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楽勝で攻略できると信じていました。  作者: くらげ
第三章 ドールと砂の国
32/60

褒美【ライラ】

お食事中の方は、三十分後に読まれることをお勧めします。 残()表現があります。

この後シリアス続くので、ハーレム編はちょっとギャグ入ります。 


8/11、第五話の花嫁(五月下旬)【ライラ】にカルセドニーとルビア【ルビア】を追加。 


 目を付けられるって王様のことだったのね。



「(私の寵姫を助けてくれて礼を言う)」


 寵姫なら、私を部屋に呼ぶ前にその寵姫の見舞いに行けよ、と思う。


 やっぱり。目の前にはでっかい寝台がある。回れ右して帰っていいですか?


「あ、そんな恐れ多い。皆様の声が寵姫様を呼び戻したのです」


「(もっと近くに来い)」


「いや、恐れ多くて……」


 ずるずるとすり足で後退を試みる。


「あの、ここに入るときに申告はしたのですが、その、一ヶ月くらい前まで他の人の妻だったので、そういうことはちょっとまずくありません?」


 当然、王様の目になんか留まらないだろうし、もし万が一呼ばれるにしてももう少し後だと思っていた。

 その頃には心の整理が付いているはずだったのだが。


「(心配せずとも、ハーレムに入る前のことはとがめ立てせぬ。 前の夫の子が生まれたとしてもわが子として大事に扱おう。 ハーレムに入った後のことは当然罰するがな)」


「おおらかですね」


 レペンス国ではありえないくらいおおらかだ。

 でも、きっと私、今すごく引きつった笑顔をしているのだろう。 

 王子は十五人もいる。本当は二十人くらいだったそうだが、五人は病死(・・)している。

 たぶん、私に子ができたとしても、王位が回ってくることはないだろう。

 

 王は私の手を強引に引き寄せて、


「(変な臭いがする)」


 レイに渡された薬草の中ににんにくもあったので、にんにくチップをあるだけ食べてきた。

 クーさんは笑って見逃してくれた。


 夫のために自ら毒をあおる義理も勇気もない私はこんな女を捨てたアホな作戦しか思いつかなかった。

 明日は胃が荒れるかもしれない。


「ちょっと夜の料理ににんにくが入っていたかもしれませんね」

「(料理人を水に沈めなければならないな)」


 私のせいで料理人が死ぬのはまずいので、仕方なく白状した。

 

「……自分で食べました」


 クーさんがくすくす笑うのを王様は睨んだ。

 彼女は笑顔を引っ込めると、一礼して部屋から出て行ってしまった。

 一緒に外に出たかったのだが、丸太みたいに太い手ががっつり私の片手をひねっている。


「(それほど私が嫌いか?)」

「いえ、そうではないです」

 

 私は首を振った。

 細かいところはわからないが、『私』『嫌い』くらいはわかった。

 好き嫌いの判断ができるほど、王様を知らない。ただ、筋肉ががっつりな人はタイプじゃない。

 むしろ女の腕をひねりあげている時点で、男の最底辺だとは思うが。


「(約束よりも少々早いが)死者ヲ復活させル魔女の力、欲しい」


 寝台に転がされた。


 にんにく攻撃でも引かないか。誰が魔女だ。というかレペンス語お上手なのね。

 自分でも相当混乱しているんだろうなと思いながらもそれでも部屋の出入り口に視線を向ける。


 「いや、死んでいませんって。皆様の声が、心が彼女を呼び戻したのでス。ウエストレペンスの学院では、誰でも学べます。 なんならお教えしますが」


 王様につられて少々声が裏返ってしまった。

 私はほんの少し力を貸しただけで、たいしたことやってませんよ~。

 蘇生術は医学生は必須授業だし、一般向けの講習会も定期的に行われている。


 欲しいというなら、無償で教えるから開放して。


 もう自分から王様に抱きついて髪の毛引っ張るとか、首を噛み千切るとか……

 ウエストレペンスの護衛さんが教えてくれた護身術がぐるぐる頭の中を回転するが、反撃を考えるととても実践する気にはなれない。

 

 仕方ない。伊達に姉との約束を守って、雰囲気を自らぶち壊してたわけじゃない。

 ここに来てから整腸の薬も調合していないし、仕事はお伽だけで運動不足だ。たぶんいけるだろう。


 ちょうど、扉が開いた。


「(それは僕の妻です。お返し……)」



 ぶふぉ。


「(えと)」


「(……連れて帰りますよ)」


「(……)」


 王様の無言を了承ととったセト様がちっちゃな手でしっかり私の手を引いてくれる。

 部屋を出る振り返ってみると、王様はすごい形相で私たちを睨んでいた。 息子の前で大恥かかされたのだ。そりゃ怒るよね。



「あははっ。ひっどいわね~」


「ほ、掘り返さないでください。」


「でも、次はちゃんと受けてね~。今回はまだ客人扱いだから大丈夫だったけれど、本当なら城のお堀に浮いていてもおかしくないほど無礼なことだから~」


 私は『はい』とも『いいえ』とも答えられなかった。


「(大丈夫だよ。そう簡単に次の機会は回ってこないよ。新しく美しい花は次から次へ生えてくる。わざわざ見ごろを逃した花を取る必要もないだろう)」


 王子様の言葉を訳してくれたクーさんは、説明を加えた。


「……以前、王子様の子守の一人が王に呼ばれて、翌朝城のお堀に浮いていたのよ。王子様の一番のお気に入りだったんだけれど。 王子様の不眠はそれが原因」


 昼間は素直に寝てくれるのに、夜は寝つきが悪いのはそのせいか。

 おかげで助かったけれど。


「……まさか王様が?」


 クーさんは私から視線をはずし、夜空を眺める。


「寵姫たちの足の引っ張り合いに巻き込まれて半数は朝を迎えられないの」


「犯人を捜さないんですか?」


 彼女はもう一度こちらを向いて告げた。


「調査は形式上のことね。頂点を極めたと思っても、翌日には引き摺り下ろされる。この世界は平等に誰も守ってもらえない世界なのよ」



「迎えは来るんだな?」


「はい。でもよろしいのですか。彼女が王の妻になってくだされば、ここにずっといられます」


「こんな弱い花はここでは生きてはいけない。花園の一番隅でもだ。無駄に抜かれてしまう前に帰す」



 昼、砂漠。


「(上玉だ)」

「(後宮に売り飛ばせば)」


「売れるか! あほが! 」


 男の叫びと共に、晴天から雷が盗賊に向けて雷が落ち、砂が巻き上がる。

 二人を囲んでいた盗賊たちはすべて地に倒れた。


「ぺっぺ、熱いし、目が痛いし。周り砂ばっかりだし。よくこんなところで人が住めるな」


「こっちの人も建物が埋もれるほどの雪を見たらそう言うと思うよ」


 もう一人の男がのんびり答える。


「ちょっとは戦え」

「世の中、向き不向きがあるよ」


 予算の関係で護衛を泣く泣くカットしたのである。案内の人もいるにはいたのだが、ちょっと目を放した隙にどこかへ消えてしまった。盗賊とぐるだったのだろう。


「港からすぐとか書いてあるのに、王宮どこにあるんだろうなぁ」


 男の一人が投げ捨てた地図をもう一人の男が拾い上げた。

 頭と顔を覆う砂よけの布をほんの少し引き下げ、地図に目を落とした。


「それ僕が聞きたいよ。とりあえず普通は川や水場の近くにあると思うんだけれど。特にこんな砂漠では水は万金より貴重だ」 


「川とかすぐ蒸発しそうな暑さだけれど」

「それとも地下水路で宮殿まで水を引いているか。それなら地下水路を整備するための穴が続いていないと……」


 そんな穴はどこにも見当たらない。


「行き過ぎた?」


「だー!うぜー!」


「ここにいる親切な人たちに聞いたらいいよ」


 砂まみれで倒れている盗賊を蹴飛ばした。笑顔の男もそれなりにいらだっているようだ。


 彼らが王宮にたどりつくのはもう少し先である。



 


本当は王子様が格好良くライラを助けるだけのシーンだったのに、なぜこうなった。

生理現象で許してもらえる範囲での拒否。ヒロインとしてはアウトです。

「駅すぐ」って、あまり当てにならない。



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