36話 三澄と瀧上 (+掲示板)
「瀧上は元々、三澄とは距離を取りたがっていた」
「まあ、そんな気がするよな」
真也の言葉に秀介が同意した。
それは彼らの動画を見れば分かることだ。
瀧上ら魔法系プレイヤーは最も早い段階からレベル上げに乗り出し、真也を除くとトップのレベルを誇る。
ゲーム開始初日から、武器が無くても魔法が撃てる彼らは個人個人で草原のアングリーチキンを狩り始めた。
多少のリタイアは出たが概ね上手く行き、彼らはトッププレイヤーとして動画の人気を集めることとなる。
だが、二日目に起きた〈白夢の森〉の火災で溢れ出した強力なモンスターにより、その数は半減することになる。
今までやっていた戦法、遠距離から魔法攻撃を連発して敵に近付かれる前に倒す、というものが通用しなくなってしまった。
そこで台頭したのが瀧上だ。
〈白夢の森〉の方向に煙が上がり始めたことに気付いた瀧上は、異変を感じ取り即座に撤退を選ぶ。
事前に危機を回避し生き延びた瀧上は、強力なモンスターに追い回され、ほうほうのていで生き残った他の魔法系プレイヤー5人を勧誘して纏め上げ、パーティとして狩りを始める。
そして、複数人による小範囲魔法の一斉掃射でモンスターをグループごと駆逐して行き、効率よくレベルを上げていった。
ただ、その戦法にも弱点はある。
打たれ弱い魔法系職業しかいないパーティは敵に接近されると厳しい。
ターゲットとなる敵グループしかいない状況でなら、高火力な魔法で近付かれる前に倒せるが、そこはモンスターで溢れる草原、いつ他の敵が寄って来ても不思議ではない。
事実、瀧上のパーティは何度か敵に追い回される危機的状況に陥っている。
だが、常に周りをよく見ている瀧上の状況把握能力のお陰か、逃げを打つタイミングが早くリタイア者は出していない。
動画のコメントでは『逃げ足の早いおっさん』などと言われていたが、称賛の言葉だろう。
それでも、パーティ内には何度も逃げ回らなければならないことに対する不満が出ていたようだ。
接近戦が出来る壁役をパーティに入れたらどうか?
他の冒険者パーティを護衛に雇ってはどうか?
などという提案が度々されていた。
だが、それをするには難しい事情がある。
先ず、瀧上のパーティは前衛との共闘が難しい。
攻撃は味方にも当たるため、前衛がいては範囲魔法を撃ち辛いからだ。
前衛に配慮した魔法しか撃てなければ、瀧上パーティの強みである殲滅能力が大分落ちるだろう。
では敵に近付かれたときだけ戦って貰えばいい、とすると、今度は経験値システムの問題が出てくる。
このゲームの経験値分配は戦闘に対する貢献度によって決まる。
近接プレイヤーを壁役に迎えたり護衛を頼んだりしても、経験値の殆ど全ては敵を倒す魔法系プレイヤーに入るだろう。
敵に近付かれなければやることは何もないのだから当然だ。
まともに経験値が入るのは時々ある接近戦に持ち込まれたときだけ。
そんな不平等なパーティに入るのなら、近接職プレイヤーは自分達だけで戦った方が効率がいいだろう。
ならばNPCの冒険者を誘えばいい、とすると、能力面と信用性の問題が無視できない。
能力のある冒険者なら普通に狩りをしていた方が稼げるので、雇えるのは微妙な実力の者達になるだろう。
そして信用性の問題はかなり深刻だ。
いざ敵に近付かれたとき、先に逃げ出されでもしてはたまったものではない。
当てにしていた分、瀧上達が逃げ遅れる可能性も出てくるだろう。
瀧上はそういったことを丁寧に説明し、仲間に納得して貰っていた。
経験値効率がよく、現状上手く行っているものを変える気はなかったようだ。
だがそこに、新たな不和の種が出てくる。
三澄が頭角を現してきたのだ。
ゲーム開始から3日目には、安い最低限の装備を揃えたプレイヤーを10人以上集め、陣形を組んだり敵を包囲したり、多種多様な職種や人数を活かした戦い方でレベルを上げていった。
そしてその動画はかなりの人気を集めることとなる。
プレイヤーが多く集まるというだけで注目される上、その戦い方は見ていて飽きない多様性を持っていたので当然だ。
更に、その動画は個人個人でアップするのではなく、パーティ全体で一つに纏めたものをアップし、広告料は平等に分け合うという形を取っていた。
それにより視聴者は分散されることなく、一つの動画の人気を暴騰させた。
このイベントでは、動画の再生回数に応じたランキングがつけられている。
視聴回数の多いランキング上位の動画は、多くの人の目にとまるため更に人気が上がっていくことになるだろう。
三澄達の動画は一気にランキング1位へ駆け上がり、それまで1位だった瀧上の動画を押し退けた。
瀧上は何か思うところがあったかも知れない。
4日目には、三澄達の動画を見たプレイヤーが更に5人程加わり、より大所帯となって狩りをしていた。
そして、偶然なのか三澄が意図したのかは不明だが、瀧上のパーティと三澄のパーティは草原で出くわすことになる。
三澄は瀧上へ気さくに話し掛け、何気ない世間話の途中で勧誘の言葉を放ったのだ。
自分達に合流しないか? と。
やんわりと断った瀧上だったが、パーティメンバーには乗り気な様子のプレイヤーもいた。
逃げ回る、という動画の絵的に格好悪い行動が不満だったであろう人物達だ。
瀧上は恐らく、三澄に主導権を握られるのを嫌ったのだろう。
大人数で組まずとも上手くやれる己の実力に対する自信、今までトップの人気を誇りレベルは三澄より高いというプライド、年下に仕切られることが気に食わないという感情、様々な理由が真也には思い当たる。
「三澄に取り込まれることを危惧していた瀧上が、三澄と一緒に行動していたんだ。共同戦線を張って俺に対抗している可能性も考えて瀧上を挑発してみたが、三澄はそれを諌めた。瀧上は完全に主導権を握られていたようだった。三澄は俺を共通の敵としてやり玉に上げることで、自派閥の結束と拡大を図っている。奴が瀧上を抱き込むことは難しそうだが、そのパーティメンバー数人は引き抜けるかも知れないな。瀧上は余りいい感情を持っていなくても当然だ」
「ほっておいても大丈夫そうか?」
「いや、そうもいかないだろう。共通の敵にヘイトを集めて人を纏める手法は中々に有効だ。ある程度の不和が起きても敵に不満を逸らせば、なんの問題もなく纏まってしまったりする。瀧上だけが動いた程度じゃあそう簡単には崩壊しないだろうな」
「おいおい、さっき簡単に崩せるなんて言ってたじゃないか」
「まあ、やりようはあるだろう」
「それもそうだな」
気楽そうに話す真也と秀介。
「だけど、今の状態は結構面倒くさいことになってるよね。真也のやることなすことケチをつけられて邪魔されそうじゃない? 全部自業自得だけど」
「まあ、露骨にやると見苦しくなるから、あからさまな手段は取らないかもしれない。ただ、確実に邪魔にはなるな。でも、それは一つに纏まっている状態だからこそだ。バラバラにしてしまえば、敵は俺だけじゃあなくなる。俺だけに目を向けている訳にも行かなくなるだろう。何か他のプレイヤーの力が必要になったとき、利用出来る隙も生まれる筈だ」
そう結論づけた真也は、秀介と話しながら編集していた動画をアップし始め、掲示板の様子を確認していく。
【トッププレイヤー】盗賊、一之瀬真也スレ2533【動画ランキング1位】
131: 名無しの視聴者 : ID:Tu9ki9AU0
おお! こんな微妙な時間に動画が上がったぞ
134: 名無しの視聴者 : ID:1Ujd7u1tT
そんな餌で俺様が釣られクマー
138: 名無しの視聴者 : ID:er31QuYtr
釣り乙、と思ったらマジで上がってるじゃねーか!
147: 名無しの視聴者 : ID:siH2auoKp
マジか!?
そうか、昨日、夜活動したから早めにログアウトしたんだな!
159: 名無しの視聴者 : ID:Yjso6u5TR
おっと、いきなり尾行されてるぞw
177: 名無しの視聴者 : ID:UaNfKuaeq
そりゃそうだろwww
自業自得過ぎwww
189: 名無しの視聴者 : ID:uyAywTRyu
でも普通に意味ないだろ
コイツらバカすぎwww
199: 名無しの視聴者 : ID:7DjxN42Yu
は? お前の方が馬鹿だろ
瀧上さんは失敗したとしても動画が面白くなるからやってるに決まってんじゃん
231: 名無しの視聴者 : ID:GhwNHGy3u
路地裏で撒くつもりか
254: 名無しの視聴者 : ID:eZ5ue5YRo
瀧上! 上、うえー!
269: 名無しの視聴者 : ID:6Ha3iU90Q
上から来るぞ!気をつけろぉ!
276: 名無しの視聴者 : ID:wEe33tTE2
あれ? 見逃すのか。命拾いしたな瀧上
302: 名無しの視聴者 : ID:sueYQnUIl
地下通路の詳細は結構カットしてるな、まあ当然か
310: 名無しの視聴者 : ID:Hse8W2eRy
あれ? この地下倉庫にある大量の素材、真也さんが置いてったヤツじゃね?
ていうことはここ、リーサちゃんのアトリエ?
真也さんが行くっていったらそこだよね
316: 名無しの視聴者 : ID:YUNmDgufS
そんなところにも繋がってるのか!? 最強だな大地の神殿
321: 名無しの視聴者 : ID:EsuiFH2Ya
おい! リーサちゃんのお部屋に侵入したぞコイツ!?
369: 名無しの視聴者 : ID:6EUn8W1mw
マジでっ!? ヤベェ、なんか興奮してきた!!
421: 名無しの視聴者 : ID:Tia23uSfg
おお! 意外に女の子らしいキレイな部屋だな!
自分の部屋だけでも可愛くしておきたいお年頃なのかな?
479: 名無しの視聴者 : ID:ssiYwNwEe
なんかいいニオイがしそう!
522: 名無しの視聴者 : ID:JkaZCaitK
って、寝起きリーサちゃんキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
547: 名無しの視聴者 : ID:tajQerKHo
リーサちゃん居たしwwww
時間的にお寝坊さんだな
というか服装がヤヴァイwwwww
587: 名無しの視聴者 : ID:Dhx4u7Bt9
かわいいパジャマがはだけて肩まで出てる!
あ、あとちょっと、あとちょっとだけ下にずり落ちてくれれば……
607: 名無しの視聴者 : ID:dkayaJDmM
これ以上見るには製品版を購入して下さい
618: 名無しの視聴者 : ID:yaIsUIyaW
頼む! 売ってくれ!
621: 名無しの視聴者 : ID:usjKdoTaS
薄い本が厚くなるな
次の即売会が楽しみだ
633: 名無しの視聴者 : ID:sU7ue6WY1
やべぇ、盗賊って最高だな!
642: 名無しの視聴者 : ID:weU2haTTr
クソッ、はだけたパジャマ姿か!
真也さんの〈ラッキースケベ〉スキルのレベルがもっと高ければ全裸だってあり得たのに!
なんて惜しい!
653: 名無しの視聴者 : ID:syYuIOREa
そんなスキルねーよw
ていうかその程度だったから俺らも規制されずに見れたんだから逆に良かったじゃねーか
668: 名無しの視聴者 : ID:YtfaGHokN
寝ぼけ口調かわゆすぎ!
ていうかリーサちゃん、カティちゃんと一緒に寝たりするのか……あれ? どうして鼻血が?
689: 名無しの視聴者 : ID:3naK9uAeZ
蕩けるような声が……
俺、カティちゃんじゃないけど一緒に寝ていいですか!?
701: 名無しの視聴者 : ID:yshOj6mK9
駄目だ帰れ死ね!
712: 名無しの視聴者 : ID:KToprprJK
カティちゃん、カティ……カティ……
なあ俺、加藤って言うんだけど、響きが似てるから一緒に寝てもいいよね?
723: 名無しの視聴者 : ID:52dke9WCv
ダメに決まってんだろ死ね!
752: 名無しの視聴者 : ID:sjdiVNuiH
第一声で謝らないwww
そこで誤魔化そうとするのが真也さんクオリティwww
797: 名無しの視聴者 : ID:audjHsYyt
ヤバイ羞恥で震えるリーサちゃんかわいいヤバイ
824: 名無しの視聴者 : ID:GheKoO7ku
出てってよこの変態!!
変態、頂きましたー!!!
872: 名無しの視聴者 : ID:SjkUjeIKl
ありがとうございますありがとうございます!!
900: 名無しの視聴者 : ID:ydn197YuH
枕投げつけられたwww
それ、お土産にしてもいいですか?
938: 名無しの視聴者 : ID: Dhx4u7Bt9
ああ! 落ちろ! あとちょっとだけでいいからずり落ちてくれ! 頼む!
971: 名無しの視聴者 : ID: KToprprJK
ふぅ、オマエらキメーよ
995: 名無しの視聴者 : ID:UjeQoUndF
黙れ加藤!
この裏切り者め!! 賢者になって冷静ぶってんじゃねーよ!!
「さ、最低だな……」
動画と掲示板の様子を見ていた秀介が、冷や汗を垂らしながら言った。
「ああ、最低だよな加藤」
「加藤の話じゃねーよ!! お前だお前!!」
驚愕の表情でツッコミを入れた秀介に、真也は弁明の言葉を口にする。
「いやいや、あれは不幸な事故だったじゃあないか。不可抗力不可抗力」
「ああ、確かに事故だっただろう。だけど、何でそれを動画で上げちゃうんだよ!? リーサちゃんが可哀想だろ!?」
「……だって、カネになりそうだったんだもん」
「ぶりっ子口調で言っても汚い大人の発言は可愛くならないからね!?」
秀介は大きくため息をつくと、憐憫の表情で言う。
「ああ、この動画だけ何度も再生されて個別動画ランキングの1位に居座る様子が目に浮かぶ」
「大丈夫、リーサにそれを知る術はない」
「……そういう問題なのかなぁ。可哀想に」
「この後の動画も荒れるだろうなあ」
「……お前なぁ、少しは自重ってものを……いや、無駄か」
諦めの表情になってしまった秀介を他所に、真也は次の動画を上げるのだった。




