表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/91

35話 レベル上げと突破の糸口

昼食休憩が終わり再びログインした真也は、秀介と一緒に街の周囲の草原へと向かっていた。

次の街へ行く前に、前衛に立つ秀介のレベルをある程度上げておきたかった為だ。


他の同行者2人はここに来ていない。

乗鞍は、そもそもレベル上げをする義理がない。

瑠璃羽は、ほんの短い期間だったが世話になった宿に迷惑をかけたくないらしく、あと数日は仕事を続けるようで、今日は来れなかった。


「でも何でそんな中途半端な職業にしたんだ? どっち付かずで特化職ほど活躍出来ないんじゃあないか?」


真也が秀介にちょっとした疑問を尋ねた。


秀介の職業は〈魔法剣士〉。

名前の通り、前衛で戦えて魔法も使える便利な職業だ。

だが、接近戦をするなら他の近接戦闘職の方が強く、魔法も同様なことが言える、と真也は認識している。


「分かってないな、実況動画は色々出来た方が人気が出る。特化職の動画を複数人分見るようなディープなファン以外もいるんだ。華麗に前衛で活躍出来て絵的に派手な魔法も使えるいいとこ取りが出来れば、そんなライト層を取り込める」

「なるほど、元々ディープな既存のファンが多くいる古参の実況者だからこその意見か」

「まあ、俺の個人的な考えだけどね。ただ、魔法剣士なら色々と選択肢が広がる。このゲームは戦闘だけが目的じゃないしな」

「魔法は色々な場面で応用が効きそうだしなあ」

「それに、魔法剣士が中途半端な不遇職だなんて、ちょっと考えが古いんじゃない? 最近のゲームは不遇職なんて中々いないんだぜ。開発者は色々と工夫して全ての職業に強みを作れるよう努力している。クロスト2で考えれば、スキルには確実に個性を持たせてあるだろうね」

「まあそりゃそうか。じゃあ今、何か面白いスキル持ってる?」

「……まだレベル1だから〈剣術〉しかねぇよ」

「……プッ」

「おいコラ、誰のせいだと思ってんだよ!?」

「財布を盗まれてしまった誰かさん」

「ひでぇなおい! せめて直接財布を盗んだ盗賊の誰かのせいにしてくれよ!」


適当にじゃれ合いながら街を出ると、草原は前よりごく僅かだが落ち着きを取り戻していた。

とは言っても、まだまだ大量のモンスターが蔓延り、それを狩る騎士団や冒険者パーティで溢れている。


変わったのは、狩りの雰囲気だ。

騒動が起きてから、もう4日目。

合理的な陣形を組んでの狩り、釣り出しからの包囲殲滅、機動力を活かした強襲戦など、既に皆それぞれ効率のいい狩り方を導き出したようで、ただの作業のように危なげない順調な駆除が進んでいる。


その中で比較的モンスターの数が少ない場所を探して、真也達も狩りを始める。


「そういや日村を突き出して褒賞金とか貰えた?」

「ああ、お陰で装備が完璧だろ?」


秀介がそう言って自慢げに抜き放った剣は、ランク5の〈リチュオルソード〉である。

〈攻撃力〉と〈魔力〉の両方が上がる武器だ。

防具も全てランク5の店売り最強装備で固められていた。


「おお、中々いいな。じゃあ、早速あれ行ってみようか」


そう言ってモンスターのいる方向に視線を送る真也。


「……4匹もいるんですけど」

「単体でいる方が珍しい状態なんだからしょうがないだろう。3匹は先に俺が片付けるから問題ない」

「出来たら援護も頼むわ」

「りょーかい」


確認を終えて敵へと向かって走り出した真也は、あっという間に接近しブラッドシープ4匹の間を銀線を走らせつつ駆け抜けた。

直後、煙と共に消え去る3匹。

残った1匹が怒りを露わに突進して来たが、〈受け流し〉でやり過ごす。

それを三度繰り返した後、秀介が到着し、ブラッドシープを斬りつける。

後ろからの不意打ちで一太刀、二太刀、三太刀、と連続で斬りつけたが、敵は未だに死なない。

ブラッドシープが反撃をする姿勢を見せたため、真也はナイフを足元に投擲して行動を牽制した。

その隙に秀介が斬りつけるというルーチンを、二度繰り返したところでモンスターはようやく倒れる。


「……意外と強かったんだな、コイツ。いやまあ、他のプレイヤーの動画で知ってたけど、実際に体感するとダルい」

「俺がまだレベル1だったのもあるけど、ランク5の武器を使っても5回斬らなきゃ倒せないのか」


たった1匹を倒す為に、そこまで時間が掛かっては効率が悪い。

そう考えた真也はストレージから一本の剣を取り出す。


「秀介、これを使ってくれ」

「お、マジで? くれんの? 超ラッキー」

「バカ言うな、貸すだけに決まってんだろ」


秀介に貸し出したものは、タルジュ・シャムシール。

真也は代わりにストレージから取り出した〈ロバストブレード〉を抜き放つ。

それは鈍い光を放つ無骨な片刃剣。

店で売っているランク5の剣の中で最も攻撃力を重視したものだ。

元々は日村が使っていたものだが、昨夜の戦利品である。


「そっちはそれで大丈夫なのか?」

「俺のステータスなら羊程度、一撃で倒せなくとも反撃なんて当たらないからな」

「俺もある程度リスクを取ってレベル上げをしておけばよかったかねぇ」

「いや、安全に上に行ける手段があるんならそれ越したことはないだろ。元から視聴者が付いている立場なんだから、無理はしなくて正解だ」

「まあ、それもそうなんだけどね」


雑談をしつつ次のターゲットに目星をつけると、真也は再びモンスターの群れへと駆け寄った。

そして3体のブラッドシープ斬りつけ、敵意を引き付ける。

即座にされる敵の反撃とそれに続く攻撃はいつも通り全て〈受け流し〉で捌いた。

その隙に近付いた秀介が、順次敵を後ろから一撃で狩り取る。

そんな作業を繰り返し続けていった。









秀介のレベルがある程度上がり、少し日が傾いてきたところで真也達は草原から撤収した。

そして宿に戻るとベッドへ潜り早々にログアウトを実行する。

まだ随分と早い時間だが、昨夜は大分夜更かしをしていたので睡眠時間を確保しなくてはならない為だ。


ログアウトした真也はすぐに秀介と合流し、ホテルの自室で話し合いを始める。


「それで、話は聞いて来て貰えたか?」

「ああ、ある程度は状況が掴めた」


真也の問いかけに秀介が答える。

秀介には昼休憩のときに、三澄や瀧上らが行ったであろう話し合いの様子を知り合いに聞いて来て貰ったのだ。


真也の元に集まったプレイヤー達の中には三澄と瀧上のグループに属していない人物もいた。

そのため、ある程度無差別に多くのプレイヤーがいる場で、真也を待ち構える計画を持ち掛けたのだろうと予想していた。

そしてそれは正解であり、秀介の知り合いが現場を目撃していたようだ。


「今朝、ホテルの食堂で多くのプレイヤーが朝食を取っているとき、三澄がその場の全員に聞こえるように計画を話し、参加を呼び掛けたらしい」

「ああ、朝食時の食堂か。俺らは夜更かししたせいで遅い朝食になったから居合わせなかったしな」

「瀧上は参加しないような態度だったそうだが、ある程度の参加者が集まったところで、瀧上のグループの中からも同調者が出たらしい。その後はなし崩しで瀧上グループの残りも参加することになったみたいだ」

「なるほど、これは中々面白い話になってきたぞ」


真也はある予想から、瀧上があの計画に参加した経緯を重点的に聞いて貰うよう秀介に頼んでいた。


「そう言えば、秀介の知り合いは参加していたのか?」

「まあ、参加者にも俺の知り合いはいるけど、そいつらとはもうほとんど情報交換は出来ないだろうな。ああ、もちろんさっきの情報は俺寄りの仲間から聞いた情報だね」

「まあ、そうだろうなあ。参加者とのパイプ役は当てにしないから安心してくれ」


少し考える様子を見せる真也に、秀介が問う。


「この状況は大丈夫なのか?」

「なるようになるさ。何とかなるだろう」

「まあ、お前ならそう言うと思ったけど」


余裕の言葉を話す真也と、したり顔で返す秀介。


「三澄の言う通り、このゲームはある程度多くのプレイヤーで協力せざるを得ない場面があるだろう。だが、本質的にはその多くがライバルだ。必要ならその都度利用すればいい」

「今の状態、一之瀬真也包囲網って感じじゃあ、それも厳しくないか?」

「だったらそんなもの取っ払ってしまえばいい」


不敵な笑みとなった真也が言い切る。


「三澄と瀧上の間には溝がある。俺への包囲網なんて所詮は即席、すぐに崩せる粗末なものだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ