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楽勝で攻略できると信じていました。  作者: くらげ
第三章 ドールと砂の国
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疑いのハーブ(6年後 春) 【ライラ】

大体6年後。ライラさんの事情。

 

 「ライラ様お茶運びお願いしていいですか?」

 「はい」


  芋の皮むきをしていたら、私の料理指導係のキッチンメイドさんにお願いされた。

  

 この城は常に人手が足りていない。客人が来れば、手の()いている者がお茶を運ぶ。

 

 いい職場だとは思うが、若い女性の離職率が高いのだ。

 アレス様は昔よりも女嫌いがましになったらしいが、新しい若い女性が入ってくると射殺さんばかりの目を反射的に向けてしまう癖は抜けていない。

 まあ、三回も顔を見れば、アレス様も慣れるので、その後は長く勤めてくれる人は多いのだが。

 

 ついでに繁忙期の今は城の人たちもホテル側の手伝いに借り出されている。

 私も毎年この時期は芋剥きやら城内案内やらできることは何でもお手伝いしている。

 

 私はエプロンを脱いで、慣れた手つきで応接室に紅茶を運んだ。




「お医者さんね。跡を継がせる者がいないんですって」


 そんな声が漏れ聞こえた。

 静かに扉を開けた。

 

「ライラちゃん新年会ぶり~」


「あの……」


 誰だっただろう。アレス様やイリーナ様と同年代の女性だ。アレス様の故郷の村の新年会で毎年見かける……。

 アレス様の姉妹だろうがイリーナ様とイリア様が応対に当たっている。アレス様がいない。


「私、アレスの姉よ。忘れちゃった?」


「し、失礼しました。えーっとローズさん?」


「それは、スズの母親でアレスの妹。私はロゼッタ。シャムローさんの実の弟に嫁いだ方」


 えー、はい。長女さんのロゼッタさんですね。

 アレス様は五人兄弟で、しかも名前が似たり寄ったりで少し覚えにくい。


「たびたび失礼しました」

「いいのいいの。ところで医者の試験合格したらしいわね。おめでとう」


「あの、受かったといっても中級で。ありがとうございます」


 イリア様は目で私に退室を促す。


「どうかしらー―」


 ロゼッタさんが何かを話すよりも早くイリア様の言葉が塗りつぶした。


「ベイル村の件ですが、依頼は承りました。通常通り、医学部の求人掲示板に張り出します。 ただ、ご存知のとおりあくまで決めるのは学生達です。こちらから強要・割り振りはしません」


 ずいぶん、硬い声だ。砂を噛んだような。


 それ以上深入りすることはあきらめて、礼をして応接室を出た。


 イリア様は次期当主だから良いとして、アレス様が席に着かず、イリーナ様が対応に当たっている。

 アレス様がいくら女嫌いだからと公言していても、久々に会いに来た姉に顔も見せないとは。 


 イリア様は険のある顔を隠しもしなかった。


 ベイル村はウエストレペンスの隣の村だ。でもそれ以外にも確か、どこかでその名を聞いた。


 いつまでも廊下でぼーっとしているわけにはいかない。

 すぐに厨房に無事にお茶を出せたことを報告しに戻った。



 厨房に戻ったら、キッチンメイドの一人が仕上げにハーブの粉をスープにぱらぱら落としているのが目に付いた。


「このハーブ、変わっていますね」


 急に声をかけられたメイドは目を白黒させたが、すぐにっくり微笑んだ。


「ええ、胃を整えるそうですよ」


「ちょっと分けてもらえます?」



「ちょっと変わったハーブだから、もらってきちゃった。胃を整えるんですって」


 部屋に戻って、ハーブをレイに見せた。


「これ、誰の皿に入れていた?」


 レイは険しい顔で薄茶色の粉末状のハーブを見た。


「誰って……たぶん私たち以外の誰かでしょ?」


 私たちは外で済ますことも多い。帰ってきても、使用人の食事の余りを食べることがほとんどだ。

 

「胃を整える作用があるのは確かだが、スズにはお勧めできないな」


 そう言うと険しい顔のまま私の侍女のシグニに声をかけた。


「アリアと衛兵二、三人を呼んで」


 シグニが去ったのを確認して、レイが続きを話す。


「二人目を望むには良くない薬だ。本当に知らなかったのか、故意に入れたのか、誰かに指示されたのか……」


「でも、そんなことして得する人なんていないでしょう?」


 一人、心に浮かんでしまったが、その考えに至ることさえ恐れ多い。


「状況的には、僕や君だろうね。あとは、ローズおばさんが怪しまれてしまうかも」


 一応、ローズさんもその子もウエストレペンスの血を引いていることになる。

 ローズさんがたまたま今日訪れたのか、あのキッチンメイドがたまたま今日あのハーブを使ったのか。


 まさか、このウエストレペンスでそんな事件が起こるとは思っていなかった。



 血相を変えた侍女頭がメイドを連れて来た。後は数人の衛兵が私たちのさして広くない部屋に詰め掛けた。


「名前は、カーラ・ソーテ。父親が危篤ということで、先ほど城を出ました」


 料理長も一緒に呼ばれている。


「このタイミングで!?」


 あまりにタイミングが良すぎる。


「このハーブは毒ではないが、彼女に事情は聞かなければならない。カーラ・ソーテを急いで捕まえろ」


 城の者に命令らしい命令をしたことがないレイがかなり厳しい口調で、衛兵に命じる。

 そこで、伯爵様も騒ぎを聞きつけて来た。

 イリア様たちは面談がまだ終わっていないのだろう。


 衛兵が「すぐに検問をかけます。特徴を」


「女性。茶色の髪、そばかすがあって、三つ編みで、ああそうだ。めがねをかけています」


 料理長が汗をかきながら答える。


「髪は切ってしまっている可能性があります。最初から逃走を図るつもりでしたら、(かつら)を用意している可能性もあります。メガネもつけているのとつけていないのでしたら随分印象が。そばかすは化粧である程度ごまかせますし」


 対して、いくぶんか落ち着きを取り戻した侍女頭は淡々と答える。

 侍女頭の言葉を聴いていた伯爵がうなづいて、料理長に尋ねた。 


「目の色は? それと訛りはなかったか?」


「ハシバミ色で、ロセウム訛りがありました」


「資料にも出身はロセウムになっています」


「ロセウムか。ロセウム人が伯爵家の人間に危害を加えたなんて噂になったらまずい。

 検問の理由を聞かれたら、宝物庫の宝石が盗まれたとでも言え」


 確かに、彼女にはロセウム訛りがあった。

 この領はロセウムの革命直前から難民を受け入れてはいる。

 (ウエストレペンスにたどり着く前に国境やいくつもの町を越えなければならないのだが)


「親が住んでいるのは城下か?」

「親がどこに住んでいるかまでは。城内の彼女の部屋は調べました。本当に数日の着替え等を持ち出しているようで、特に不審なところは」


「十番街に私服の警吏を送れ」


 ウエストレペンスは難民救済にこれだけ力を入れているのに、まだ足りないのか。

 元からの市民とすべて同じにはできない。 


しかし難民からしたら住民税さえ払えばレペンス語の教育は無償で受けられ、事情によっては小さいながらも部屋がとても安く借りられる。それがここ数年でできた新区画、十番街だ。

 ウエストレペンス領にしてもロセウム語は国際公用語だから、国外からの観光客を案内してもらうには難民はいまや欠かせない。

 人が余ってしまったら、農家の手伝いや土木など少々不人気な仕事に回すことになるが。


 でも住民の5パーセントが元難民、それも繁忙期とは言え、外の人をいきなり伯爵一家の料理を作る厨房に入れるとは思えない。

 私も名前は知らないながらも、ときどき厨房で見かけた。


「その人結構長いこと勤めていたのよね?」

「ええ、五年前から勤めて、一年前にこちらの厨房に……」 


 彼女と同室のメイドが震えた声で答える。


「このハーブを使っているところを見かけたことは」


「さあ。ただ、ハーブをスープに入れても特に気にも止めないでしょう。日によっては仕上げを任せていましたので」


 料理長が汗をハンカチで拭きながら答える。

 伯爵一家の体調に応じて、スープの中にハーブを入れることは良くあることだ。

 

「本当に、ただ効用を知らなかっただけの可能性もある。丁寧にお連れしろ。

それとメイド余計なことは言いふらすなよ」


「は、はいー!」


 伯爵に睨まれたメイドは目に恐怖の涙を浮かべおじぎして部屋を出て行った。



 でも、伯爵一家をロセウム人が害して、なんの役に立つのだろう。


  ウエストレペンスで教師として働いている亡命貴族を二人知っている。(亡命貴族であることを悟られないように名前を変えているが) 


 庶民としては、亡命貴族のほうに先に矛先を向けるのではないか?


 受け入れている者を害して、なんの得があるのかよくわからない。

 亡命貴族を匿っているから私たちを敵扱いしているのか。


 レイが厳しい顔のまま、衛兵の一人に命じた。


「一応、アンリに身辺を気をつけるように伝えろ。誰か目立たない姿で護衛についてくれ」


 ロセウムの内乱の余波が来ているのかもしれない。アンリを連れ戻そうとするだけなら良いが、アンリがレペンス国内で死んでしまったら、二国間にしこりを残すことになりかねない。



 その日を境にキッチンメイド、カーラは城に戻ってくることはなかった。


 念のため医師への事情聴取が行われ、ロゼッタさんは、一応の身体検査後、一晩泊まって帰って行った。

 検査中、苦笑いを浮かべながら「伯爵なんて面倒なもの、良く投げ出さずにがんばっているわね」って、優しい声で言っていた。

 「そんな貧乏くじ、私は頼まれたってやりたくないけど」と付け加えていたけれど。


 こんなことで仲のいい肉親まで、『念のため』で疑わなければならない。


 伯爵一家に関わるところにロセウム人は新たに置くことはなくなり、今まで関わっていた者も不自然に思われない程度に配置転換された。

・今回は犯人決めています。カーラさんは、すでに魔の森にポイされているかも。



今更他国の事情を……風呂敷広げて大丈夫なんだろうか。


二十人に一人外国人。革命の一年前から、難民が叙々に増えています。


当初はウエストレペンスも革命後すぐにロセウムが安定するだろうと思っていたんですが……。

(モデルのフランス革命もバスティーユからナポレオンが政権取るまで十年かかっているようです。そのナポレオン政権も……)


ウエストレペンスも慈善活動がずっと続くわけではないので、一番最初に逃げてきた亡命貴族から金を巻き上げて、十番街の建設・難民の支援等に当てています。

で、ロセウム人に割り振られるのは、特殊技能持っていないと3kな仕事です。

ストリートチルドレンは町に溢れていないですが、スリは以前よりか増えているようです。

八方、うまく治まればいいのですが、パン××××も、もうすぐです。


そして、この話を大体書き終わって、ニュースを見たら……。

現実に近くても、現実から少しだけ離れているから書けるのに、近い時期にニュース見てしまったら。いつでもどこでもあるものなのでしょうが、うーん。



アンリ……亡命貴族の一人。逃げてきた頃はほんの子供だったが、現在はウエストレペンスで通訳、レペンス語・ロセウム語の教師を兼任。ファンディスクでは亡命政府が同情を買うための広報キャンペーンボーイにさせられる。(亡命時10歳前後。ゲーム時13歳)



カーラ・ソーテ……ロセウム難民。ウエストレペンス城で働く。



アレスの姉妹名前……ロゼッタ(長女)・ローズ(次女)・ローリエ(三女) 

元の物語を書いたのが昔で私も資料確認している状態。

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