のほうを助けるように習ったから。仕事してくる」


 わけのわからないことを言ってラインハルトはきびすを返し、指差した方向と逆の方向にてけてけ早足で歩いていった。その先には……


 ああ、ウォーターフィールドの婚約者だ。

 確か名前は、プリ……なんとかと言ったっけ。


 婚約者が私と腕を組んでいるところを見て呆然としているようだ。


 ラインハルトは相変わらずぽやんとした顔だが、女の子の涙を指先で優しく拭いて、にこっと微笑む。


 と女の子は頬をもみじ色に染め、そこに彼が何事か囁く。

 彼女は頬を染めたまま、こくりとうなづいてラインハルトの手を取った。


 一連の動作を見ていたウォーターフィールドが、顔を真っ赤にして、大またで婚約者のほうに近づいていった。


 パートナーが大幅に遅刻するなど、不測の事態の時にはホスト側が代わりを務めることはある。


 なのに、ウォーターフィールドは踊っている最中の婚約者の肩を強引に抑えた上、振り向いた彼女を怒鳴り散らしている。


 ラインハルトはホスト側の人間として修羅場の芽を潰そうとしているのに、わざわざウォーターフィールドが修羅場をさらに大きくしてどうする。


 そしてラインハルトから婚約者を取り返したウォーターフィールドは怒った顔のまま彼女を引きずるように踊り始めた。

 そのさまを見ていたラインハルトはウォーターフィールドの態度に眉をひそめたが、何も言わずに壁に退いた。


 ウォーターフィールドも婚約者とのダンスを奪われて怒るくらいなら、他の女と先に踊らなきゃいいのに。


 おいていきぼりを食らってしまった。

 ウォーターフィールドが帰ってくるのを待っている義理はないし、ルルナと第二王子(仮)も目を離した隙に肉のほうに行ってしまった。 他の物件を物色しようかな。



 この日の出来事で『プリムラのほうが浮気した』とか変な噂が流れて(流したのはウォーターフィールド側の人間なんだろうけれど)、結局、ラインハルトが責任を取らされることになった。


 まあ、ラインハルトは反論とか面倒くさそうだし、頷くことも否定することもないまま放置したのだろう。


 私の代わりにラインハルトルートに突入したのはウォーターフィールドの婚約者だったようだ。


ラインハルト・レイス……学者の家系『レイス家』に生まれるが、未だ自分の進むべき道が見えないでいる。幽霊が見える。

ゲームでは義妹を心配する『お兄ちゃん』。

実はヒロイン達よりか一つ年下だが、義妹が心配で飛び級で入学。


スズ・ハニーボックス……ラハード家次男の婚約者。

パーティー等では、地元の産業を宣伝するため、薔薇のドレスを着る。

『ピースオブレペンス』のラインハルト・レイスの義妹ルルナとそっくりの少女。


ラハード(弟)……ラハード家次男。金髪碧眼。

『ピースオブレペンス』の第二王子と姿がそっくりな伯爵令息。


プリムラ・コーニッシュ……ウォーターフィールドの婚約者。ストロベリーブロンド。


ウォーターフィールド……辺境伯の息子。大きな湖がある国境付近の領地が実家。全体的に水色。 





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