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砂時計 (六月上旬)

 薔薇の花が咲き乱れる五月の下旬、思ったより早く、妹は旅立っていった。


 何でも、ウエストレペンスは薔薇の名所だそうで、できればウエストレペンスが一番綺麗な時期に嫁いで欲しいと相手方の要望だったそうだ。

 こちらとしても相手方の気が変わらない内にさっさと相手に首輪を付けておきたい。


 なんせウエストレペンスと言ったら、今や有名な避暑地。


 貴族の結婚は距離の関係で花嫁側の親族は式に出席しないことが多いのだが、別に遠い国に嫁ぐわけではない。王都からさほど離れてもいない、村や町を二つ三つ越えた先の伯爵領に嫁いだのだ。

 伯爵家から我が家に招待状が送られてきたが、家族の誰一人出向くことは無かった。

 

 民への正式な披露目は、伯爵家の次男の結婚と同時に行うらしいので、その頃に正式な婚姻届を出すことになった。

 なので、今の妹の状態は婚約というほうが近いかもしれない。


 結局、慶事を聞きつけた領民が勝手に盛り上がったそうだが。


 妹とは、その婚約期間中に入れ代わる。一応、七月末までに入れ代わるとは言ってある。

 

二ヶ月間は次期伯爵に他の女性を寄せ付けずに済むのは、タルジェ家にとって有利なことだ。

二ヶ月の間に入れ替わってしまえば、道義的には問題があるにしても、法的には文書偽造の罪をわざわざ犯さなくても済む。

 

 私が、そこそこの男をゲットできれば、妹はそのまま『ナイラ』としてウエストレペンスの子息と結婚すればいい。 


 妹が一生騙し通す根性がなければ、残念だけれどウエストレペンス側から婚約を破棄するように仕向ける必要がある。


 二ヶ月間、ウエストレペンスが簡単に婚約を破棄できないように、それなりの持参金を渡しているので、通常なら、ウエストレペンス側から婚約破棄するのは難しい。

 だが、”ウエストレペンス側の不祥事”で婚約破棄となれば、持参金が二倍になって返ってくる。


 例えば、ライラの婚約者の浮気の噂とか……。

 そこらへんは、父がうまく工作してくれるだろう。


「でも、なかなかうまくいかないわね」


 攻略方法知っているから簡単だと思っていたけれど、思ったよりも攻略速度が遅い。

 攻略対象もなかなか出会わないどころか、いないし。


「はあー」



 妹からは律儀に三日おきに手紙が送られてくる。

 頼んだのは私だけれど、面倒くさい。


「折りをみて入れ代わられるのでしたら、読まれたほうが」


「やーよ。つまらない」


 毎日、料理や掃除をしたとか……使用人扱いって、笑えるわ。


 薔薇が売りだというだけ有って、毎回薔薇の香水やら、アロマオイルやら石鹸やらを贈りつけてくる。 この便箋だって薔薇の香りの花漉き和紙だし。


 今回は、宝石の欠片を砂代わりにした砂時計、それをトップに付けたペンダントだ。

 砂時計としての機能は皆無だけれど、傾けると赤い石のかけらがきらきらと落ちていく。


「ルビーかしら」


 綺麗だけど、屑石だから宝石としての価値は無いだろう。


 『レイ様に買ってもらいました。私のとおそろいです』


 いつも業務報告に近い箇条書きなのに短い文面からは、どこか表情が見えそうだ。それでも霧に半分隠れているようだけれど。 


 さて、これからどうしよう。

 公爵の長男が狙いどころなんだけれど、学園ではドリルが邪魔して近づくことさえままならない。


 うーん。伯爵の一人はいないし、『鮮血のジェムリア』の一番人気『ラハード様』は結局出ていないのよね。


ついでに、私の学園でのサポート役のアルミまでいないし。

 話しかけると、○○君は△△で見かけたよ、とか教えてくれたり、ただの商家の娘では手に入らない貴族のパーティーの招待状を渡してくれたり。


 まあ、いても夏休み明けには消えるからほとんど役に立たないんだけれど。


 分かっていたけれど、王子がいないなんて、魅力に欠ける。

 第二王子がダメなら、第一王子にすれば良いんじゃないかってところだけれど、三つも年上だと卒業しているのよねぇ。

◇アルミナ・コランダム……ゲームでのヒロインの友人。

 『ピースオブレペンス』攻略最難関キャラクター、アズライト・ベリルシュタインの婚約者。

 コランダム家はベリルシュタイン家の分家にあたる。


◇結婚制度


貴族……神前報告と婚姻届提出を同時に行う者がほとんど。


庶民……結婚税が高かった時期があり、勝手にそこらの祠の前で式を上げて、役所への報告をしない人が多い。今の結婚税は事務手数料程度だけれど、面倒がって出さない人がいる。


貴族が神前報告のみで婚姻届を提出をしない、提出時期をずらすのは評判を考えるとあまりよくない。

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