栄光への序章【ナイラ】
今回は久々にナイラさんです。
「あの子が……」
預けていたベリルシュタインから、たった数日で三行半を渡された妹はバルバスに連れて行かれた。
「どこでも同じだと言っていたので、ではバルバスに帰して差し上げますと。
故国ですし、国王様が『ルビー、琥珀、サファイア、エメラルド、ペリドット、いろいろな宝石を集めたがアメジストはまだだ』とおっしゃっていましたので、必要とされているところにお渡ししただけです」
修学旅行で会った銀髪赤目ゴスロリ少女がベリルシュタインの使者として報告に来たのだ。
「ハーレムに放り込まれたってどういうこと!?」
「名誉なことだぞ。これで我々も王族の親族だ」
父は単純に喜んでいる。
残念ながら、あそこはそんな生易しい世界ではない。
「あの子なんか三日でお堀に遺体が浮かぶわよ」
どうしよう。どうしよう。
さすがのそんな望んでない。
自分でもなぜだかすごく焦っている。
文化も宗教も違うし、何より言葉も日本語と英語くらい違う。
海の向こうの交流のない国なので、レペンス学園の選択授業にもない。
挨拶とか数字といくつかの単語を知っている程度で、王を虜にすることなんてできない。
「そりゃ、ライラがなんの相談もなくそんな遠くに行ってしまったのは悲しく思う。でもハーレムに入ってしまったからには我々にはどうすることもできない。最悪、何かがあっても王族と婚姻を結んだ事実さえ残れば、お前にもっと良い縁組を用意してやれる」
私以上にウエストレペンス伯爵に絞られたはずなのに、父は娘の命をもそろばんに乗せた。
タルジェの男はそういうものだ。
私の聖痕(実際は前世でついたタイヤ痕)が消えたことも嘆いていたくらいだ。
だから、私は聖痕の件について知ったとき、この世界に見切りをつけた。
レペンスは海の向こうの後宮の制度なんて詳しくは知らないだろう。
一番低い位の女奴隷でも、バルバス王の側室だと勘違いしてくれればいい。
本当は王に正式な妻なんて一人もいないことが多いのに。
「ええ」
身体が震える。
そうだ。何をためらっている。
この世界から与えられた役割なんて、知ったことではない。
◇
私の心配をよそにライラはけろっとした顔でウエストレペンスに戻った。 (わざわざ顔を拝みに行ったわけではないが)
「不眠症の王子様のために御伽噺を読んでただけ」
だそうだ。
予定通り、十一月にライラとレイは正式に結婚した。
我が家には結婚式の招待状は送られてこなかった。
それからしばらくして、ライラの懐妊がわかった。
「子供も本当にレイの子供かしらね」
カルセドニーに即効で三行半を渡され、奴隷としてバルバスのハーレムに売られたライラをレイはわざわざ海越えて、バルバスまで迎えに行ったそうだ。
何がどう転んだのか知らないが、この件をきっかけに数年後、レイの妹のリリー・ラハードはベリルシュタイン家の三男サフィール・ベリルシュタインと結婚することになるが、私に関わりないことだ。
なぜなら、私は人々の不幸を糧に栄光の階段を駆け上がっていたのだから。
リリー・ラハード……レイの妹。前半のライラの物語をばっさり削ったため、出番が大幅に減る。むしろほぼゼロ。現在十歳前後。 もう少しすると茨姫と呼ばれる。
二回くらいお見合いに失敗して、サフィール・ベリルシュタインとお見合いする。
この後は、パン××××まで、飛び飛びで話を進めていきます。




