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30話 トッププレイヤーとして

ゲーム開始から5日目の朝。

昨夜に貴族街区で騒動があったことなど嘘であったかのように、いつも通りの平和な港湾都市。

動画の投稿を終えた真也は、少しの睡眠時間を取った後、ゲームにログインして街の大通りを歩いていた。


目指す場所はリーサの工房。

その為職人街へと向かって行るのだが、途中、ふと立ち止まる。


それと同時に、多くの通行人の中で動きが止まる数人がいることを〈気配〉で確認した。

真也が振り返ると、その数人はこちらから目視出来ない。

物陰に潜んでいるようだ。


再び何事もなかったように歩き出した真也は、大通りを逸れてどんどん細い路地へと入って行く。

それを追うように路地に入る数人。

真也が細い路地裏の交差路を次々と曲がって行くと、バレない為にかぎりぎりの距離を空けて追いかけて来る追跡者達。

だが、数度曲がったところで彼らは真也を見失い、キョロキョロと周囲を見回すことになる。


それを真上から見下ろす真也。

路地裏を構成するレンガ造りの家、その上層階にある窓の桟に足を掛け、〈気配〉を使い隠れていた。

真也は交差路を曲がった直後、高いステータスを活かし、壁を蹴り三角飛びの要領で上へと姿を消したのだ。


「消えた!?」

「クソッ、あの野郎どっちの方向にもいないぞ!」

「ちっ、やっぱり高レベル盗賊相手に尾行は厳しいか……」


追跡者達の格好は、魔法系職業だとひと目で分かるローブ姿。

皆、動画で見覚えのある顔、つまりプレイヤーだ。


魔法は武器なしで使えるため、魔法系職業はある程度平原でレベル上げが出来ていたが、森林火災の影響で結構な犠牲が出ていた。

彼らはその生き残りだ。

残った魔法系職業同士でパーティを組み、強力なモンスターで溢れた草原で、なんとかレベル上げを続けていた。

恐らく真也を除くと現状最高レベルのプレイヤー達だろう。


真也は腰のシャムシールに手を掛ける。


「あちゃー、まぁしょうがない。ダメ元だったんだ、工房は地道に探すとしよう」


リーダーらしき男がそう言うと、プレイヤー達は道を引き返して行く。

それを真也は、何もせずに見送る。


上からの強襲で全員を〈昏倒〉させても良かったが、相手の目的が分かったので実行はしなかった。

もし、真也を憲兵に突き出そうという話なら容赦はしなかったが、襲い掛かってくる程の剣呑な空気は無く、単にリーサの工房の場所を手早く見付けようとしていただけだった。

今はまだ、直接的にプレイヤーの恨みを買う行動は控えるべきだろう。

短気を起こされて真也の悪事を告発されるという可能性は、少しでも下げたいのだ。


彼らが真也を見付けることが出来た理由は、真也の動画を見て宿の場所を知り、その周辺で張っていたのだろう。

もちろん、そうなることは分かった上で泊まっている宿を公開していた。


高グレードな宿なのでセキュリティは高く、まだ低レベルのプレイヤーに押し入られることはあり得ない。

告発され、憲兵が押し寄せるような事態もないと言える。

真也のやってきた悪事は、即座に立証出来るようなものではないからだ。


真也が宿を出たところを狙われても、レベル的に危害は加えられないだろうし、尾行は撒けばいい。

真也の動画が面白くなるだけだ。


そして、この街でどんなことが起きても逃げ切れるだろうアドバンテージが真也にはある。


飛び降りた真也が路地裏少し歩くと、その行き止まりまでたどり着く。

そこにあるのは放置された古井戸のようなもの。


上を塞ぐ板と重石を退けると、そこは地下ダンジョン〈大地の神殿〉の表層部への入り口だ。


街中に無数の出入り口がある罠だらけの地下ルートを利用すれば、例えシャロットに追い回されても余裕で逃げ切れるだろう。


入り口には鉄の梯子が設置されていて、真也はそれが朽ちてないかを確認しつつ中へと降り、地図を見て罠を完璧に避けながら、地下道を進んで行く。


そして辿り着いた場所には、頑丈そうな鉄の扉が設置されていた。

鍵が掛かっていて開けられないが、真也はストレージから針金のようなものを出す。

それは日村から拝借した〈ピッキングツール〉だ。

鍵穴にそれを差し込み、〈トラップ〉スキルがもたらす知識を使って解錠に成功する。


鉄扉の奥は、建物の部屋へと繋がっていた。

物置に使われているようで、大量のアイテムやモンスター素材が整理されることなく乱雑に積み上げられている。


「……少しは整理くらいしろよ。しっかりしてそうで案外だらしのないヤツだよなぁ」


真也が思わず独り言を呟いてしまったそこは、リーサの工房の地下室だった。


地下道を通って来た理由は、尾行されることがあり得ない、ということもあるが、主要な目的は次善の策の確認作業だ。

万が一、真也が追われる身になった場合、この地下道を活用してリーサ達と共に街から逃げるつもりでいた。

それがしっかり使えるかを確かめたのだ。


散らかった倉庫に呆れつつも、真也は階段を登り地下室を出る。

地下室から出る木の扉を開けた先は、恐らくリーサの私室であろう場所だった。


そこは地下室と打って変わって、しっかりと片付けられ可愛い小物などが飾られた女の子らしい小綺麗な部屋だ。

余りジロジロ見るのは悪いと思い、さっさと部屋を出ようとすると、ベッドの方向から人の気配を感じた。


「う~ん? カティちゃん? ……んふふっ、な~に〜? 一緒に寝たいの? いいよ~おいで~」


ベッドから起き上がる人影。

ピンクの可愛いパジャマを大きくはだけさせたリーサが、寝ぼけまなこを擦りながら蕩けたような口調で話し掛けてきた。


「……へぅ? ……えっ?」


だが、真也の姿を確認すると凍り付いたように固まった。


「……」

「……」


しばらくお互い無言の時間が続いたが、真っ赤になったリーサがわなわなと震え始め、


「……な、な、な、ななななっ!?」


言葉になっていない大声を上げた。


なんでアナタがこんなところにいるのよ!?

と言いたいのだろうと解釈した真也が冷静に返す。


「ああ、ちょっと事情があって地下道を通って来たんだ。というか、自分の部屋が綺麗に出来るなら、工房や地下室も少しは片付けたらどうだ?」

「は、はああっ!? 女の子の部屋、それも寝ているところに勝手に入って来て、まず言う言葉はそれなのっ!?」


話を逸らそうとした真也だったが、完全に無駄であったようだ。


「ああ、悪い。すぐに出て行くから気にするな」

「気 に す る わ よ!? なにちょっとしたミスしかしてないみたいな言い方してんの!? 待ちなさいよ!? もしかしてそのまま誤魔化して逃げる気!?」

「分かった分かった、後でしっかり謝るから、今は出て行っていいよな? ……色々と気まずいんだが?」

「っ!?」


真也の言葉に、リーサは自分の格好に気付き、高速で襟元を隠す。


「で、で、で、出ってってよ!! この変態っ!!!」


湯気が出そうな顔で叫んだリーサに枕を投げつけられつつ、真也は急いで部屋を出た。









「……」


相変わらず散らかった工房で、無言のリーサが不機嫌そうに錬金術の作業をしている。


「……なあ、散々謝ったじゃあないか……そろそろ機嫌を直してくれよ……」


げんなりとした表情でそう言う真也。


「……フンッ」


だがリーサは、少しだけ真也を見てから素っ気なくそっぽを向いてしまった。


「……はぁ」


ため息をついた真也は、リーサの側にいるカティに仲裁を頼む視線を送るが、


「オマエが悪い」


ジト目で返されバッサリと切り捨てられてしまう。


「……まあ、いいけど」


この空気の中で言うのは少しズルいとも思ったが、真也は仕方なくここへ来た目的を話すことにした。


「俺は直にこの街を出る」

「……え?」

「……へ?」


さっきまでの微妙な空気などどこへやら、驚きの表情を浮かべる二人。


「俺は根無し草の冒険者、当然の話だろう?」

「……そうね。いつまでもこの街に居るなんてことはないわよね」

「……」


少し寂しそうに理解の言葉を言ったリーサと、黙り込んでしまったカティ。

真也はそんなカティの頭に手を置き、いつもの余裕そうな表情で語りかける。


「そんな寂しそうな顔するなよカティ。ちょくちょく顔を出しに来てやるから」

「……はっ! そんな顔してねーし!」


強がった言葉を放って真也の手を振り払ったカティは、奥の部屋へと走り去ってしまった。


「カティちゃん……。ねえ、アナタ、もう少しこの街に居ることは出来ないの?」

「まあ、そう言う訳にもいかないんだ」

「……そう」


ゲームを進める為には、トッププレイヤーとして居続ける為には、いつまでもこの街に居続ける訳にはいかないのだ。

寂しいと思っている本音を隠しつつ、真也は旅立ちの準備の為に動き出すのだった。

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