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楽勝で攻略できると信じていました。  作者: くらげ
第三章 ドールと砂の国
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最初の一歩【ライラ】

前回、ちょっと長くなったのでお話を分けました。



 騒動の翌日、学院医学部の求人掲示板に『医師募集……ベイル村』の紙が新たに張り出された。


 数日後。求人広告をレイが難しい表情で見ていたので尋ねた。


「ベイル村ですか?」


「昔、僕が住んでいたところ」


 レイはそれだけ言うとさっさとその場を離れてしまった。


 彼がその後それを気にかけることはなかったが、それは新しい求人広告が次々捌はけていくなか、いつまでも残っていた。



 それから一ヶ月ほど経ったある日。


 出産を二回も挟んで、遅れに遅れた私の中級課程の修了免状がやっと取れたので、私たちは新生活のために物件を見に行った。

 一人で開業するには不十分だが、レイの手伝いはできる。


「城の修繕が終わるまで住んでいた家がここ」

「立派な家ですね」


 彼が五、六歳ごろにとても短い間住んでいた家だ。


 当然、城や実家の家に比べるべくもないが、薬師ってそんなに儲かるのだろうか? うーんと小さいのだが、風呂も完備されている。


「買ったはいいけれど、城の修繕が思った以上に早く終わったから、今は一部を人に貸している。

ここなら、君の嫁入り道具もそんなに手放さなくて済む」


「まあ、使えるものは使いたいですけれど、家具を全部この家に持ち込めないことはわかっています。この家に備え付けてある分もありますし、ある程度は城に残すかホテルで再利用してもらうか、引き取り手がなかったらバザーにでも回します」


 よく慰問に訪れている孤児院がこの隣にあるので、子供達の元気な声がこの家にも響く。


 この家の管理人が茶を出してくれた。


 レイは「ありがとう。何か困ったことない?」と一言二言、質問している。


 でも、そもそもこの町で開業するのは難しいのではなかろうか。


「うーん。ここは医者が多いから、開業しても顧客を獲得とか無理じゃない?

一応、城のお医者さんの助手の枠は開けてくれているとは言っても……」


 (伯爵夫妻の)持ち家だから、家賃の心配をしなくて済むのは正直ありがたい。

 開業できない場合は縁故になるが、両親の近くのほうが彼も両親も互いに安心だろう。

 姉の言っていたスープの冷めない距離というものだ。


 でも、できれば、医者が溢れているところよりも、医者の足りていないところで役に立ちたい。

 今も学院の食堂にある求人欄の張り紙の中には他の依頼に埋もれた黄ばんだ紙がいくつもある。


「無医村って言ってもなかなか。人口が少なかったら、当然患者も少ないわけで。このウエストレペンスじゃあ、保険制度が導入されているけれど、この町の住人じゃなければたとえ隣村だって割引は受けられない。 彼らはぎりぎりまで我慢する。それに何から何まで自分でやらなきゃならない生活は大変だぞ。侍女を連れて行けるわけじゃない」


 侍女にそこまで付き合わせるつもりはない。


「それは覚悟している……つもり」


 そのために一通りの家事は習った。


「大都市に行けば、大先生って敬われて、一生お金に不自由しない生活が待ってるのに、薬代をまともに払ってもらえるか分からない田舎に行く奴はほとんどいないよ」


 そして、念を押すように付け加えた。


「ここが嫌なら、近くの無医村よりもその無医村にすぐ駆けつけられる小さな町に住むのが現実的だと思うんだ。もちろん同業者の少ないね」


 彼は、やっぱり私があの張り紙を気にかけていたことを知っていたんだ。


「練習だと思って、休みだけでもここで暮らしてみる?」


 ここでの込み入った話は避けたかったのだろう。彼は話題をずらした。


「ええ」


 全部は納得できないけれど、胸のもやもやは薄れ奇妙な高揚感があふれた。

 家族四人の生活の第一歩が始まるのだ。

別に嫁姑問題が勃発しているわけじゃないです。念のため。



ベイル村……ウエストレペンスの隣の村。伯爵夫人の故郷の村。アレス一家が一時期住んでいました。

その後、城の修理が終わるまでの間ウエストレペンス城下で小さな家に移り住んでいました。


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