鮮血のレペンス(IF)
ゲームのバッドエンド。ルルナ視点。
「綺麗な朝日」
ああ、今日が卒業式だ。
王城のすぐ近くということもあり、毎年陛下たちも出席になる。
今年は第二王子が卒業するのだ。
◇
「お前との婚約を破棄する!」
第二王子の言葉に金髪縦ロールが呆然としている。
「……様おやめください。」
ライラが第二王子を止めに入る。
「教科書の落書き、階段からの突き落とし……」
「ですが、決まったわけでは……」
「庇わなくてもいいと、言っているだろう!」
呆然としていた縦ロールはきりっとつり目でライラを見る。
「ええ、全くその通りですわ。あなたなどに庇われるいわれはございません」
もう良く耐えていたと思うよ。王子がでしゃばって余計に話をこじれさせちゃって……
「証拠はー」
私はばらばらに配置した彼らに合図を送る。
少々手はずが狂ってしまったが、些細なことだ。
転がった運命は誰にも止められない。
「お前のやったことはれっきとした犯っ!?」
ぴたりと第二王子の言葉が不自然に止まる。
「大人しくしてくださいな」
一歩。
「私はあなた達に断罪いたします」
もう一歩。歩み出る。
「はじめまして、国王陛下。
ルルナ・ウエストレペンスです。最も仮の名ですが。父は本当の名前を母に伝える前にあなた方に殺されてしまいましたから」
「……ウエストレペンス」
国王は私に強い視線を寄越す。
「ええ。私の父と母は貧しいながらも平和に暮らしておりましたのに、死霊王子の子孫で国に災いが降りかかるから? 一人残らず殺せ? 」
その命令で祖父母が住んでた家は焼き払われ、叔父もおばも従兄弟たちも、すべて殺された。
「婚約者がいながら、恋人を奪った第二王子を恨んでいた者たちに、どちらの王子も前王の再来になる。私が正当な女王となるのを手伝ってくれないかと言いましたら、皆様快く協力してくれました」
私の義兄ラインハルトも目を覚まして、私の父母や親戚を理不尽に殺した王家への恨みを思い出してくれた。
宰相の息子も前王の再来と危ぶんで、王子の排斥に協力してくれた。
ルチルのベリルシュタイン家もイーストレペンス王家に領地のほとんどを削り盗られた恨みがある。ウエストレペンスから賜った家名を変えなかった、ただそれだけの理由で、だ。
本当のところ今日を無事に迎えられるとは思っていなかった。
宰相たちは特に慌てた様子もない。最も、彼らには彼らの目的があるだろう。
計画が宰相に漏れなかったのか、息子の報告を宰相が見過ごしたのか。
まあ、百年も経たずに馬鹿王子が二人も生まれてしまったら、右左の大臣も国の『顔』の挿げ替えを黙認せざる得なかったのかもしれない。
この反乱が成功するのはほんの一瞬。 王族が揃う今この時。
第二王子はきょときょと周りを見渡す。第一王子は犯人を捜そうとしているようだけれど……。
一歩も動けない。でも、犯人は誰か分からない。
私の協力者は刃物を持っているわけでも、王族を縛っているわけでもない。
「殺したのは前王だ」
「あの時は王位継承の順番が揺らいでいる時でしたわね。国民の不安が高まっている時でした。そんな折に現れた死霊王子の末裔はさぞかし邪魔でしたでしょう。祖父母をはじめ、貴族であるはずのレイス家のシリウス様までなんの裁判もなく断頭台に送られました」
死霊王子は遠い昔にこの国の姫を喰らい、数十年前に前王を呪ったのだという。
以来、前王は姫の代わりと称して自分の気に入った女を置き、全く政治に関わらなくなった。
その上、前王は王妃の子ではなく、自分のお気に入りの女が産んだ子(現第二王子)を跡継ぎにしようとして、当時の第一王子(現王)を自分の子ではないと引き摺り下ろそうとした。
そして、死霊王子の影に始終怯えていた前王は死霊王子の疑いのある人物を殺す『死霊王子死滅法』を作った。
王を諌めるべき大臣達は、当時はまだ赤子だった現第二王子擁立派と暗殺派の真っ二つに割れたらしい。
貴族でも簡単に断頭台に送れる悪法は本来は通るはずがないのに、互いの勢力を削るために第一王子(現王)が国境視察に行っている間に通してしまった。
そして、死霊王子の研究をしていた貴族であり歴史学者のシリウス・レイスが殺され、彼の手記や資料から母の一族が死霊王子の子孫であることがわかり、一族は私を宿していた母を残して殺された。
大昔の亡霊の生き残りであると同時にイーストレペンスの血を引き、あの本を所有している私たちは十分に有用な、もしくは邪魔な駒だったろう。
あのときに見つかりさえしなければ、毒にも薬にもならずに静かに暮らせたのに。
「捕らえよ」
しかし、王の命令にこの場にいる誰もが動けなかった。
スキャンダルにまみれていた王家を立て直した国王。
母は『王家を恨まないで。あの時よりずっと良くなっているのだから』、と何度も言い聞かせた。
最初に捕らえられたシリウス・レイスは私の遠い親類で騒動の発端となった男だ。私の祖父の友人であり、義理の祖父の弟だった。
悪法施行から数日後、予定より早くに王都に戻った第一王子が王から王位を剥奪し、幽閉した。
国民は新たな王の時代に歓喜したという。
でも、レイス家は知っていた。新王は『死霊王子法』の施行直前に帰っていたのに、不安要素であるシリウスや私たち、政敵を消すために数日だけその法律を施行を見過ごしたことを。
そして現国王は更なる政治的混乱を恐れて、王子二人を記録上は自分の子とし、明確な順番をつけた。
悪法の罪は全部、前王になすりつけ、自分は英雄、慈悲深き王となったのだ。
ほとぼりが冷めたころ私たち親子をレイス家に迎えてくださった義父は母にいくつかの本を渡した。
教師だった祖父の遺品とシリウス・レイスの手記の写し。 シリウス・レイスはウエストレペンス史、特に死霊王子について研究し、一冊の手記にまとめていた。
まるで数百年前の出来事を見てきたような手記だった。
その手記の中には王家にとって不都合な事柄も当然のごとく含まれていた。
そして、即位直前の現王の関所の通過記録。行程の半分も進まずに引き返し、シリウス・レイスの処刑前日には王都に十分戻れていた。
祖父の遺品から出てきた魔法の書。女の私では使えないけれど、私の協力者は三人とも契約できた。
世界に一つっきりの契約の書はもう燃やした。
私が彼らに殺されるとしても、
「お義兄様。……いえ、おじい様。復讐を果たしましょう。」
お義兄様と同化したおじい様がぼそぼそと口を動かす。
真っ黒な泥が床一面に広がる。卒業式に出席していた人たちを捕らえようと、泥が這い上がっていく。
「私の父を、叔母を、叔父を、従兄弟を殺した罪、今こそ償いなさい」
母は恨むなと言い遺した。
王族なんて一人残らずいなくなればいいんだ。
世界が真っ赤に染まった。
◇
「今日はレイの婚約者殿が到着する日だろ」
「う~ん。変な夢」
スズは、ベッドから顔を出す。
「難しい顔して、どんな夢見たの?」
そう言った彼の方がよほど難しい顔をしている。
私の婚約者は心配して起こしてくれたのだ。
「ばっかみたい恨み言をあなたにぶちまけて、あなたの首を斬り落とすの」
あれは間違いなくイリアだった。
恨み言の内容は覚えていない。
「そこまで恨まれることやってないはずだが。というか、こんなめでたい日に斬り落とすなんて物騒なことを言うなよ」
「夢の中のことまで文句言われたくないなぁ。聞いたのはそっちでしょ?」
ウエストレペンス城の朝は綺麗だった。
薔薇の甘い香が部屋の中まで入り込んで、嫌な夢の残滓を消し去ってくれた。
次期当主(仮)のイリアはもうすっかり着替えを済ませている。
私もさっさと起きないと。
「ナイラさんだっけ。仲良くなれるといいね」
「ああ」
◇
国王……狂王を幽閉し王となる。第一王子・第二王子の手綱を握れていない。
第一王子……第二王子を嫌っている。未だ立太子できないのは第二王子のせいだと思っている。
第二王子/? ……国王に恩を感じているが、親子・兄弟の情というものは薄い。第一王子との確執。前王に唯一認められた王子と言う事で王太子に押す動きもあるが、彼自身は王位に興味はない。愚痴を穏やかに話を聞いてくれるライラに惹かれる。
マリー・ライト……金髪縦ロール。悪役令嬢。気をきかせすぎる取り巻きとライラと自分の身を守るため、ライラを部下にする。おどおどしているライラにいらだつこともあるが部下としては大切に扱っていた。ある現場を目撃して以降、配下にライラの軍団脱退を伝える。
ライラ・タルジェ……おとなしめの女生徒。ヒロイン。貴族ばかりの学校に入学。 マリーの配下の嫌がらせが激化し、第二王子他に相談。クラスメイトとして悩みを聞いてもらったつもりが、断罪イベントに突入してしまう。
シリウス・レイス……歴史学者で幽霊を見、会話する能力がある。
ルルナ=レイス/?……死霊王子の孫。『ピース・オブ・レペンス』では、父はルルナが生まれる前に死亡。
ラインハルト・レイス……霊媒体質。夏の肝試しイベで死霊王子に取り憑かれる。
死霊王子……ウエストレペンス最期の王子。三百年間死霊王子としてさ迷った末、人間に戻る。『ピース・オブ・レペンス』では処刑される。
契約の書……魔法の素養のある者がその本に触れると契約の文字が浮き上がる。
こっちの世界ではウエストレペンス領は王領のまま。
『楽勝で~』のほうでは、国王が『死霊王子死滅法』(法令名からしてやっつけ感のある名前)施行直前で、王様が先王を幽閉したので死霊王子の一族は無事or天寿を全うしています。契約の書は燃やされることなくアレス→イリアが保管中。




