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67話 荒野の道

街道を歩く真也達一行に、土埃の混じった乾いた風が吹き付ける。

周囲一帯には赤土の大地が広がり、低い岩山が散見する不毛の荒野が続いていた。


「フィールドがこれだけ広大だと流石に移動時間がかかるな。全く、船で河川を移動出来ないと不便でしょうがない」

「誰のせいだ誰の」


真也のぼやきに半目の秀介がツッコミを入れた。

元々、船を使って移動出来ない原因は、天馬騎士団の追跡を撒くために真也が〈FANGコア〉を使って船を曳く水獣を暴走させたことにある。

集団で河川を遡上して行った水獣達は、途中の街に係留されていた水獣をも支配下におき連れて行ったため、グラネル周辺地域一帯の水運に大きな混乱を引き起こしているのだった。


暴走した水獣は現在各地で捕獲されているが、〈テイマー〉の調教によって持ち主の言うことを聞くようにした〈テイム〉状態が解除されているようで、全ての船と水獣が持ち主に返ってくるまではまだ時間がかかりそうだ、と船着き場で船主達が嘆いていた。

そして、運行している船便が激減している分、川を使った輸送は食料など民衆の生活に不可欠な物を最優先するように王命が発せられたそうで、冒険者の移動に船を使うなどあり得ない状態らしい。


そのため真也達は長い時間をかけて陸路でここまでやって来たのであった。

フィールドの風景が荒野に変わってからもう数日は経っているため、じきに目的の街までたどり着く筈だ。


「あれ? 地面に穴が空いてますよ?」


不思議そうに声を上げた瑠璃羽の視線の先には、街道脇の荒れ地に不自然に空いた、人が三・四人は入れそうな垂直な縦穴があった。


「ああ、それはアーレアに近づいている証拠だな。中にモンスターが住み着いてる可能性があるから一人で近づかない方がいい」


好奇心からか恐る恐るといった様子で穴に近づこうとした瑠璃羽を引き止め、前作の知識で縦穴と街について解説を始める真也。


「街周辺の地中を掘ると〈魔石〉と呼ばれる宝石のようなアイテムが採掘出来る。高価な〈魔石〉を見つけて一獲千金を夢見る採掘者が集まって出来た街がアーレアだそうだ」

「そうなんですか! じゃあ、あの穴は街の人達が掘ったものなんですね。でも、それだとアーレアの名前って賭博都市より採掘都市とかの方が似合うんじゃないですか?」

「実はアーレア周辺はそんなに良い採掘場じゃあないんだ。それこそ国のお偉いさん方からは大して興味も持たれず無法者達が幅を利かせる程度の場所でしかない。だから採掘者が一獲千金の夢を叶えられる可能性なんて極々ほんの僅か。彼らのほとんどは粗悪で安物の〈魔石〉を掘り出して日銭を稼ぐのがやっとの生活をしている」

「やっぱり、夢は夢でしかないんですね……」


採掘者達の厳しい現実を知って心を痛めたのか、それとも他に理由があるのかは判断出来なかったが、瑠璃羽は俯いてしゅんとしてしまった。

そこで真也は、重くなってしまった空気を変えるため、努めて明るい口調で問いかける。


「さて、ここで問題だ。夢のない現実に直面した採掘者達は、その後いったいどうしたと思う?」

「えっと……一獲千金は諦めて真面目に働くようになると思います」

「あはは……全人類がみんな瑠璃羽ちゃんみたいだったら、きっと世界は平和になるんだろうなあ」

「へ? そ、そうなんでしょうか?」


ほとんど答えの分かっている筈の問題を素で間違える瑠璃羽に、苦笑しながらその純粋さに感慨を覚える真也。

真也の呟きを聞きキョトンとしながら戸惑っている瑠璃羽を見て、さっさと問題の答えを教えることにする。


「高価な〈魔石〉を見つけて大儲けが難しいと分かった採掘者達は、それでも一獲千金を諦め切れなかった。そこで目をつけたのが他の採掘者達の稼ぎだ。採掘者達は掘り出した粗悪な〈魔石〉を賭けのチップとしてギャンブルをするようになる。その規模が膨張していってアーレアは賭博の街として栄えることになったらしい」

「……え? ちょっと待ってください、採掘者さん達は暮らすことが精一杯のお金しかなかったんですよね? それなのに賭けごとなんてしていいんですか!?」

「良くないだろうなぁ。当然の如く色々と問題が発生したようだ」


真也は瑠璃羽に詳しく説明しなかったが、発生した問題とは、身持ちを崩して犯罪に走り盗賊化する者が増えたことと、賭博場を仕切る後ろ暗い組織によって借金漬けにされ奴隷制のないこの世界で半ば奴隷化する採掘者が増えたことなどだ。


「ダメじゃないですか……わたし、そういう遊びは節度を持ってやるべきだと思います!」

「……おっしゃっる通りです、すいません」

「なんで真也さんが謝るんですか!?」


以前仕事でマカオに行ったとき、どうせ普段は使う時間なんてないんだからと大金をカジノに注ぎ込み、大負けして酷く後悔した記憶を思い出してしまった為だ。


「理論は完璧だったんだけどな……」

「……これから行く街で賭博場に入り浸ったりなんてしちゃダメですよ?」

「大丈夫、分の悪い賭けはしない主義だからな」


真也の呟きを聞いてジト目で注意してくる瑠璃羽をそう言ってなだめる。

無法者ばかりの街にある賭博場など八百長が当たり前であろうため、真也は利用する気になれなかった。


「おーい、お二人さん、話ばかりしてないでさっさとあの穴に対処しようぜ」


秀介に声をかけられて、道端で話し込んでしまっていたことに気付く真也。


「悪い悪い、取り敢えず俺の〈気配〉スキルじゃあモンスターの反応はない」


そう言ってカティの方見るが、小さく左右に首を振られてしまった。

彼女のスキルでも反応はないようだ。


「手前の町で聞いた話だと隠密能力の高いモンスターが潜んでる可能性があるらしいじゃない。少しだけ大回りして避けましょ?」


その穴は街道脇にある獲物を待ち伏せるには最適の場所なため、モンスターが隠れている可能性は高い。

戦闘を避けたいならリーサの言う通りにすべきだろう。


「いや、強さを把握しておきたいからちょっと戦ってみない?」

「まあ、これだけ人数がいるんだ、様子見ぐらいしてもいいだろう」


だが、秀介がリーサの意見とは逆の提案をして、真也が即座にそれを支持する。

二人の本音としては、初見のモンスターを避けるなど動画的に面白くないといったところである。


「それもそうね。じゃあ、爆薬でも投げ込んでみる?」

「一先ずルリハちゃんに支援魔法をかけて貰ってからだな」


液体入りのフラスコを取り出したリーサを真也が止めると、瑠璃羽が各種パラメータを増強する支援魔法をかけていく。

現状で瑠璃羽のプレイスタイルは、支援魔法の効果持続時間などを余り考えず、使える魔法は全種類ひたすら重ねがけを続け、MPを垂れ流す初心者丸出しといったものであるが、枯渇したMPはアイテムで回復すればいいし、このパーティにはそれを可能にする資金力も生産力もある。

更に白石が気を利かせ、こまめに〈中級MP回復ポーション〉を瑠璃羽に使用していたので彼女のMPが底をつくことはなかった。

白石のレベルはまだ十八と低く、パーティに貢献しづらいため気を使っている風な様子だ。


「すいません、取得したスキルを使ってみたいんですが、いいですか?」

「ああ、例のやつね。じゃあ初撃は任せた」


真也からゴーサインを受けた白石がロッドを構え、周囲に黄色い魔法陣を発生させる。

通常、盗賊は魔法スキルを習得出来ないのだが、白石の取得した〈スペルドロー〉はそれを変則的に可能にするスキルだ。

魔法スキルの全行程を〈スペルドロー〉を発動させながら観察することで、一度だけその魔法が使えるようになる。

スキルレベルに応じてストック出来る魔法の数は増えるが、手に入れた魔法は本来程の威力は出ない上、一度使えば消えてしまうためメインの攻撃手段で使うには中々と制限が厳しい。


「〈サンダーボム〉!!」


白石が使用した魔法は、先程秀介が使っていた雷属性中範囲攻撃魔法だ。

放物線を描いて飛んでいったサッカーボール程の雷の玉が、荒野に空いた穴に落ち接地と同時に中範囲放電現象を起こした。

縦穴から電撃が溢れてほとばしり、金属を擦り合わせたかのような悲鳴が響く。

だがしかし、それで息絶えてくれるような生半可なモンスターではないようで、すぐに穴から這い上がり、その長い体躯を真也達の眼前にさらけ出した。


「ひっ!?」


リーサに小さく悲鳴を上げさせたモンスターの外見は、人の背丈の二倍はありそうな巨大ムカデだった。

〈キラーセンチピード〉、硬い外殻で覆われ素早く動き、体中に生えた鋭い棘には麻痺毒が備わっている。

この周辺地域では最上級に厄介な部類のモンスターだ。

巨大ムカデはこちらを威圧するように顎を大きく開き、キチキチと気色の悪い鳴き声を発した。

その威嚇はこちらの恐怖心を煽る凶悪な姿であったが――長続きはしなかった。

突然の爆音。

直後、巨大ムカデ全体が爆炎で覆われる。

苦しそうな金属質の悲鳴を上げよろめく巨大ムカデだが、爆炎の第二撃、第三撃、が巻き起こり、呆気なくその巨体を荒野に横たえるのだった。


「はあっ……はあっ……はあっ……」


顔を青ざめ息を荒立てたリーサが、何かを投擲した姿勢で固まっている。

先程の爆炎は、リーサが攻撃アイテムを投擲した結果であった。

アイテムの効果を高めた上で三つ同時に投げつける〈トリプルスロー〉と、素早く連続でアイテムを投げる〈クイックスロー〉のスキルを組み合わせた飽和攻撃。

それも高価で錬金に長い時間のかかる上等な爆薬を投げ続けたようで、明らかにオーバーキルだった。


「……私、ああいう気持ち悪いの……ムリなの」

「そ、そうか……」


なんてもったいないことを、と思った真也だったが、リーサの鬼気迫る様相に、表情を引きつらせながらそう答えることしか出来なかった。

結局、〈キラーセンチピード〉の強さは分からなかったな、などと考えつつ、微かに見えてきた街の方へと近付いて行く真也達一行だった。

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