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57話 共闘

「――メレディア!!」


シャロットが倒れた副団長の名前を叫んだ時には、既に真也は駆け出していた。

衛兵が剣を構え直す間も与えずに、シャムシールを居合いの要領で振り抜く。


「ぐっ!?」


更に、斬り付けられ地面に倒れた衛兵に飛び掛かり、組み敷いた上で甲冑と兜の間に剣の切っ先を突き込んだ。

衛兵が動かなくなったことを確かめた真也は、シャロットとメレディアの様子を確認する。


「傷の程度は!?」

「……気を失っているだけのようです」


シャロットはメレディアに寄り添い安堵の表情を浮かべている。

ゲームのシステム上、ダメージによる外傷は発生せず、ただHPが減るだけである。

死んでさえいなければHPは回復させられる。

気絶しているだけなら、時間が経てば目を覚ますだろう。


「それは良かった……ポーションは必要ですか?」

「いえ、大丈夫です」


シャロットは自分のストレージからポーションを取り出すと、メレディアにゆっくりと飲ませていった。

これで減少したHPも問題なく回復する。


「何故、屋敷の衛兵が……いったい何が起きている……」


思案顔でそう呟いた真也に、シャロットが深刻な表情で話し出す。


「……男爵が、手懐けたモンスターや自分の手勢を使って私の騎士団を排除するつもりなのでしょう」

「男爵が!? 何故そんなことを!?」

「男爵は私の任務の詳細を知っていました。その手柄を横取りしようというのか……あるいは……」


明言はしなかったが、まず間違いなく男爵が革命軍と通じていることを疑っているのだろう。


「……申し訳ありません、詳しくは話せないのです……しかし、その上でお願いしたいことがあるのですが……」

「これが男爵の策略なら、ここは既に敵地のど真ん中。気を失っている彼女を一人、こんな所に置いて行く訳にもいかない。助力が必要なんですね?」


歯切れ悪く、心底申し訳なさそうに話すシャロットに、先回りして結論を言う真也。


「はい……」

「いいでしょう、喜んで貴方達を護衛しますよ」

「……ですが、貴方は元々無関係の筈なのに、厄介な貴族同士のいざこざに巻き込まれることになるかも知れません……」


助力を快諾した真也に、なおも心配そうに確認するシャロット。

対して真也は、それが何でもない事かのように笑いかける。


「ははは、貴方の為なら、その程度のことは大したことじゃあありませんね」

「え……そ、そうですか。……恩に着ます」


貴方の為なら、という部分を気持ち強調した真也に、シャロットは僅かに頬を染めて動揺したように返事をしたが、すぐに平静を取り戻し意志の強い瞳で屋敷の方向を睨み付けた。


「私はこの子を運ばなくてはならないので、大立ち周りは難しいでしょう。部隊に合流するまでで構いませんので、力を貸して下さい」


シャロットはメレディアを背負うと、ストレージからジャベリンを取り出した。


「はは、彼女を背負って戦うつもりですか? 残念ながら、私がそんな事態にはしませんよ」

「ふふ、それは頼もしいですね」


二人はそんなことを言って軽く笑い合うと、屋敷の中へと踏み込んで行った。

衛兵やモンスターに見つからぬよう〈照明石〉は使わず、廊下に所々設置された灯火を頼りに、天馬騎士団にあてがわれた屋敷の一角を目指す。

先行する真也が、暗闇を見渡せる〈眼力〉と〈気配〉のスキルを活用し敵を警戒していると、こちらに向かって急ぎ足でやって来る二人組の衛兵を察知した。

後続のシャロットを片手で制し、真也は〈中級AT強壮薬〉などのドーピングアイテムを服用し駆け出した。


「誰だ!? ……何だ、たしか最近来た御用商人の護衛――っ!?」


衛兵の一人は警戒の声を上げたが、近付いて来た人物が真也だと気付くと気を緩め、そして、驚愕の表情となった。


「キ、キサマ、何をするっ!?」


動転した怒声を上げたのは、もう一人の衛兵だ。

それも当然の反応だろう。

真也は、初めに声を掛けてきて油断した衛兵の全身甲冑、その視界確保の隙間にシャムシールの切っ先を滑り込ませていたのだ。

崩れ落ちる衛兵からシャムシールを引き抜くと、怒声を上げた方の衛兵が斬り掛かってきたため、〈受け流し〉によってその剣筋を逸らす。

周辺にそこまで強力なモンスターのいないグラネルの兵士など、練度がたかが知れていた。


「キサマ、いったい誰の手先だ!?」

「黙れ逆賊! この騒動がマディソン男爵の天馬騎士団を襲撃する計略だという事は既に分かっている! お前らは分かっててやっているのか!? 近衛を襲ったということは陛下に反逆したということだ! 男爵家は取り潰しになるぞ!」

「ふざけるな! 何を言うかと思えば――っ!?」


真也の糾弾に怒り狂った衛兵だったが、真也の後ろからジャベリンを構えたシャロットが、衛兵を睨み付けながら駆けて来る姿を確認して、目を見開いて後ずさる。


「大丈夫でしたか?」


シャロットが真也のもとに来て声を掛けたときには、既に衛兵は逃げ出していた。

逃げながらも時折振り返ってこちらの様子を確認する衛兵を、真也は追わなかった。


「追撃は危険ですね。今は部隊に合流することを優先しましょう」

「そうですね。メレディアを置いていく訳にもいきませんから」


真也の言葉にシャロットも同意する。

シャロット少し後ろにメレディアを置いて駆け付けて来たようで、そもそも、このまま衛兵を追うことは出来なかった。


その後も衛兵達を相手に同じようなやり取りを繰り返し、屋敷の奥へと進んで行った。


「向こうに大人数の衛兵達がいるようです。遠回りをしてでも遭遇しないようにしましょう」

「分かりました」


そんなやり取りも何度かあり、少し時間がかかってしまったが、無事に目的地付近に到着した。

そこは天馬騎士団と〈ゴールドフォックス〉の群れとの交戦地帯だ。


「シャロット団長! お待ちしておりました! 突然モンスターに襲撃され、その後、つい今しがたこの屋敷の衛兵までもが敵に回り……っ!?メレディア副団長が――」

「大丈夫だ、今はただ気絶しているだけで――」


シャロットは、彼女に気付いて駆け寄って来た団員に理由を説明してメレディアを受け渡した。


「皆さん、聞いて下さい! どうやらこの件の首謀者はマディソン男爵のようです! 輸送対象を護衛する隊と男爵を捕らえに行く隊に再編します!」


よく通る声を上げ、部隊の指揮を始めたシャロットに、真也が声を掛ける。


「シャロットさん、申し訳ないのですが、私はここでお別れです。護衛を受けている商人の方は一刻も早くこの屋敷から避難したいでしょうから、すぐに向かわなくてはいけません」

「はい、大丈夫です……。シンヤさん……今回の件は何とお礼をすればいいのか……このご恩はいつか必ずお返しします。本当にありがとうございました。今は時間がなく、簡単なお礼の言葉を言うしか出来ないことを謝らせて下さい」

「いえいえ、そんな。貴方のその言葉だけでも私は十分ですよ」

「……本当に、ありがとうございます」


再び礼の言葉を言ったシャロットは、真也に向かって深くお辞儀をすると、男爵を捕える部隊の指揮のために騎士団の中心付近へと向かって行った。


真也はその姿を見送ると、彼女とは反対の方向へと歩き出す。

その顔にはいつもの黒い笑み。


計画は、全て順調に進んでいた。

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