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42話 不和の種と別れの挨拶

三澄達を追跡した日の夜、真也はホテルの自室で彼らのプレイ動画を見ていた。


三澄のパーティは宝箱を開けた後も〈岩垣の海岸〉の攻略のため、どんどん奥へと進んで行く。

道中のモンスターは、以前よりもずっと早く倒せるようになっていた。

三澄の攻撃力が一撃で敵を倒せる程に強くなっているため当然だろう。

硬い殻を持つ〈ティアークラブ〉さえ一撃では、その狩場で苦戦のしようがなかった。


そして、奥地へ入って行くにつれモンスターの密度は上がって行き、まるで砦を守る兵士であるかのような統率された動きをするようになる。


『やはりここにも〈白夢の森〉と同タイプのボスがいるようだな。もう時間が遅いし、敵の数は多い。今日は帰って明日、大人数でボス狩りをするとしよう』


三澄がそう判断し、パーティは帰路につく。


素早くモンスターを排除出来るようになった三澄パーティは、狩場攻略のスピードが断然はやくなった。

ただ、一見順調な攻略で何も問題はなさそうだったが、そこにはしっかりと不和の種火が燻っていた。


『なあ三澄、今レベルいくつまで上がった?』

『23になったところだ』

『……俺はまだ20になったばかりだ』


このゲームの経験値配分は戦闘への貢献度に依存する。

破格の攻撃力で敵を薙ぎ払う三澄に経験値が集中してしまうのは無理もない話だった。


騎士剣の取得で戦闘は三澄の見せ場となってしまい、パーティメンバーは脇役のようにしか見えない。

そんな中で更に、戦闘能力の差がどんどん広がっていく現状は焦りを覚えるものだろう。

いくら動画の広告料をパーティで均等割していると言っても、この先ずっと三澄とパーティを組んでいられる保証はないため、彼にばかり人気が集中するのは面白くない筈だ。


明らかに不満げな表情の〈軽業士〉に、三澄が申し訳なさそうに言い訳を始める。


『自分だけレベルの上がりが早いことは悪いと思っている。だが、この剣を使った方が攻略が早くなるし、モンスターを倒せる数が増えて、結果的に皆の取得経験値も以前より増えている。どうか理解してくれないか?』

『ああ、それは分かっている……。変なこと言って悪いな』


口ではそう言っているが、明らかに渋い表情の〈軽業士〉。

他のパーティメンバーも若干表情が硬かった。


そんな様子を見て、真也はとてもいい笑顔になるのだった。









ゲーム内時間で7日目。

真也は朝一番でリーサの工房前まで来ていた。


『現在多忙によりアイテムの個人販売はしておりません』


工房の扉にはそう書かれた札が掛けられており、しっかりと施錠されているので取り敢えずノックをしてみたが、反応は無い。

だが、〈気配〉で中に人がいることは分かっていたので声を掛ける。


「リーサ、居ないのか?」

「あら、アナタだったの。おはよう、早いわね」


真也だと気付き扉を開けたリーサに招き入れられ工房内に入る。


「今個人客は相手にしてないのか?」

「ええ、騎士団への納品で手一杯だし、怪しい連中が来るかも知れないなら会わないのが一番でしょ? まあ、もうすぐそんなことは言ってられなくなるかもしれないけど」

「草原の騒動にも終わりが見えてきたからな。だが、狩場の異変を解決する為に動いている連中がいる。そちらも終息すれば、工房の経営状態は危機に陥る前と同じになるだろう」

「だといいんだけどね」


やれやれといった雰囲気で肩を竦めたリーサだったが、すぐに真剣な表情となった。


「今日、行っちゃうのよね」

「そうだな」


この後、真也は次の街へと出発する予定のため、分かれの挨拶に来たのだ。


「そんなとこに隠れてないでこっちへ来たらどうだ、カティ?」

「別に隠れてねーし!」


奥にある扉の裏から様子を窺っていたカティが、意地を張った様子で工房内へと入って来た。


「そんなに不機嫌そうな顔するなよ」

「はっ、アタシは元からこんな顔だ」

「はいはい、お菓子やるから機嫌直せ」

「いらねーよ! 子供扱いすんじゃねえ!」

「子供だろうが」

「アタシは一人で生きていけんだからもう十分大人だ!」

「へーそう」


友人の家に居候状態の奴がよく言う、と思った真也だが、それを指摘するとカティは再び路上生活を始めそうなので黙っておく。


「まあ、焼菓子を買ってきているから食べてくれ」


真也はストレージから取り出した布の包を開き、テーブルの上にクッキーのような物を広げた。


「あら、いい香り。もしかして焼きたて?」

「ついさっき買ったばかりだからな」

「朝早くからよく売ってくれたわね」

「店で仕込みをしていた菓子屋に少し包んで、すぐに焼いてもらったからな」

「あ、あはは……そう」


甘い香りが漂う焼菓子にすぐさま反応したリーサが寄って来ると、それに釣られてカティもやって来る。


「ふん、相変わらずいやらしいカネ使いしてんなぁ。どうせあぶく銭なんだろ?」

「失礼な奴だな。これはしっかりと汗水垂らして働いた報酬で買った物だぞ。草原のモンスター駆除は中々儲かるし、街の為にもなるから気分の良い仕事だな。きっとこの街の領主も、今頃俺に泣いて感謝してる」

「原因を作ったのはオマエじゃねーか」

「お前も確実に共犯だけどな」


憎まれ口を叩くカティに厚かましい発言で返す真也。


「感謝してるかは別として、多分泣きたい気分にはなってるでしょうね」


リーサは呆れた口調でそう言うと、真也の手土産の焼菓子を摘む。


「あっ、これ美味しい! アナタ、この街に来たばかりなのにいい店知ってるのね」

「気に入ってくれたようで何よりだ。評判のいい店を苦労して探し回った甲斐があったよ」

「え!? わざわざそこまでしてくれたの?」

「色々と世話になったし、迷惑も掛けたからな。それぐらいはするさ」

「そんなのお互い様なんだし別にそこまで気を使わなくても……いえ、ここは素直にお礼を言うべきだったわね。ありがとう、私、甘いもの好きなの。だから凄く嬉しいわ」


実際は評判のいい店を探し回ってなどおらず、大した苦労はしていない。

料理アイテムを作る生産職、〈調理師〉のプレイヤーがこの街の飲食店をハシゴする食リポ動画を上げていたため、その中で一番高評価だった菓子を買って来ただけだ。


女性はちょっとした贈り物の場合、あげる物自体よりも、それを選んだりする苦労や、それに付随する気持ちの方を高く評価するものだと聞かされたことがあった真也は、まるで焼菓子を苦労して選んだかのように演出したのだった。

その効果は中々あったようで、普段は少々斜に構えたような態度のリーサから、素直なお礼を聞くことが出来た。


すると、美味しそうに焼菓子を食べるリーサの様子を見たカティがツバを飲み、コソコソとテーブルに手を伸ばす。


「さっき、いらねーよ、って言ったのはどこの誰だったかなあ」


そんな真也の発言に、伸ばされたカティの手が止まる。

代わりに真也が手を伸ばし、焼菓子を一つ口に放り込んだ。


「いやー、それにしてもこの焼菓子は美味いなあ」


わざとらしい真也の感想に、止まっていたカティの手がプルプルと震える。

カティの機嫌を取るために買ってきた菓子だったが、ついついからかいたくなってしまった真也だった。


「まったくもう……意地悪はよしなさいよ」

「ははは、冗談だ。別に食べてもいいんだぞ、カティはお子さまなんだし」

「……」


そのとき、ぷちっ、と何かが切れる音が聞こえた気がした。

おもむろに焼菓子を手に取ったカティ。

そして、次の瞬間には真也の目の前に焼菓子が迫っていた。


「おわっ!? クソ、何しやがる!?」


〈投擲〉によって鋭く投げ付けられた焼菓子を、真也は顔面手前で何とかキャッチした。

だが、すぐに追撃が迫る。


「おいコラ!? バカ! 止めろ!」


連続で投げられる焼菓子が床に落ちないよう、何とか手で受け止めていく真也。


「はぁ、何やってんのよ、もう……」


高速で焼菓子を投げ続ける子供とそれを取り続ける大人。

そんなシュールな工房内でリーサは一人ため息をつくのだった。









「……」


砕けた焼菓子の山を無言で見つめるリーサ。


「すまん。悪ふざけが過ぎた」

「リーサごめんよぉ、ついカッとなって……」


そんなリーサに謝り続ける真也とカティ。


「……別にいいわ。でも、変わりに頼みたいことがあるんだけど」

「頼みたいこと?」


リーサは仕方ないといった口調で真也に言う。


「買ってきてよね、他の街のお土産。またウチに来てくれるんでしょう?」

「ははは、なるほど。まあ、行き先はこの街が接する川の上流にある街だから、カネさえあればすぐに行き来が出来るしな。出来るだけ早く顔を出すから、土産は期待していてくれ」

「そ、じゃあ、これ、旅の餞別ね」


そう言うと、リーサは大きめの袋を取り出した。


「私が作った役に立ちそうなアイテムを詰めておいたわ」

「悪いな。今は忙しいだろうに、わざわざこんな物を用意してもらって」

「カティちゃんも作るの手伝ってくれたのよ」

「なんだ? 俺の為にわざわざ手伝いをしてくれたのか?」

「ちげーよ! リーサの為に決まってんだろ!」

「そうかそうか」

「なんだよその生暖かい目は!?」


そろそろ工房を出なくてはいけない時間だったが、真也は最後まで軽い調子で話す。

すぐに戻って来るつもりなので、重苦しい別れなど必要ない。

そう考えた真也は別れの言葉もあっさりとしたもので済ます。


「それじゃあ、そろそろ行くとしよう。また来る」


そう言って工房の出口に向かう真也。


「おい、待ってるからな」


そこに声を掛けるカティ。


「オマエじゃなくて、土産の方をだかんな!」

「ははは、はいはい」


最後まで意地を張るカティに苦笑しつつ、適当な返事をして工房を後にする真也だった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] はぁー、可愛すぎるーー。某名作の金髪ヒロインのようにロボットに二人のAIを転写したいものだね
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