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16話 FANG

真也の火計によって薄く煙が漂う〈白夢の森〉。


計画の第一段階、効率的な経験値稼ぎ、言うなれば焼き畑式大量レベル上げを終えた真也達は、その計画を第二段階、フィールドボスの撃破へと移行させていた。


真也とカティは森の中を奥へ奥へと移動する。


森の中は下草が生い茂り、獣道を通っても石や木の根は多く足場が悪い。

その上飛び出した木の枝や葉が行く手を阻み、素早く移動するには適さない。


だが、真也とカティはそんなものお構い無しといった様子で悪路を駆け抜ける。

〈悪路走破lv1〉というスキルの恩恵である。

このスキルと高い〈素早さ〉のお陰で、真也達は広い森の中を縦横無尽にか駆け回り、効率のよい狩りが出来ていた。


今はその高い機動力を活かし、逆に敵を避けるように進んで行く。

森の中で見張りのように散らばっているシープウルフを避ける為だ。


シープウルフのボスは、手下の情報を収集している様子であった。

なので、真也達が〈白夢の森〉深奥に向かっているという情報を、見張りの狼に知られる訳にはいかなかった。

こちらはたったの二人。敵に手下の数を揃えられて待ち受けられては堪らないからだ。


もちろん、敵を避ける為に〈気配〉のスキルも駆使している。

煙のせいで視界が少しだけ悪くなっているため、〈気配〉の感知精度もそれなりに低下しているが、それでも真也達には問題はない。


2つのステータスに全てのポイントをつぎ込んだため、真也の〈技術〉は80にも達していた。

レベル31という段階では異様に高い。

そのためスキルレベルは低く、まだ〈気配lv1〉でしかなくとも、中々の索敵範囲を持っている。


「あ、向こうにもいるぜ」


それでもまだカティの索敵能力には劣る。


「カティ、今レベルいくつだ?」

「19。スキルは〈気配lv13〉まで上がったみたいだ」

「大して上がってないな」

「そりゃ、さっきはほとんど何もしてなかったかんな」


パーティーを組んでいるかどうかは、自動でシステムに判断される。

その上で、貢献度に応じた経験値が分配されるため、パーティーを組んでいてもレベル差が出来てしまう。

初日の狩りでは索敵の役割が大きかったと判断され、カティのレベルも真也とそこまで変わらない早さで上がっていたが、先程の殲滅作業では話が違った。


因みに、NPCのレベルアップによるステータス上昇やスキル取得は、プレイヤーとは異なり自分で選択することが出来ない。

レベルアップに繋がった行動が考慮された成長となる。

なのでカティのステータスは〈技術〉が多く上昇し、スキルは〈気配〉のレベルが大幅に上がり、〈悪路走破〉も少し上がっていた。



真也達はそれらスキルの恩恵を受け、シープウルフ達の監視網を素早く潜り抜けて行く。

煙で鼻を封じられた狼達に、それを見つけることなど出来よう筈もなかった。


しばらく〈白夢の森〉深奥部へ向かって駆け抜けると、周囲の様子が一変した。

奥へ行くほど濃くなっていった樹木の密度は外縁部程度に薄くなり、地面には大きな岩が転がり出し、そこかしこに極々小さな沢が見え、水が流れる涼しげな音が聞こえてくる。

森の中にある沢の源流が全てここに集まっている、そんな風に思える場所。

普段なら美しい場所なのだろうが、今は煙がその景観を台無しにしている。


「見つけた! 団体で動かないヤツらだ! たぶんあそこにボスがいるぞ!」

「取り巻きは何匹いる?」

「全部で8匹だから7匹じゃねーか?」

「よし、十分対処出来る数だな。瞬殺しに行くぞ!」


そう意気込んでシープウルフ達の本陣へと向かう。


その途中。

森全体に不気味な遠吠えが響き渡った。


「気付かれたかっ!?」

「ヤバッ!! まわりにいた見張りどもが全部集まって来るぞっ!!」

「シープウルフ全体に召集を掛けたなっ!! 」


真也の索敵範囲に敵のグループが入った辺りで、ボスに気付かれたようだ。

ボスは臭いで索敵するのではなく、スキルによる探知をしているのだろう。


「急げっ!! 囲まれたら流石に洒落にならんっ!!」


真也のレベルは既に雑魚狼に苦戦するようなものではない。

だが、集団で囲まれでもすれば話は別だ。


真也のステータスは〈技術〉〈素早さ〉の2極振り。

なので未だに素の〈防御力〉は5である。

回避能力が飛び抜けて高いので問題なく戦える筈であるが、回避出来ない程の物量攻撃を受ければ、あっさりとやられてしまうだろう。


とにかく、真也は増援が到着する前にボスとの決着をつけなくてはゲームオーバーということだ。


〈気配〉スキルによる隠密移動などは止め、全力でボスへ向かって走り出す。


ボスは動かない。

真也達を待ち受けるつもりだろう。


そして見えてきた場所は、開けた砂利地。

川原のように砂利が広がり、あちこちで湧水が溢れ出ている。

神秘的な場所だ。煙さえなければ。


遠目で確認すると、その砂利地の中央、7匹のシープウルフに囲まれたボスらしき狼を発見した。


他の手下より二回りほど大きい屈強な体躯の狼。

真也の火計がお気に召さなかったのか、獰猛そうな顔を憎悪に染め上げている。


その狼の何よりの特徴は、その体表にあった。

生身の毛皮に鋲で乱雑に張り付けたような鉄板、あちらこちらに埋め込まれたネジ、所々に飛び出す蛇腹のパイプ。

これでもかと言うほどの安っぽいサイボーグ感を醸し出していた。


「何だアイツっ!? あんなモンスター聞いたこともないぞっ!?」


カティが驚いているが、今そんな時間は無い。


「カティ! サポートを頼んだぞ!」

「あ、ああ!」


少し準備をし、真也は全速力でボスへと走り出す。


そこで敵側も動き出した。

取り巻きの3匹が飛び掛かって来たのだ。

それは一方向から少しだけタイミングをずらして突撃してくる巧妙な連携攻撃。


だが真也はそんなことを意にも介さない。

速度を落とさずそのまま突っ込んだ。


まず、真っ先に牙を剥き襲い掛かって来た先頭の狼を横凪ぎに切り捨てる。

2匹目、剣を振り抜いた逆側から近付いて来た狼も、即座に返す刃で対応可能だった。

ラスト、2匹目から一息だけ遅れて飛び付いて来た狼の牙を、姿勢を低くし回避、すれ違い様に腹を切り上げた。


この程度は造作もない。

〈技術〉と〈素早さ〉が両方80もある真也には、シープウルフ程度の連携攻撃は止まって見える。


スピードを全く落とさず3匹に対処した真也だったが、3匹目を捌いた後、剣を振り抜いた状態で右足を大きく踏み出し急停止。

直後、四方から同時に飛び掛かって来る狼4匹。

真也は即座にシャムシールを逆手に持ち変え、踏み出した右足を軸に一回転。

円を描いた逆手の刃が、一閃で4匹全てを切り伏せた。


真也の逆手回転斬り後の隙を突き、ボスがようやく動き出した。

が、その動きの出鼻は即座に挫かれる。


ボスの踏み出した足先に、一本のナイフが突き立っていた。


カティの〈投擲〉による支援攻撃だ。

高い〈気配〉スキルを持つカティは、その分隠密行動に長けている。

開けた砂利地の周囲、木の影に隠れながらナイフを投げるタイミングを窺っていたのだ。

カティの攻撃力は低く、ナイフも安物の為にダメージは僅かであるが、不意打ちであることと出鼻を突いたことで、ボスの体勢を崩すくらいの働きは可能であった。


ボスがよろめいたことによって、真也の体勢は整う。

再び順手に持ったシャムシールを後ろまで大きく振りかぶり、しなるような斬撃、会心の一太刀を浴びせ掛けた。


吹き飛ぶボス。

一撃で倒せないのは当然だろう。

だが、そのダメージは深刻なものである筈だ。

何故なら真也の全力の攻撃は、普段よりも大分強力なものとなっているからだ。


真也の体からは薄い赤色と青色と緑色のモヤが漂っている。

それは戦闘前の準備をしたとき、〈中級AT強壮薬〉などのドーピングアイテムを服用した結果だ。


〈中級AT強壮薬〉はリーサの店で買った、1本8000ゴールドもした逸品。

その効果は服用して1分間、自身の〈攻撃力〉を40も引き上げる効果がある。


攻撃力45にタルジュ・シャムシールの補正値72が足された、序盤では驚異的な威力の一撃だった。

ボスのHPを大量に削り取ったのは確実だ。


ボスが体勢を立て直す前に、そして薬の効果が切れる前に、真也は追撃を仕掛けた。

一閃、二閃、三閃、と途切れぬ攻撃を放ち続ける。


ボスも抵抗し、反撃を仕掛けて来るが、その動きは鈍く、真也の戦闘スキル〈受け流しlv1〉によっていなされてしまう。


ボスの動きが鈍い理由は一目見れば明らかだ。

その体表が霜に覆われている。

タルジュ・シャムシールの氷属性による追加効果だ。

氷属性攻撃はレジストされないならば、〈素早さ〉の低下、という効果を敵にもたらす。

一撃加える毎に鈍くなっていくボスの動きは、見ていていっそ哀れですらあった。


だが、相手は腐ってもフィールドボス。


追い詰められたボス狼が最後の切り札を切った。


ボスの体表を走るパイプから、恐ろしい勢いで白煙が吹き出したのだ。


砂利地は瞬く間に白煙で覆われてしまい、更にはカティの隠れる周囲の林にまでその効果を及ばす。


ボス狼は満身創痍。

だが、白煙が消え去った後に立っていたのは彼だけであった。


よろよろとゆっくりと歩き、倒れる真也の元へと向かう。


辛勝だったことを恨めしく思っているのか、その形相は一層の憤怒に彩られていた。


大きくアギトを開き、真也に止めを刺すため喉元に食らい付く。


――その直前、ボス狼の首からはシャムシールが生えていた。


「こんなフィールドのボスに挑むのに、対策してない訳がないだろう」


真也がシャムシールを引き抜くと、ボス狼は崩れ落ち、爆発のような大きなエフェクトを伴って、その姿を霧散させた。


真也が眠りに落ちなかった仕掛けは簡単だ。

事前に〈中級MT強壮薬〉を服用していた。

それは魔法防御や状態異常耐性に関するステータス、〈精神力〉を1分間40上昇させるアイテム。

それに加え、防具を完全に〈精神力〉特化の物へと変えていた。


高い〈精神力〉によって、睡眠攻撃をレジストした。

ただそれだけの話だった。


ボスの消えた後には、たった1つのアイテムが残されている。


〈FANGコア〉(未鑑定)

FANGを倒して残されたアイテム。


「FANGねぇ。なんか曰く有り気なモンスターだったな」


そんなことを呟いた真也は、周囲を〈気配〉で探る。

召集を掛けられていたシープウルフ達は、FANGを倒すと皆逃げ散ってしまった。


「おい、起きろ、終わったぞ」

「わぷっ!? な、なんだっ!?」


そして、近くの木陰で寝ていたカティを叩き起こし、帰路に着く。

計画の第二段階、ボスの撃破を完了し、更にその次、第三段階の完了を確信しながら。

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