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ことばだって年を取る

 彼女はシャツを脱ぎ捨てた。シュミーズの下には、豊かな胸が淡く色づいていた。


 ……のっけから、申し訳ありません。タチアナさんの色っぽい姿をしばらくご想像ください。


 さて、ある女性が服などのセンスが「イケてる」ということを、「イケてる」ということばを使わずに表すには、どうすれば良いでしょうか。


 いくつか方法がありますが、いちばん簡単なのは、彼女が身につけているブランド品の紹介です。

 残念なことに、なろうのサイトではブランドやお店の名前をはっきりと書くことは、利用規約に触れる可能性があるため、避けたほうが良い方法になります。けれども、このような方法は、たとえば、この先に仕事として文章を書くときのために、身につけておいて損をするものではありません。


 また、服の組み合わせをアレコレするシーンを入れるのも、良いかもしれません。マンガや映像でよく見る方法です。ただ、こちらについてはブランド名を出さずに、シルクだのカシミアだの素材で上質なものだとイメージさせる方法をオススメします。ブランド名を出すのが「こういうブランドをアレコレできちゃうセレブなアタシ」の演出だとすると、こちらは「ブランドに惑わされずにホンモノを身につけるハイソなワタクシ」の演出なので。


 後は、周りの人に服のセンスをチヤホヤさせる(または、対照的な服装をした悪役にバカにさせる)という方法を取っても良いでしょう。


 ここで例として出したのは服装のセンスについてですが、主人公の強さや美しさを表すにも、こういった方法は使えます。

 ただ、これらの方法にはそれぞれ欠点があります。ブランド名をズラズラ書かれても、ステータスをオープンされるようなものなので、目がすべりますし、「上質なワタクシ」については迫力のない戦闘シーンと同じで、書き手の力量がアウトならアウトです。ほかの人と比べる方法については、相手をキチンと描けないなら、テレビ番組のいかにもな観客の声以上に、受け手にとってイラつく演出となるでしょう。

 もう一つ注意した方が良いのは、「ことばも年を取る」ということです。とくに、ファッション関係のことばは劣化が激しいです。冒頭の例でも、「シュミーズ」なんぞ身につけていると書かれたら、胸どころかウエストも豊かな女性を私なら想像してしまいます。「パンティ」なんて履かれたらなおさらです。


 さて、ことばは世界も創造します。

 たとえば、「スライム」ということばからは、モンスター(ホウ砂で作ったアレではない)を、つまりファンタジーな世界を想像します。

 ことばを造ることは、概念を造ることでもあります。「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」ということばができてはじめて、職場での人間関係を背景にした、おもに男性から女性に向けての、性的なニュアンスを含む行為が問題として考えられるようになりました。

 新しい概念は、造ったモノ勝ちです。オリジナリティあふれる世界を創りたいのであれば、自分でことばを造るのは、良い方法だといえるでしょう。


 造るのとはちがいますが、ふだん使われていることばに別の意味を持たせるのも、良い方法です。これが圧倒的にうまいのは、スティーブン・キングです。とくに、「IT」。もう、IT(それ)です!


 個人的には、同音異義語風のことばも好きです。たとえば、とあるSF小説に出てきた、「反在士(はんざいし)」と呼ばれる人たち。これはもう、「ハンザイ」という「犯罪」を想像させることばを思いついた時点で、傑作なのです。


 ただし、造られたことば、新しい意味のことばはたくさん出てくると、ウルサイです。また、はじめからその種のことばを使った世界の説明が始まると、ほとんどの場合、読む気をなくします。

 考えてみてください。カワイイ女の子を集めてそういうお店を開こうというときに、お店のシステムやアクセス方法から説明しますか?

  物語の冒頭は、サイトのトップページと同じです。説明してはいけません。まずはイメージで呼び込み、お店に入らせ、話はそれからなのです。

 ただし、例外はあります。

 まずは、テンプレ小説(お店でいうと、格安店)の場合。それから、テツガク系というか意識高い系のお話(お店でいうと、お高い会員制クラブ)。これらは、その種のことばを使うことがお約束なので、ガシガシ使ってあげてください。喜ばれます、多分。


 ことばは、正確にいうと、ことばのイメージは時代によって変わります。古くさいと思われたくないのなら、読み手の層に合わせて変える必要があります。

 しかし、アダルトな表現については話は別です。これほど、時代というか書き手の感性を見せるものはないと思いますが、書き手にとってもっとも大切なのは、熱意です。ほとばしるパトスです。リビドーです。無理に合わせる必要はないのです。

 それでも、どうしても不安だという場合は、どうか、一休さんの知恵を借りてください。元祖……ではありませんが、千年経っても(経ってないけど)色あせない、エロのお手本がそこにはありますから。


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★ことばの使い方いろいろ

・京極夏彦『魍魎(もうりょう)(はこ)』。登場人物の一人が「すりきれたコール天の服」を身に付けていたという描写があって、良かった。これが「コーデュロイ」だと違う。


・スティーブン キング『IT』小尾芙佐/訳。何か、ソーダイなホラーぽいナニカのお話。


・道原かつみ/麻城ゆう「ジョーカー」シリーズ。近未来を舞台に、遺伝子工作で造られた「合成人間」が活躍する。シリーズ第1巻『帝王の庭』では、合成人間であるヒロイン?が「お人形(ドール)」と侮辱されるシーンがある。


・浦沢直樹/勝鹿北星/長崎尚志『MASTERキートン』。地下に潜って活動することから、モグラ(モール)と呼ばれる旧東ドイツのスパイのエピソードがある。


・川又千秋『反在士の指環』。『反在士の鏡』の方を読んだが、内容は記憶にない(解説は覚えている)。


★悲劇の王子さま

・一休宗純『狂雲集』。帝の血を引きながらも、政治に関わり争いの元になることを恐れ、在野に生きた、エロエロ破戒僧。マイ・フェイバリット坊さんその3。ある種の傾奇者(かぶきもの)。加藤周一の評論から読んだ。ただし、全編エロではない。


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