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10話 遠吠え

〈白夢の森〉の中層部にてミストバクに苦戦した真也達は、それでも森の奥へと進んで行く。

ここへ来た本来の目的はシープウルフの牙を集めることだったので、シープウルフを見ることすらせず帰るのは避けたかったからだ。


もしも真也が〈白夢の森〉に一人で来ていたとしたら、迷わず帰ることを選んだだろう。

だが今、真也の隣にはカティがいる。

カティが真也の実力を計る為に付いて来たことは明白なので、醜態を晒したままでは終らせたくなかったのだ。


勿論、もう油断などしない。

細心の注意を払ってことに当たる必要があるだろう。


「ん? ここらのモンスターはみんな単独行動みたいだ」


カティの言葉で、周辺生息モンスターが変わったことが理解出来た。

この森で単独行動しか取らないモンスターは一種類しかいない。


シープウルフ、彼らは皆一匹狼なのだ。

狼型モンスターだが余り知能は高くなく、獲物を見つけると本能のままに襲い掛かる。

中々与し易そうな敵だが嘗めてはいけない。

狼らしく鼻が利くため索敵範囲が広く、隠密行動も出来る。油断してると遠くから寄って来る敵が次々と奇襲を掛けてくる事態に陥るだろう。


かなり厄介なモンスターだが、勿論攻略法はある。

待ち伏せをして一匹ずつ誘い出し確実に倒していけばそれ程強敵ではない。

そんな情報を酒場の主人から聞いていた。


だが、聞きかじりの知識で痛い目を見たばかりなので、それより更に万全を期すもりである。


「そいつらはこっちに向かって来てるか?」

「いや、そんなことはないな」

「ナイスだ」


カティは本当に使えるヤツだ。

そんなことを思いながら、今回の狩りの安全性が高まったことに安堵する。


シープウルフは、索敵範囲内に人間が入って来たら直ぐさま襲いに行くというアグレッシブなモンスターなので、向かって来ないということは、まだシープウルフに自分達が見つかっていないということだ。

敵の索敵範囲よりこちらの索敵範囲の方が広いならば、誘い出しや待ち伏せが格段に楽になるだろう。

そんなことを考えながら、真也は待ち伏せの為の場所を確保し準備を整えた。









待ち伏せの用意を終えた真也はカティと一緒に獣道を少しずつ進んでいた。

準備した場所までシープウルフを誘い出すためだ。


誘い出す囮役はカティ一人で十分だったが、それでは何かあったときに真也が対処出来ない。

流石の真也も、危険な囮役を子供一人に任せるほど性根が腐っている訳ではないのだ。


「あっ!? おい! 一匹動き出した!」

「引き返すぞ! 走れ!」


元来た道を駆け戻る二人。

シープウルフの索敵範囲に侵入したようで、一匹がこちらに向かって来ているらしい。

らしい、と曖昧なのも当然で、真也の〈気配lv1〉ではそれが確認出来ていなかった。

カティがいなければこの作戦の危険度は確実に上がっていただろう。


真也達とシープウルフの間には十分な距離があったので、地の利があるシープウルフにも二人が追い付かれることなかった。

真也達が駆け込んだ場所は、森の中にある大きな広場。

そこが狩りの舞台、迎撃地点だ。


草木を盾にした戦い方は真也も得意だが、恐らくシープウルフの方が上手だろう。

だからあえて障害物が無い開けた場所を選んだ。


カティは森の中に身を隠し、真也は広場の中央に立ってシャムシールを抜刀する。

剣を構え、敵がやって来る方向を睨み付けて待つと、暫くしてから草木が僅かに揺れた。

来たな! と思った直後に茂みの中から飛び出す影。

広場の草地を蹴り飛ばし、跳ねるように突進してくるシープウルフ。

狼の頭に白いモコモコとした羊のような毛で覆われた体、まさに羊の皮を被った狼といった見た目のモンスターだ。

大口を開けて汚い涎をダラダラと垂らし、こちらに突撃してくる様は中々に迫力があった。

噛み付かれると眠らされるので、その牙は受けたくない。

そこそこ距離のある草地を駿足で駆け抜けて来た狼が、もう目前に迫る。

距離を詰めたシープウルフは飛び掛かるため、真也の手前で地面を蹴り――そして踏み抜いた。

シープウルフが体勢を崩したと同時に、真也は一歩、大きく踏み込んでいた。

そして不様に転げた間抜けな狼に向けて、シャムシールを振り下ろす。


「ハッ!」


呆気なく終わりすぎて鼻で笑ってしまった。


今回の勝因に目を向ける。

シープウルフのコケた場所には、浅い落とし穴が口を開けていた。

この広場には、真也の仕掛けた落とし穴が大量に溢れていたのだ。

巧妙に草地に偽装されたそれは、その全てが見事な出来栄えで、間近で確認しないと気付けない。


もちろん、真也が落とし穴作りの天才という訳ではなく、スキルの恩恵だ。

ブラッドシープでレベル上げをしたとき、〈トラップlv1〉のスキルを取得しておいていたのだ。

そのスキルから得られた知識を使い、ひたすらに穴を掘り偽装を施した。

録な道具が無く、木の棒で掘った穴はとても浅いが、考え無しに突っ込んでくる間抜けな狼に隙を作らせる程度は出来る。


「なんだ、楽勝だったじゃねーか」

「まあ、これだけ周到に準備すればな。じゃあ、さっさと次行こうか」


茂みの中から出てきたカティと軽く言葉を交わし、次の獲物を求めて再び森の中へと入っていった。





その後は順調にシープウルフを狩っていったが、5匹めを切り捨てた後に異変が起きた。

遠くから響く狼の遠吠えらしき不気味な声。


「ん? 何だ? ……シープウルフは遠吠えするのか?」

「……シープウルフが遠吠えをするなんて、アタシは聞いたことねーぞ」


狼の遠吠えは仲間同士でコミュニケーションを取るための手段だ。

その全てが一匹狼であるシープウルフに、果たしてそんなものが必要なのだろうか?

そして、〈白夢の森〉に生息するモンスターで、およそ犬や狼と言えるモンスターはシープウルフしか居ない筈だ。

何か、嫌な予感がする。


「……カティ、これから先、何か気付いたことがあれば何でも直ぐに言ってくれ」

「あ、ああ……」


真也の深刻そうな口調に、カティは少しだけ不安そうな様子を見せる。

だが、ここまで来たらある程度情報を持って帰りたいところだ、と判断してシープウルフを誘き出す為の索敵を続ける。


「……なあ、アイツら、向かって来ねーんだけど」


暫く進むとカティがそんなことを言った。


「……どういうことだ?」

「そのまんまの意味だよ。さっき倒したヤツより近寄っているのに、全然反応しねーんだ」

「そいつの周りに他の敵は?」

「いねーよ」

「……じゃあもう少し近付いてみよう」


そのモンスターに近付いて行くと、真也の〈気配〉スキルでも探知出来る範囲に入ったが、それでも動かない。


「……情報には無かったが、シープウルフ以外もこの辺にいるのかも知れない。少し様子を見に行こう」


もしかすると先程の遠吠えの主かもしれない、と少しだけ期待していたのだが、残念ながらそこに居たのは普通のシープウルフだった。


ただ、その行動は普通ではないようだ。


遠くの木の影から覗き見ると、開けた場所で座り込みこちらを睨み付けていた。

顔は大きく歪められ、唸り声を上げて威嚇しているのが遠くからでも分かる。

今にも飛び掛かって来そうだが、まるで「待て」を言い付けられた犬のようにその場を動かない。


「何だあれ? もしかして待ち伏せのつもりか?」

「アタシが知るかよ」


暫く様子を窺ったが、威嚇するのみで襲い掛かっては来ない。

シープウルフにしては異様過ぎる行動だ。


「なあ、カティって投石が得意だよな」


ミストバク戦で後頭部に石の礫をぶつけられたことを思い出して聞いてみた。


「ああ、うん、〈投擲lv1〉持ってるしな」

「成る程、スキルだったか。ちょっとやってみて」

「石じゃ殆どダメージ入んねーぞ」

「ただの実験だから大丈夫」


カティは周辺に手頃な石が無かったのか、カティはストレージから石の礫を取りだして隙の無い動きで投げ付けた。


「おおっ、当たった当たった」

「へへっ、当たり前だろ、的が動かないんだぜ」


当たり前と言いつつも自慢気なカティ。

少女が犬っぽい動物に石を投げ付けるという、今すぐお巡りさんに補導されてしまいそうな行動を取ってみても、シープウルフは動かずに威嚇顔を怒りに染めるのみだ。


仕方なく真也は抜刀して駆け出す。

シープウルフは真也がある程度近付いて来ると、やっと襲い掛かって来た。

この動きはもう見慣れたもので、特に問題無く対処出来る。

避ける必要すらない。

相手が飛び掛かって来たタイミングに合わせて剣を振る。それで終了だ。


そして、そこで再び謎の遠吠えが聞こえてきた。


「遠吠えで指示を出しているのか?」

「シープウルフは群れない筈じゃねーのかよ」


今回の遠吠えでは何を指示したのか気になり、次を探すが、


「あっ!? アイツら、逃げやがった!」


一定範囲、恐らくシープウルフの索敵範囲に入ると、一目散に逃げていくらしい。

そしてその方向は森の奥。

何て分かりやすい罠だ。

追いかけた先には多くのシープウルフが待っているのだろう。


「……よし、帰ろう」


これは突然ボスモンスターが現れてモンスターを率い出す、とかいうゲームにありがちなイベントだろう。

現状の手札で対処するのは厳しそうなため今回は引き返す。


幸いある程度情報は手に入った。

相手が大きな群れのため、少人数での討伐は想定されて無さそうな難易度に思えるが、それは正攻法で攻略するときの話。

やりようによってはどうとでも出来るだろう。

真也はそんなことを考えながら〈白夢の森〉を後にした。

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