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3話 屋台とスリ

城塞都市の門を通り抜けると、街の外は長い街道が続く。

道は土を踏み固めたもので、馬車のものと思われる轍が出来ている。

周囲は一面の草原、緩やかな高低差がある丘陵だ。


そこを歩く真也の外見はいかにも冒険者といった風貌になっていた。

腰には白い曲刀を差し、地味だが実用的な服を着てダークブラウンの外套を纏っている。

防具とアクセサリーの装備枠は合わせて4つ。バトルクロス、大地の外套、ガードリング、ウインドブーツが装備されている。

物理防御も魔法防御も両立して、素早さも少し上げる構成。

武器以外は一つ8千ゴールドを越えるランク5の装備で、この街の店売りでは最高級のものだ。


真也はそれらの性能を確かめる為にモンスターを狩りに来ていた。

ちなみに真也の現在のレベルは2だ。

これは別にモンスターを倒したからレベルが上がったという訳ではなく、それ以外に経験値が入る行動が職業ごとにある為である。

船で〈ピックポケット〉を何度も使った時に上がったので、盗賊は盗みを働いた時に経験値が入るのだろう。


レベルアップによるステータス上昇値は合計4で、その内自由に上げられるのは2だ。

ステータスは〈攻撃力〉〈技術〉〈素早さ〉〈防御力〉〈魔力〉〈精神〉の6項目で、盗賊の初期ステータスは〈技術〉と〈素早さ〉が20で、その他が5という極端なものだった。

レベルアップの上昇値も予想通り〈技術〉〈素早さ〉が強制で1づつ上がったので、自由に上げられる分もその2項目に1づつ振っていた。


理由はその方が面白そうだから。

何かに特化していた方が器用貧乏よりは好きだったので、これからもそのように上げていくだろう。


スキルの取得は〈ピックポケット lv.1〉をlv.2に上げた。

〈剣術 lv.1〉などのスキルも取れるようになっていたが、武器スキルがあると無いとでの違いを検証したかったので取らなかったのだ。


街道を外れしばらく草原を歩いていると、なにやら鳥らしき生物を発見した。

極彩色の羽をしていて鶏のような体型だが、大きさは大型犬ほどもある。

シャムシールを抜き、警戒しながら慎重に近寄る。


真也に武芸の心得は無い。だから正直どう斬りかかったらいいか分からなかった。

取り敢えずはゆっくり近づいて気付かれそうになったら一気に突っ込めばいいか、と考えていたら、不意に鳥のモンスターと目が合った。

何を考えているのか分からない虚ろな目が、突如として怒りに染まる。


ヤバい。


そう思ったときには既にモンスターはこちらに突っ込んできていた。

もう踏み込めるほどの間合いは無かったため、及び腰で迎え撃つ。


「……うわっ!?」


間近に迫ったモンスターの怒り狂った迫力に気圧され、情けない声を上げ闇雲に剣を振るり回す。

幸いにも刃先がかすってくれた感触があり、切っ先から氷の華が散る。


『レベルが上がりました』


そんなシステムメッセージが流れ、煙と共にモンスターは消え去っていた。

目の前にには鳥の羽や肉などのドロップアイテムらしきものが落ちている。

ログを確認すると、アングリーチキンを倒した、と、しっかりと表示されていた。


「ヤバいな、これ」


キャラ自身の攻撃力はたったの5なのに、少しかすった程度で倒せてしまった。

タルジュ・シャムシールの攻撃力は信じられないほど高かった。

だが、今はそれ以上に自分の慌てようが信じられなかった。


「……女々しすぎだろ、俺」


普段は相手の迫力に飲まれることなど無いと言い切れる。

それこそ商談なら、例えマフィアのボスが乗り込んで来たとしても、ふてぶてしく笑って対応出来る自信がある真也には、今のやり取りはとてもショックだった。


VRを少し舐めていたようだ。

本当の暴力沙汰なんてろくに経験したことの無い一般人が大型犬並に大きい動物をまともに相手出来る訳がない。

そう、これが普通なんだ、と自分に言い訳をしてなんとか納得する。


だが、このままでは不味いだろう。

今回は相手が雑魚だったからよかったものの、強敵が出てきたらあっさり死んでしまいそうだ。

それだけは避けなくてはならない。

何しろこのゲームにはデスペナルティが無いのだ。

ぬるゲーだと勘違いしてはいけない。デスペナは無いが復活も無いという鬼仕様。

つまり死んだらそれまで。

灰になるチャンスすらなく、即座にキャラクターロストの上このゲームイベントから退場させられてしまう。

そして退場者の数と同じだけ、新たにゲーム参加権を賭けたプレイヤー選考が行われるそうだ。


せっかく面白くなってきたところなのに退場などしたくはない。

この状況を打開するため、レベルアップで得られるスキルは〈剣術lv 1〉に即決した。

これは大分類が〈剣〉の武器、刀剣類全般の扱いを覚えられるスキルだ。


これで少しはマシになるだろうと思い、次のモンスターを探す。


フィールドは広大で、なおかつ微妙な高低差があるせいでモンスターを見つけるのに苦労させられる。

本格的に経験値稼ぎをするならどこか別の狩場を見つけなくては厳しいだろう。


草原をさ迷い小さな丘に登り周囲を見渡すと、やっとのことでモンスターを発見した。

先ほどと同種のアングリーチキンが二羽、呑気に地面を啄んでいた。まだこちらには気付いていない。


真也はシャムシールを片手に走り出した。

前回の反省から先手必勝の気構えで丘を駆け降りる。

高い〈素早さ〉の影響と思われる獣じみたスピードで一羽に近づき斬りかかる。


「ケ~?」


という間抜けな声をあげて、ようやく地面から顔を上げたアングリーチキンの懐に低い体制で潜り込み、薙ぐように首元を一閃。

剣筋から氷片が散るエフェクトが生じ、斬りつけた箇所には霜が付く。

煙を出して消えていく一羽から直ぐに視線を移すと、もう一羽が突進を仕掛けて来る。


恐怖はない。

これぐらいの攻撃は余裕で回避ができる、と何故か理解できた。


勢いよく直進してくる敵と衝突する寸前、相手の動線の軸から僅かに逸れて紙一重で回避。同時に、逆手に持ち変えていたシャムシールをすれ違い様に振り抜く。

真也が後ろを振り返ると、隣を通り過ぎたアングリーチキンは既にドロップアイテムになっていた。


「凄いなこれは……」


思わず呟いたが、別に自画自賛している訳ではない。

VRのシステムを賞賛したのだ。

やりたいことの動き方を教えてくれて、それがまるで体に染み付いた動きのように自然と出来る。

VR技術が軍事訓練やトップアスリートの育成に使われるのも頷ける話だ。


体の動かし方を膨大なデータベースに照らし合わせ、最適解に導く技術。その恩恵をスキルとしてプレイヤーに与えているようだ。

〈剣術 lv.1〉のスキルはステータスの〈技術〉に依存すると説明文にあったため、〈技術〉を上げれば更に良い動きが出来るようになるのだろう。


とりあえずこれで戦闘に関しての心配はなくなった。

真也は安心して次のモンスターを探しに行った。









しばらく狩りを続け、もう少しでレベルが7に上がりそうなところで街へ引き上げた。

まだ低レベルだからこそレベルアップも早かったものの、ほとんどの時間が敵探しに費やされてしまう非効率なものだった。


しかし、自分が現状どれ程戦えるかは理解できた。

特にタルジュ・シャムシールの威力は素晴らしく、草原のモンスターは軽く撫でるだけで蒸発した。


防具やアクセサリーの方も及第点と言える性能だった。

奇襲され、アングリーチキンの攻撃を受ける場面があったが、最大HPの10分の1程度のダメージで済んだ。


素の〈防御力〉が5の割には中々のダメージ軽減量と言える。

十分殺される可能性があるダメージだが、当たらなければなんとやらだ。

〈剣術〉スキルに盗賊の高い〈技術〉ステータスが影響して、ずいぶんとスタイリッシュに動くことが出来たので今のところは問題なさそうだ。

そう結論して、一先ず休憩を取ることにした。




空の太陽は真上に近く、もうすぐ正午だと教えてくれる。

ちょうど良いのでゲームの中で昼食でも食べようと、料理店のある方向へ歩き出す。

もちろん現実世界で食べなければ意味はないが、ゲームの中でも食べた方が雰囲気は出るし、この世界の料理の味にも興味があった。


人通りの少ない水路の隣に敷かれた石畳の道で、景色を楽しみながらゆっくりと歩く。

周囲には、赤土レンガと木材と真っ白な漆喰を使って建てられた、いわゆるハーフティンバーと呼ばれる西洋建築が連なっている。


夢見がちな女の子が憧れそうなお洒落な景色だ。

だがそんな風景を、陰の表現がショボいな、とか、あの壁のテクスチャは少し雑じゃないか、とか、実に不粋なことを考えてしまい、自分はそこまでひねくれ者だったかと少しショックを受ける。


そんなとき、背後から石畳を駆ける足音が聞こえた。

嫌な予感がして直ぐに振り替えると、少し薄汚れた小学校高学年生ほどの少女がこちらに向かって走ってくるのを確認した。


スリだ!


数多くの途上国へ海外出張させられた経験から、直ぐにそう判断した。

警戒心を最高の状態にして、その少女を睨み付ける。

警戒さえしていれば、〈ピックポケット〉は大きなレベル差なしに成功しないのだ。


「……むっ」


それを相手も分かっているのだろう。

真也が警戒心をむき出しにすると、少女は小く唸って立ち止まった。

しばらく無言の睨み合いが続いたが、いつまでもそうしている訳にもいかないため、警戒しつつも歩き出す。


水路沿いの道を歩き続けると、少しづつ通行人で賑わい始める。

目的地の飲食街が近づいてきたようだ。


先ほどの少女は何故かついて来ていた。

一定間隔を空け、付かず離れずといった微妙な距離感で張り付いている。

さっさと次の獲物を探せばいいものを、と少女の行動をいぶかしんでいると、


「ねえ、それ買ってよ」


今度は突然声をかけられた。

少女が指差した方向には、串焼き肉を売っている屋台があった。

人のカネで焼き肉食べたい、と言っているのだろう。

網の上でじゅうじゅうと焼かれる肉の脂と甘辛そうなタレの匂いが昼時の胃袋を直撃する。


「……腹が減ってるのか?」

「うん……アタシ、昨日から何も食べてないの……」


弱々しく言葉を紡ぐ少女の姿は悲壮感に溢れ、憐れで、痛々しく、そして嘘臭かった。

少女の姿は痩せこけておらず、頬などむしろプニプニとしていて肌艶もいい。

明らかに栄養失調とは考えられなかった。


そして、さっきまでは生意気そうな目でこちらを睨み付けていたことを、コイツは覚えていないのだろうか?


そう思いつつも、串焼きの一本や二本ぐらいは買ってやってもいいか、とも思う。

自分が食べたかったこともあるが、買ってやれば少女もどっか行くだろうという思惑もある。

それに所持金はまだ10万ゴールド以上ある。懐が温かいと多少のことは気にならないものだ。


「すいません、串焼き二本下さい」

「まいどっ!! 二本で40ゴールドだよ!!」


やたら威勢のいい屋台の兄ちゃんの声を聞いて、財布を取り出す。

もちろん少女を最大限警戒しながら。

会計に気を取られた隙に財布を取られるシナリオが目に浮かぶので、そこだけはしっかりと意識する。

そして料金を支払っているときに、


「ありがとさんっ!」

「っ!? はあっ!?」


少女が駆け出した。

タルジュ・シャムシールを持ちながら。


「待てやゴラッ!!!」


すぐさま足が反応した。

その最初の一歩がコンマ数秒で出せたのは奇跡的だった。

もしくは、高い〈素早さ〉の補正を受けた必然だった可能性もある。

今ほど〈素早さ〉にステ振りした自分を誉めてやりたい瞬間はない。

なりふり構わず全力で足を動かし、一歩、二歩、三歩、四歩、と行ったところで既に少女のすぐ後ろに来ていた。

所詮は子ども、大の大人とは歩幅が違うのだ。


「わぷっ!?」


真也が鬼の形相で少女の後ろ襟を掴むと、首が絞まったのか少女から変な声が漏れたが、そんなことはお構い無しに剣を取り上げ怒鳴り付ける。


「オマエざっけんなよ!! これがいくらしたと思ってやがる!! 母ちゃんに人の物を盗んじゃいけませんって習わなかったのかっ!? ああんっ!?」

「げほっ、げほっ……知らねえよそんなこと!!」


涙目でむせながらも生意気に怒鳴り返してくる少女と、完全にオマエが言うな状態の真也。


「じゃあ今から知れ!! 憲兵に突き出してやる!!」


少女を無理やり引きずって行こうとすると、


「イヤーッ!! キャーッ!! 誰か助けて!! 変質者だ!! 人拐いだ!! 小児性愛者だー!!」

「おまっ、なんて人聞きの悪いことを言いやがるっ!?」


大声で叫びだした少女に少し動揺して、周囲の目を気にしたところで少女が動いた。

襟から首を抜き、ローブのような上着を脱ぎ捨てて下着姿で逃走した。


「おい待て!」


待てと言われて待つはずもなく、真也が追い付く前に、少女は道脇の水路が地下に潜る箇所にあった鉄格子を通り抜けて、地下へと入って行ってしまった。


追いかけようとも思ったが、この街の地下は高レベルのダンジョンになっていたことを思いだし、しぶしぶ諦めた。


「はあ……迂闊だったな」


ぼやかずにはいられなかった。

危うく今日一番の成果を盗られるところだったのだ。仕方がないと言えるだろう。


だがしかし、失った物はなく、むしろ新たなアイテムが手に入ったのでよしとする。

とりあえず手に持っているアイテムを確認する。


〈少女の服〉(未鑑定)

幼い少女が着ていた服。まだ仄かに温もりが残っていて、ほんの僅かにいい香りがする。

心無い男に脱がされた。


「冤罪だっ!? いわれの無い中傷だろ!! というかこの説明文の方がなんか危ない!?」


思わず突っ込んだが、アイテムに罪は無いためしっかりとストレージに仕舞い込む。

心なしか周囲に集まっていた観衆の目が冷たい。


『レベルが上がりました』


「何のだよ!?」


真也の突っ込みは空しく響いただけだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 極フリは王道ですね。 札束で殴り合うゲームかつ、資金に数千万円以上の余裕がなければステータスを分散させるのは悪手でしかないですし。
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