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楽勝で攻略できると信じていました。  作者: くらげ
第三章 ドールと砂の国
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花盗人の正体【ライラ】 (九月初旬)

新章。ライラ視点メインになるかと。

「私が、この城の主、カルセドニー・ベリルシュタインだ」


 カルセドニー・”ベリルシュタイン”。


「ルチル様のお父様ですか。はじめまして」


 息子のルチル様のようなきらきらしさは無く、金髪と淡い水色の瞳以外、印象に残らない顔立ち。 たぶん、三十代後半から四十代前半だと思われる。


「私の用意した鳥かごは気に入ってくれたかな」


”鳥かごを用意しよう。君にふさわしいものをだ”。


 あの日、暗闇の中で不敵に笑った男。

 この人が月下の花盗人とかふざけた名前の怪盗。


「私がなぜ、ルチル様のお母さんですか? 私のほうが年下ですし、彼も私のことを死んでも『お母さん』なんて呼ばないでしょう」


 後ろからひょっこり顔を現したのは、あの銀髪の少女だ。


「ルビアだ。よしなに」


「君は人質ではあるが、行動の制限は設けない。城内を好きに歩き回ってもいいし、帰りたければ帰ればいい」


「人質?」


 その問いに、ルチルのお父様は答えては下さらなかった。


「不自由なことがあれば、ルビアかもうすぐ帰ってくるルチルにでも言いなさい。騒動が治まるまでのんびりしているがいい。鳥かごの扉はいつでも開け放たれている」




「それでは御用がございましたら、そちらのベルでお知らせ下さい」


 使用人がそう言い残して部屋を出て行ったのを確認して、窓から外を確認する。


 三階だ。ついでに城を囲むようにしてがっつりお堀がある。

 最近流行の囚われのヒロインなら危険を顧みず脱出するのだろううが、窓からの脱出は諦めよう。怪我をしたくない。


 次は扉に手をかけてみる。扉は何の抵抗もなく開いた。


 廊下の角々で、人の気配を確認しながら、城の出入り口まで難なくたどり着けた。

 城の出入り口には衛兵がいたけれど、なんのチェックもなく、城を出てしまえた。

 それどころか「お気をつけて」って言われてしまった。


「どうしよう」


 お守りがわりに身に着けていたペンダントを服の上から押さえる。


 本当に出れるとは思っていなかった。お金を持っていないし、どっちが王都でどっちがウエストレペンスだか。

 そこに、ルビアと名乗った銀髪の少女がひょっこり現れた。


「あなた……帰りたい?」


「どうなんでしょうか」


 レイが気づかぬまま姉を隣に置いているのも見たくはないし、気づいて私に失望している姿も見たくない。

 それに、気づいたら伯爵様は烈火のごとく怒るだろうし、そんなところに戻るのは怖い。


 こぼれたミルクは元には戻らない。


「ちょっと来て」



「我はあなたが邪魔なのよ。速やかにお家に帰ってもらいたいのよ」


 そう言われて連れて行かれたのは駅馬車の駅だった。


「今から駅馬車に乗ってこの街道を南に下ればどんなに遅くても翌々日にはウエストレペンスに着く。

 この国で三番目に安全な街道だから、女の一人旅でも大丈夫。

 途中、安全な宿も調べてあるから。荷物も後で全部送り返してあげる」


 彼女はそれなりに重い袋を私に押し付けた。感触からお金だろうと予想がつく。

 本当に今すぐ追い出したいようだ。


「なぜ、追い出したいのですか?」


「う。……許せないの。あなたが嘘でも彼の隣にいることが……」

「彼ってルチル様? あの方と私は何もありませんけれど」


『私の憧れのおにーちゃんに手を出さないで』ということだろうか。


(たが)う」


 ルチルはあまり家族についてしゃべらなかったが、ぽつぽつと話してくれたこと、レイやラインハルトから又聞きしたことを総合するとー


 家族は父である伯爵に、弟が二人。あと弟のお嫁さん。

 弟さんのお嫁さんのわりには幼い。母親は三男を生んでしばらくして亡くなっていて……。


 後は……母親代わりの病弱な女性。 妹がいるなんて話は聞かなかった。


 ウエストレペンスで見かけたときは、ベリルシュタイン伯爵が膝の上に乗せていたりしていたから、親子なのかなとは思っていた。


 ルチルからは父は普通の人って聞いていたけれど……私に結婚話が転がってきたことといい……

 超年下が好みなの? ロリコンてことでok?


「何よ」


 じっと見つめられて、少女は挑戦的な目でにらみ返す。


「あなたは、すぐに悪い大人から離れるべきよ。お父さんとお母さんはどこ? 」


「わ、私は」


 少女の瞳が揺れる。


「もしかして……いないの?」


「子どもじゃない」


 ぽつりと呟く。


「何百年もこんなのばっかり! だからこんな身体嫌なのよ」


 地団太踏んでいる姿はどう見ても子供だ。 ん?でも変な単語が混じっていたような。


「どうしても行くところがないと言うなら、一緒に行きましょ。ウエストレペンスの孤児院は学校にも行けるし、もう少し大きくなったら就職の世話もしてくれるって」


 他にも被害に遭っている少女がいるかもしれない。

 ルチルは父の悪行を知らないのか。知っていて見ない振りしているのだろうか?


 「私はそんなところ絶対に行かないから!」


 そう言って、ベリルシュタイン城の方向に走って戻ってしまった。


「お金、もらったままなんだけれど……」


 巾着を開けて中を確認してみる。 予想通り結構な大金だ。このまま持っているのが怖い金額だ。


「ウエストレペンスって、結構渋い?」


 いや、早く常識的な金銭感覚を身につけて欲しかっただけで、けち臭かったわけではない。たぶん。

 豆剥きだろうと芋洗いだろうと、一時間働けば一食分のご飯代くらいは出してもらえた。


 ただ、それよりも重労働の薔薇姫の行進には奉仕活動の一環だからって一切給料出なかったのが不満だったが。

 本物の薔薇に覆われた重たいドレスを着ながら、来場者に笑顔で手を振らなきゃならないとか、どんな苦行?

 ちょっと休憩と思っても座れないし、後ろから蜂に襲われないよう常に気を配っていないといけない。 


 姉にはぜひあの苦行を味わってもらいたいものだ。



ライラさんは、ナイラの影響で心の声ではよく「超」を使っていますが、もちろん実際の会話時には使いません。


テーマパークの着ぐるみ……。


ペンダントは、ずっと服の下に隠してました。


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