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17話 黒い思惑

FANGを倒して煙の漂う〈白夢の森〉を脱出した真也とカティは、森と街の間にある草原を歩いていた。


「なあ、おい、オマエこれ、どうするつもりなんだよ?」

「ん? ああ、別にどうもしないさ」

「……無責任なヤツだな。まあ、別にアタシは困んねーからどーでもいいけど」


穏やかだった草原の空気は、以前と同じ場所だと思えないほど一変してしまっていた。

一言で言うと騒がしい。


アングリーチキンがポツポツとしか出現しなかった草原には、多種類のモンスター達が大量に、我が物顔で闊歩していた。

言うまでもなく、〈白夢の森〉から燻り出されたモンスター為だ。

森林火災によって行き場を失ったモンスター達が草原に溢れ出していたのだった。


そして、それらモンスターを討伐する為に、展開している多くの人間達。

冒険者達がパーティーを組んで狩りをしている姿も確認出来るが、その討伐隊の主力は〈港湾都市イートゥス〉の騎士団だ。


「すげー、モンスターはあんまり相手にしない騎士団が、こんなにいるぜ」

「まあ、近くの狩場に異変が起きたとしても騎士達は調査もしないだろうが、その被害が彼らの領分に入って来たのなら話は別だろうからな」


騎士団の役目は街の中と街にとって主要な街道の治安維持である。

モンスターは普段、フィールドによって住み分けられているため、騎士団はアングリーチキンしかいない街道周辺のモンスター退治などしない。


だが、街周辺の草原が〈白夢の森〉のモンスターで溢れかえってていたら、当然そこにある街道の通行は危険なものとなるだろう。

交易が主要産業の都市にとって、交通網が混乱することは死活問題の筈だ。

となれば、その治安維持に騎士団が出張ってくることは必然だった。


「冒険者に任せればいいんじゃないのか? モンスター退治なら、そっちが専門だろ?」

「まあ、冒険者達もいるから討伐依頼でも出してるんだろうが、彼らでは処理し切れないだろう。何せ溢れているのは〈白夢の森〉のモンスターだ」


〈港湾都市イートゥス〉周辺には4つの狩場があるが、〈白夢の森〉はその中でも最高難度の狩場だ。

生息するのが睡眠攻撃を持った凶悪なモンスター達であることを考えれば当然である。


そんなモンスター達と、増援を呼び込みやすく乱戦になりやすい開けた草原で戦わなくてはならないのだ。

駆け出し冒険者ばかりの街で依頼を出しても、それだけで対処することは厳しいだろう。


「なあ、これでリーサは儲かるのか?」

「儲かるさ。騎士団を引っ張り出すことが、この計画の最終目的だったんだからな」

「なんで?」

「少しは自分で考えろ。お前はアホか?」

「はっ!? アホじゃねーし!!」

「アホは皆そう言う」

「アホって言うなっ!!」


飛び掛かって来たカティをスキル〈受け流し〉を駆使して適当にいなす。


「お前すぐ手を出すなよ。教えないとは言ってないだろうに」

「むうっ……」

「まず、なんでリーサの工房は経営が苦しくなったんだ?」

「……そりゃ、材料の値段が上がって……」

「理由は?」

「狩場にいるモンスターの動きがメンドウなことになって、そいつらの素材が取りづらくなったからだろ?」

「今はどうだ?」

「……確かに、これだけのヤツらが狩ってたら、素材の値段が戻ることくらいはアタシにだって分かる。でも、リーサが言ってたじゃないか。素材の値段を戻したくらいじゃ儲けは2倍にはならないって」

「少し違うな。素材の価格は戻るんじゃあない、暴落するんだよ」

「……ぼうらく?」

「これだけの規模で〈白夢の森〉のモンスターが狩られてるんだ、その素材はすぐに市場で飽和する。驚くほど安い値段で投げ売られるぞ」

「……あ、ああ、うん。そ、そうなるよな!」


焦ったように肯定する明らかに分かってない様子のカティに真也が生暖かい視線を送ると、彼女は慌てて反論を始める。


「でも、素材の値段が上がってるのは〈白夢の森〉だけじゃねーよ。他の3つの狩場でも同じことが起きてるらしいぜ」

「まあ、そっちはじきに解決されるだろう。ちょうど今、ボスを倒したがるような冒険者が、あの街には100人近く居るんだ」

「おいおい、そんな他人任せでリーサの儲けを2倍以上に出来んのかよ?」


カティは何故か得意気になって煽ってくるが、真也は全く気にしない。


「だから騎士団を引っ張り出すのが目的だと言っただろう。それが本題だ」

「……騎士団が出てくるとどうなんだよ?」

「いいか、平時は治安を守る程度しかしない騎士団が、突然大規模に部隊を展開しなければならない状況になったんだ。物資の供給を騎士団専門の職人だけでするには手が足りないだろう。備蓄はあるだろうがいざと言うときの為に減らしたくはないのは当然だ。さて、ここで騎士達が使いたがる高ランクのアイテムを錬金できる腕利きの職人が出てきたら、どうなる?」

「今まで売れなかったリーサの高いアイテムが騎士団に売れるのか!」

「売り込みを掛ければな。元々需要は確実にあったんだ。ならばそれを無理矢理拡大してやればいいだけ」


自ら相手が物資不足になる状況を作り上げ、それを解決させるため物を売り付ける。

言わばマッチポンプだ。


「そして、騎士団のアイテム需要を手っとり早く拡大出来る方法、それは戦争が一番だ。今回はモンスター相手だがな」

「お、おお! なるほど!」

「文字通り争乱の火種を投げ込んでやれば、全てが上手く行くという訳だ」

「すげー!! オマエ、よくそんなこと考えつくな!!」

「単に先人の知恵を借りただけだな」


戦乱の火種をわざとバラ撒き、より多くの兵器を売り付けようとする武器商人。

そんな、およそ尊敬出来るとは言えない先人の知恵ではあるが。


「さあ、荷車を回収して撤退しよう」


怪しまれないよう荷車にストレージの中のドロップアイテム積み込み、真也達は帰路に着いた。









薄暗くなってきた〈港湾都市イートゥス〉の通りを、真也とカティは職人街へ向かって歩く。


「……ああ、そうだ。リーサのところに行く前に、ちょっと宿に寄って行こうか」

「ん? 宿? なんで?」

「いやな、森の中で煙を浴びたから、体がちょっと臭くなってるだろう?」

「……」


表情が固まるカティ。


「風呂にでも入っておこうかと……」


カティは全力疾走で逃げて行った。


真也はそれを止めようともしない。

何故なら、リーサと会う上でカティに席を外させるため、わざと逃げるようなことを言ったからである。


これからリーサと話すことをカティに聞かれて、話をややこしくされたくないといった思惑があった。

そして、カティに嫌われたくない、そんな思いが心の片隅にあったのだ。




カティが逃げる姿を見送った真也は、一人でリーサの工房まで来ていた。


「どうも、お邪魔するよ」

「……いらっしゃい」


真也が工房に入るとリーサの表情が固いものとなった。

警戒していることが一目で分かる。


「まずはこれを見てくれる? 錬金術師ならアイテムの鑑定とか出来るよね?」

「……いいわよ」


とりあえず、本題の前に別の用事を済ませておくことにして、〈FANGコア〉を取り出しリーサに渡す。


「〈白夢の森〉でシープウルフ達を率いていたモンスターのドロップアイテムだ。何か分からないか?」

「何これ? レア度が高すぎて私レベルの錬金術師でもある程度の情報だけしか読み取れない。詳細は分からないわ」


そう言われて返されたアイテムを見る。


〈FANGコア〉(未鑑定)

モンスターに強い力を与えるアイテム。

何やら情報をやり取りする能力が感じられる。


説明が大分具体的なものに変わっていたので、鑑定して貰った意味は大きいだろう。


そして、鑑定結果に満足した真也は本題を切り出す。


「さて、もう分かってる様子だけど、キミの依頼はほぼ達成した」

「……そうみたいね。今、街中が大騒ぎになってて、騎士団も忙しそうよ。そこにアイテムを売り付けろってことでしょう?」

「ご名答。説明する手間が省けて良かったよ。これで確実に儲けは増えるだろう」

「まさか、こんなことをするなんてね」


聡い彼女なら〈油〉を大量に錬金したとき、ある程度は気付いていたのではないか?


そう疑えてしまうが、リーサに真也の行動が予想出来ていたかは本人にしか分からないだろう。

真也はそれを断ずることが出来る程、リーサのことに詳しくないからだ。

だが、全く知らなかったという反応をしてくれた方が、真也にとっては都合が良かったので、気になどしない。


「ホント、無茶なことをするわ。森が全部燃えちゃったらどうするつもりなの?」

「あの森は燃え広がるには条件が悪すぎる。全体の10分の1も燃えないだろう」


海陸風は夜になると風向きが真逆になる。

元々燃えにくい青々とした森な上、風向きがもうすぐ逆転するのでこれ以上燃え広がる筈はないのだ。


「被害は最低限、成果は最大限。中々の結果だろう?」

「その影響は軽視するのね」


環境破壊や街への迷惑、その他あらゆる外部不経済を一切合切完全無視した鬼の所業だ。


「前にアナタが言ってたけど、ホントに奇跡なんて綺麗事じゃあなかったわ。どちらかと言うと災害じゃない」

「得られる利益はどちらでも同じだろう?」

「夢も希望も無いこと言わないで。私はまだ16なのよ。ロマンチックな夢ぐらい見させてもバチは当たらないんじゃない?」

「かもな」


真也のドライな意見にリーサは溜め息を漏らすと、切り出した。


「……それで? アナタは私を脅しに来たの?」


リーサは覚悟を決めた目で真也を睨み付けるのだった。

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