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楽勝で攻略できると信じていました。  作者: くらげ
第三章 ドールと砂の国
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テロリスト【ライラ】(十月中旬)

時節柄、ちょっとサブタイトルに迷った……

 一応、形の上では位が一つ上がった。カリエというらしいが、一ヶ月もしないうちに、それもバルバス語他もろもろの教養を身につけないうちに位が上がってしまったものだから……

 はい。がっつり陰口叩かれてます。まあ、半分以上意味わからないからあまり気にならないのだけれど。


 いや、ファリダットを助けてから、「魔女」って恐れられて、実力行使されていないのが救いだが。



「(ねえ、これって素敵じゃない?)」


 ファリダットが私の部屋に突進して、白いレースを自慢げに掲げる。珍しくともなんともないレースだ。

 すっかり元気になって良かった。


「(反応薄いわね)」 


「(糸)かぎ針。(一番、細い)」


 できる限りバルバス語を使って短く彼女に伝える。伝えきれないものは今までどおりクーさんに通訳してもらっている。

 最近やっていないが、割とさくさくできた。簡単なコースターくらいなら私もできる。


「(ねえ、もっとやって?)」

「私はこれだけしかできないのよ」


 レイの祖父母はレース編みで四十年前の大凶作を乗り切ったそうで、何かあったときの収入源になるからってレイに教えてもらった。教えてもらったのは一ヶ月間くらいだし、他にも学ばなければならないことはたくさんあったから、一番基礎のことしかできないんだけれど。


「(私もやってみるわ。教えて)」


 ファリダットは私に合わせて丁寧に話す。


 かまって欲しいのか、レース編みに興味があるのか、さっきから王子様が膝に乗っかっている。


 じっとしているのが救いだが、かぎ針がもし目を突いてしまったらと思うと……

 はっきり言って、邪魔だ。 

 他の侍女はもう自分達の役目は終わったとばかりにお菓子を食べながらおしゃべりに興じている。

 王子様には少し早いが寝てもらおう。


「ちょっと待って。王子様に寝てもらってからでいい?」


「(待ってる)」 




「私も昔よく作ったわ~」


 王子様を寝かしつけた後、クーさんも参加して、私たちはほとんど無言で編み物を続けていた。

 寵姫様は私が一ヶ月かけて習ったことをたった二時間くらいで習得し、ちゃかちゃかとコースターの柄をつなげてテーブルクロス作るとか言い出しているし。


「(だって、振り向くかわからない王様を待っている間、暇じゃない? それに、人より違う芸を身に着けたら王様に振り向いてもらえる可能性が上がるかも)」


 私には無い向上心だ。


 彼女はレペンス語を覚えるのも早い。

 まあ、私がレース編みを覚えたのは、一気にいろんなことを詰め込まれていた時期だったから、ちょっと嫌々(いやいや)やっていた面もあったのだが。



『僕だ。迎えに来た』


 今、絶対聞こえるはずのない声が聞こえた。

 それも鐘みたいに響く声だ。せっかく寝てくれた王子様の目がまたぱちりと開いてしまった。


 侍女たちが何事か騒いでいる。

 私も窓に駆け寄り外を見た。

  ふとアゲハチョウが視界を横切った。


「(ほら、あそこ。門の前、衛兵の邪魔にはならないように距離をとっている)」

「(あの人たちすごくきれい)」


 侍女たちが話し合っている横で、私はその姿に釘付けになった。

 米粒みたいに小さいが間違いなくレイとイリア様だ。

 

 なぜここに?


『往復の旅費借金したの全部無駄になってしまうじゃないか! 引きずってでも連れ帰るぞ』


 驚きつつも、ちょっとうれしく思った気持ちがイリア様の言葉で急にしぼんだ。

 騒ぎで起きてしまったセト様がクーさんに通訳してもらって、非常に渋い顔になった。


 本当にあんなのがいいの?って目が言っている。


 世の中、お金と地位だけではむなしいけれど、愛だけでは生きていけない。

 借金まみれの男に嫁ぐか? それともハーレムでちょっとスリリングな侍女生活を送るか。


『余計なこと言うなよ。ほら、彼女考え込んじゃっているじゃないか!』


 いや、余計な情報じゃなくて、それ重要な情報! 

 よく、この中から私を見つけ出したな。 こちらは侍女たちの隙間からちらっと覗いているだけだし、私含めほとんどが黒髪だ。


『さっさと出てこないと、王宮ぶち壊すぞ。100数える間に出てこい』


 いや、どうやってぶち壊すというのだ。

  それに今から走っても、王宮の門まで100秒で絶対たどり着けない。

 レペンス語わからない衛兵はわざわざ持ち場を離れて不審者を捕まえるかどうか悩んでいるようだ。

 まあ、はたから見たら変な外国人が王宮の敷地外から叫んでいるだけだから。


「(ああ、(とら)われの姫に愛の言葉をささやくなんてロマンチックね。

 で、どっちが本命? それとも両方?)」


 いや、愛の言葉じゃなくて明らかに脅迫。

 しかし、普通に考えて王宮を破壊できるはずがない。


「(結構いいじゃないの。要らないなら私もらうけれど。大国母様、二人ほど宦官を補充してもかまいませんか?)」 


 『二人』『宦官』の単語は拾えた。 


「そうね。新しい子の補充も大事よね。私どっちにしようかしら」

「するな!」


 思わず突っ込んでしまった。


 カウントは終わった。

 なんの変化もない。 


 ちょんちょんとファリダットが私の肩に触れて、そっとハーレムの別棟の角を指差す。 

 ハーレムの別の棟がぽろぽろと角砂糖が溶けるように崩れていく。


 その光景はあまりにも非現実的で、私は言葉もなくただぼーっと眺めているだけだった。

 まるで手品か、そうで無ければ夢だ。


 姉の聖痕に、ルビアの虹の血、そしてこれ……

 なんで私の周りだけ現実的じゃないことが起こるのだろう?


「あー、まずいわね」


 クーさんはそう呟いて、レペンスの子守唄を歌った。


 クーさんが子守唄を歌いだすと崩壊はぴたりと留まり、目の前をぱたぱた飛んでいたアゲハチョウもはらはらと砕けてしまった。


「(あの二人は政治的破壊行為者(テロリスト)です。すぐに捕らえなさい)」


 クーさんは冷たい表情で、侍女に何かを命じた。今、物騒な言葉が混じっていたような。


「あの子たちは政治的破壊行為者(テロリスト)だから、捕らえるのよ」


 いやちょっと待って。確かに不自然だけれど、彼らが乗り込んで何かをしたわけではないでしょ。証拠もないのに。


「それって、やりすぎなんじゃ」


「国家の象徴たる王宮のそれも最大政治権力者の住むハーレムを壊すって、十分私たちの政治に文句つけていると思うのよ。あなたはそうは思わないの~?」


 エー、政治や国家の見解なんて、昨日今日ハーレムに入った私にわかるわけがない。

 故に、私は反論できる言葉を持っていなかった。  


「若くて元気があるのはいいことだけど、まあ、自分のやったことの責任は取ってもらわないと」


 クーさんの顔は非常にいい笑顔でした。 


ヒーロー、格好いい登場とはなりませんでした。(むしろ最大のピンチ)


一応、レース編みの動画は見ましたが、私にはたぶんできそうにない。


すみません。次回ちょっと間が開きます。





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