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7話 依頼人

カティについて行った先は職人達の工房が立ち並ぶ街区だった。

大通りから脇道に逸れ、路地裏といえるような細道を奥へ奥へと進んでいく。

カティはいつでもシャムシールを引き抜けるように持っており、チラチラと後ろを振り返っっては真也に警戒の視線を送っている。


「その友達っていうのは職人なのか?」

「……ああ、そうだよ。錬金術師なんだ」

「へえ、腕はいいんだろう? こんな奥まった場所に工房を構えてもやっていけてるようだし」


腕が悪いから奥まった場所にしか工房を持てない、という可能性もあるので腕がいいかは判断できない。

だから単にお世辞として言っただけ。

カティの機嫌をとるには友達の方を褒める方が効果的だと予想したからだ。


「ああ! まだ若いのにスゲーんだぜ。天才だって言ってた」


その予想は当たり、カティがその友達のことを話しだすと真也を警戒していた様子は少し薄らぎ、明るい表情でどこか自慢気になった。

カティはその友達のことが本当に好きなのだろう。


「おお、それは凄い。だけど誰がそこまでの評価を言ったんだ?」

「リーサが」

「いや、そのリーサって誰?」

「ああもうっ! 話の流れで分かるだろっ! これから会いに行く錬金術師の友達だよ!」

「……自称かよ」


少々面倒な奴なのかもしれない、と小さく溜め息を漏してしまう。

だが、リーサという人物のことを楽しそうに話すカティを見ていると、まあ悪い人物では無いのだろう、と少しだけ楽観的な気分にもなれた。

カティの笑顔にはそれだけの効果があった。


「お前、笑ってた方が可愛いじゃないか」

「う、うっさい! オッサンに褒められても嬉かねーんだよ!」

「……もっかい泣かすぞコラ」


苛ついた。

自分でオッサンと言うのはいいが、他人から言われるのは許せない、そんなお年頃なのだ。


そしてやはり、カティを直接褒めても彼女の口を軽くする効果は余り得られなそうだ。


「はっ! アタシがいつ泣かされたってんだ」

「さっき滅茶苦茶涙目になってたじゃないか」

「なってねーし! もうボケ始めたんじゃねーのか? ジジイか?」

「……はあ、もう、いいよ、それで」

「ふんっ」


真也は呆れ果ててそう言ったのだが、カティは勝ち誇ったような表情だ。

少しムカつくが一々怒っていたらキリがなさそうなので、流して話を進める。


「それで、そのローブはリーサとやらが作ったのか?」

「いいや、これはリーサが作ったんじゃねーけど、リーサから貰ったアタシの宝物なんだ」

「じゃあ脱ぎ捨てんなよ」

「テメーのせいだろっ!!」

「いや、お前のせいだろ。どう考えても」


自業自得、インガオホーと言えることだった筈だ。


「で、いい装備なの? それ?」

「ふふん、〈技術〉に補整が50も入るんだ。いいだろ?」

「そりゃ大したモンだ。だけど、どうしてそんないいものをリーサは持っていて、その上なんでカティにくれたんだ?」

「ああ、親父から貰ったものらしいけど、もうサイズが会わないからってアタシにくれたんだよ」

「ああ成る程、お下がりか。妹みたいに思われてるんだな」

「だよな! だよな! アタシ、リーサに家族みたいに思われてるってことだよな!」


分かりやすく喜ぶカティ。

スレているようで案外素直な反応を見せる少女に、真也は軽く微笑む。

有用そうな情報をポロっと喋ってくれるカティは、真也にとってとても都合のいい存在だった。


「あと一つ聞きたいんだが……」


カティの警戒心が殆ど無くなったところを見計らい、本題を切り出す。


「タルジュ・シャムシールを欲しがる理由はなんだ?」

「……戦う力が欲しかったんだ」

「リーサの為にか?」

「……そうだよ」

「どうせ錬金術の素材でも集めてやりたかったんだろう?」

「……わりぃかよ」

「工房の経営状態でも悪いのか?」

「ああ、最近、素材の値段が高くなってリーサが大変そうなんだよ」

「成る程なぁ……」


原材料の価格は高騰するが、卸値は硬直的といった話だろう。

零細製造業のありがちな悲哀と言えるが、何もこんなファンタジー世界にまでそんな嫌なリアリティーを持ち込むなよ、と文句を言いたい。

だが、それだけこの世界の経済がリアルに回っているということだろう。

そんなことを考えていると、カティが更に言葉を続ける。


「だからお前には、リーサから聞きたい話とやらが終わったら、売れない商品を買ってやって欲しいんだ」

「……うん? 粗悪品でも売り付ける気か?」

「違ぇよ! リーサはそんなもん作らねえ! 逆だよ逆!」

「高級品はこの街では買い手がいないって話か? 冒険者にはそうだろうが、騎士とかも居るだろう?」

「アイツらは専属の職人が居るんだよ。そんなことも知らねーのか?」

「じゃあ街を移ればいいじゃないか」

「……出来ねえ理由があんだよ」

「どんな?」

「……ふんっ」


話す気はないということだろう。

しばらく無言の時間が流れる。


「……アンタ、強いんだろ。この剣を見りゃ分かる。だからいいアイテムも欲しい筈だ。単に欲しいものを買ってくれればいいってことだよ」

「……そうしよう」


まだレベル7のかけ出しです、とは言えない空気だった。


取り合えず、カティがリーサのところに案内してくれる理由があったことはいい知らせだ。

リーサの事情は軽く話してくれそうな事ではなさそうだったので、まずはそこを切り口にして友好関係を築くべきだろう。

いきなり地図関係の話をすることは避けよう。

そう計画していると目的地に着いたようだ。


狭い場所に建つ小さな煉瓦造りの建物、そのドアを開け、カティが中へと入っていく。


「ああ、カティちゃん、来てくれたんだ……あれ?」


カティの後に続き真也が室内へ入ると、リーサらしき少女が疑問の声をあげた。

淡い金色のストレートヘアをセミロングにし、目鼻立ちのはっきりとした15、6歳くらいの少女だ。


「こんにちは、私は冒険者をしている真也という者です。カティさんの紹介でアイテムを見せて貰いに来たんですが、今宜しいですか?」

「ああ、お客さん! こっちこっち、こっちにオススメのヤツがあるから、是非それ買ってって! ああ、ここは販売店じゃないんだから綺麗に並んでないのは見逃してよね!」


やたら押しの強いリーサが嬉しそうな表情で乱雑に物の置かれた室内の一角を指差す。

真也がそちらへ行こうとすると、カティがリーサに駆け寄り、何かを耳打ちして謝る動作をした。


そして、硬い表情になったリーサが真也に平坦な声で言う。


「……あの地図のことは私には分かりません。お客さんの誰かが置き忘れて行った物です」


舌打ちしたい気持ちを押さえる真也。

カティに告げ口されてしまい、当初の計画が狂う。

告げ口されるだろうとは思っていたが、こんなに早くされるとは思っていなかった。


明らかに拒絶の空気を纏ってしまったリーサに、どうしたものかと考える。


「……ああ、いえ、その事はもういいんです。アイテムを見せて貰っても?」

「……どうぞ」


リーサ一押しのアイテムを見て、説明を聞き、その出来を褒め、色々と購入してみても、彼女の表情は硬いままだった。


「……どうもありがとうございました。お帰りはあちらです」


さっさと帰れと言われてしまった。

取り付く島も無い。

既に普通の手ではもうどうしようもないだろう。

だから、普通でない手段、チートを使うことを決意する。


真也はリーサの顔をまじまじと見つめ始める。


「……なんですか?」


リーサが不審げに文句を飛ばして来たタイミングを見計らい、真也はポツリと呟く。


「……やはり、面影があるな」

「っ!?」


敬語は使わない。

とにかく思わせ振りに話す。


「髪や目元がそっくりじゃないか」

「……父と、知り合いなの?」


掛かった! そう心の中でガッツポーズをした。


「ああ、知っているとも。レイスコート・オースティン、稀代の錬金術師。キミはその娘だろう?」


知り合いじゃあない。

知っているだけだ。

前作の攻略wikiで。


前作の仲間キャラにおいて、淡い金髪の錬金術師が一人いたことを真也は覚えていた。

かなりの強キャラで、多くの前作プレイヤー達の最終パーティーに選ばれていたであろうキャラクター。

彼ならば〈大地の神殿〉の地図を持っていてもおかしくない。

リーサを彼の娘と仮定して、鎌を掛けた。

そんなゲームのプレイヤーだからこそ知るメタな知識、チート知識を総動員してリーサに取り入る。


「彼には大きな恩がある。昔の話だ。彼は俺のことなど覚えていないかもしれないが、それでも俺は恩を返したいと、今でも思ってる。彼の娘であるキミは、今何か困っていることがないかい?」


作り話をいけしゃあしゃあと話し、リーサの様子を窺う。

流石にいきなり出てきた男を信用は出来ないようで、難しい顔をして悩む様子を見せている。


「……それじゃあ、少しだけお願いしたいことがあるんだけど――」


そうして真也はリーサから、価格が高騰している錬金術素材の採集を依頼され、前作キャラの情報を得るための足掛かりを手に入れたのだった。

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