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ジェムリアの長城(八月)

ウエストレペンスの歴史の説明。

 夏休み。そのイベントは来た。


「ついに来たわ」


 妹にはもちろん連絡していない。


 そして、お目当ての人にはすぐに会えた。


「ウエストレペンスの歴史について、ご説明申し上げますレイ・ラハードです。よろしく」


 レイ・ラハードは弟に本当にそっくりな……いや、『鮮血のジェムリア』の『ラハード様』そっくりのザ・王子様だった。


 ラハード様のほうが目の色が少し薄くて、第二王子のほうが濃い。後、髪の跳ね具合で見分ける。

 ゲームでは常に厳しい顔をしていて後半になってやっと笑顔を見せてくれるのだが……


 それが優しげに微笑んだ! 一部の女生徒が黄色い悲鳴をあげる。


 いい!これはこれでいい!

 なんでこれが今まで売れ残っていたのよ! 


 三グループに別れて、今から緩やかな山を登りジェムリアの長城(あと)に向かう予定だ。

 レイ・ラハード以外にもスズ・ハニーボックス、あともう一人東洋系の中年の女性が少し離れたところで説明を始めている。


 レイのグループには女子生徒が多く集まり、スズのところには男子生徒が集まっている。

 一番生徒が少ないのは中年女性のところ。


 本当は前のほうで『ラハード様』とそっくりな彼の姿をじっくり確認したいのだが、前に出るとさすがにレイ・ラハードに気づかれてしまう。仕方がないが、後ろのほうで控えめに待機だ。


 この髪色どうしても目立ってしまうが、夏場だから帽子を着用していてもおかしくはない。


 他の女生徒も使用人に日傘を差させたり、羽飾りや花飾り(生花&造花)やレースのリボンを取り付けた麦藁帽子を被っている。

 中には通気性を無視して、蒸れそうな帽子を被っている人もいるが。


 私の麦藁帽子には黒のレースヴェールが付いている。

 目の色や髪色も少しくらいはごまかせるし、紫外線対策になるかもしれない。


髪を染めるのは、校則違反だし(一部生徒はお金と親の地位で黙らせているけれど)、攻略対象たちが「君の黒髪きれいだね」って褒めて撫でてくれる予定なのに(まだウォーターフィールドとストロー君からしか言われてない)傷んだら嫌だ。 


「と言っても、私もさほど詳しくないのですが。

 詳しい説明を聞きたい方はあちらの黒髪の女性のグループに加わってください。

 一応整備していますが、足元に気をつけてください。歩きづらい方には平靴を用意しています。

 ここまでで何か質問はありますか?」


 当然、黒髪の女性のグループに加わる者はいない。


 必ず平靴でって言われているが、理由はこの歴史講義の後の宝石堀りである。それでもヒールの高い靴を履いてくる生徒はいるようで、係員がスニーカーのような平靴を配っている。


「はい! 婚約者はいますか?」


 元気が有り余りすぎる令嬢が手を上げる。

 よく見ろ。レイの左手の薬指に指輪が光っているぞ。


 レイ・ラハードは一瞬返答に迷った後、


「えーその、実は少し前に結婚しています」


 はにかんだような笑顔になる。

 ライラすぐ嫁役変われ!


「……惜しいことした」

「冷血伯爵の息子って……」

「誰よ。不良物件って言ったやつ」

「ウエストレペンスって今結構羽振りが良いんでしょう?」

「逃した魚は大きかった」


 私のさらに後方からぼそぼそと不満を漏らす声が聞こえた。

 愚痴を言っている令嬢の半数以上が恋人や婚約者がいるのだが。 


 レイと係員誘導の下、山というよりか丘を登りきる。


 『鮮血のジェムリア』でメイン舞台の一つ。旧ウエストレペンス城。第一王子でありながら第二王子に追いやられた『ラハード様』のお城は完全に崩れていて、ところどころブロック塀の残骸みたいなのが残っているだけだ。


「ジェムリアの長城、または旧ウエストレペンス城はレペンス王国を他国から守る目的で作られ……」


 ジェムリア山脈は昔は宝石の山と言わるほど宝石がごろごろ落ちていて真珠までもが掘れたとか言われている。

 実際に山で真珠が掘れるとは思えないし、今は目に見える範囲で宝石は落ちていない。

 ウエストレペンスがレペンス王国に併合されてから、掘り尽されて山の高さが半分になったそうだ。


 『鮮血のジェムリア』では『ドール』のエネルギーとなる魔石がごろごろ掘れたのに。


「王位継承争いに負けた王子はここでレペンス王国――当時は今ほど(ひら)けてなかったので、森の向こうに見える王都の灯りを毎夜苦い気持ちで眺めたのかもしれません」


 若い次期領主がすらすらと耳障りの良い声で説明を続けている。

 営業用の顔とは言え、ゲーム上では後半でしか見ることの叶わない優しげな笑顔を振りまいている。


「人民の被害はすさまじく……。その後は粛清を……。 兄弟間の血なまぐさい歴史を繰り返さないためー」


 そこらへんは、ゲームでやっている。 

 生で第一声を聞いたときは私に語りかけてくれているようで、心臓が割れそうなほどどきどきしたが、説明のときにこのきれい過ぎる声だと右から左にするすると流れてしまってとても退屈だ。


「それから百年後、王妃の別邸として建てられたのが今のウエストレペンス城です。

 その後、歴代の王妃が内装や庭を采配し、薔薇妃フィーネの時代に見事な庭園を完成させました」


 ゲーム版『ピース オブ レペンス』では『ウエストレペンス城』は今にも薔薇に押しつぶされそうなボロ城で、「危ないので来年には撤去する」と言われていた。

 ただ、眼下に見えるウエストレペンス城は、ゲームとは違いきっちり修繕されていて、それどころか古城ホテル兼賃貸物件兼博物館と化していて、城に出入りする人々は絶えることはない。


「ウエストレペンス後継者が絶えたのを期にイーストレペンス王国はウエストレペンスを平和的に併合。

 以後も、市民の手によって薔薇園は大切に維持されています。

 土産屋には我が領自慢の薔薇を使った土産物がたくさんありますので、ぜひ覗いてください」


 レイ・ラハードがここぞとばかりに今日一番の笑顔で宣伝する。

 歯がきらっと光りそうな勢いだ。


 「イーストレペンス――現在のレペンス王国はこの二百年ほどで領土を拡大し、かつての国境線であったジェムリア山に築かれたこの山城は瓦礫と化しました。

 下の『ウエストレペンス城』は崩れる危険性があったので、十年ほど前、大幅な修繕をしました。

 その際、地下の隠し部屋から見つかった宝物が一部修復を終え、『ウエストレペンスの秘宝展』で特別公開しています。興味がありましたらぜひご覧ください」


 また、宣伝の文句のところは妙に力が入っている。

 一番聞きたかったウエストレペンス滅亡についてはかなりあっさり流されてしまった。

 でも、レイ以外の人にわざわざ聞きに行くのもなぁ。


「難しい歴史の講義はこれくらいにして、パンフレットをお配りしますので、お好きに見て回ってください。宝石堀りは一時間で半銀貨一枚です。

 校章を見せていただければ、一部施設の入館料は半額、店舗等の一部飲料水は無料で提供させていただきます」


 パンフレットが係員によって配られ始めると、気の早い生徒は荷物をもって散り散りになる。

 レイ目当ての生徒達はレイを囲む輪をぐっと縮めたけれど。


「王都より涼しいですが、熱中症などにはご注意ください。

 もし体調を崩された場合は医療スタッフが巡回しています。

 ガイドもいますので、お気軽にお声がけ下さい。

 最後に何かご質問はございますか?」


「はいはいはい! レイ様にガイドして欲しいです」


 残っていた先ほどのご令嬢が手を上げたが。


「ごめん。この後、お嫁さんと待ち合わせしているから」


 レイはさわやかな笑顔で断った。

 めげずにアタックしたご令嬢はじめ、他のご令嬢もがっくり肩を落とす。


 そこで、レイのグループにいた数少ない男子生徒の一人、公爵の息子ディアス・ゴーシュが手を上げた。


「イーストレペンスとウエストレペンスどちらが正統王家と思う?」


レイ・ラハード……ライラの夫。


主人公お願いだから、妹と最低限の連絡くらい取り合って!

侍女の説明がほとんどないのに、麦わら帽子の説明が無駄に長い……。


【歴史】(細かいところは変更あるかもしれません)


約450年前 『鮮血のジェムリア』この後50年ほど魔女狩りが続く。


約350年前 ジェムリア山脈麓に別邸(現在のウエストレペンス城)建てられる。


約300年前 薔薇妃、バラ庭園を完成させる。


約250年前 ウエストレペンス滅びる。


現在『ピースオブレペンス』『カースオブレペンス(if)』




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