4話 体育の時間
「昼ご飯はここのところずっと食べてないな、別に平気だし」
「そ、そうなんだ...でも5時限目は体育だから...その...」
結城は恐る恐るといった感じで弁当を差し出してきた。
中身は卵焼きやウィンナー、ブロッコリーといった普通だ。
「...いや、それはお前の弁当だし悪い」
「で、でも」
「その気持ちだけもらっておくよ、ありがとう」
「う、うん...」
真琴は高校生に上がってからはいつもこうだ。
他人との距離をあまり縮めようとはしない。
それは高校生に上がったばかりの事だろうか...家族で旅行中、不慮の事故で両親を亡くしてしまったのが大きく影響していた。
それ以来、親父の兄貴...叔父である東仙寺 吾郎に面倒をみてもらっている。
(まぁ、無理を言って一人暮らしをさせてもらっているけど...)
一時期、吾郎の家族と一緒に住んでいたがその幸せな家庭を見ていると胸が苦しくなった。
そして真琴は高校を変え、ここ春桜高校へと来たのだ。
(家賃とかの援助はしてもらっているけど、自分でもバイトやらで少しくらいは稼がないとな。叔父さんがお金に困ってないのは親父から聞いてたけどさすがに申し訳ないし)
―昼休みが終わり、体育の時間の開始である。
今日の内容はバスケットボールだ。
準備運動後に6つのチームに分かれて、試合をする。
「へいっ、こっちだ!」
一際目立つその人物の名前は烏山 大地という元気で明るそうな男子生徒だ。
この学校のエースとして有名であり、その性格で周囲からの人気も高い。
「っし!」
見事にシュートを決め、チームメイトとハイタッチをする。
(あの動き...バスケ部っぽいな)
実は中学生の頃、真琴もバスケ部に所属していた。
(懐かしいな...あの時はみんなからも信頼厚かったし、良い成績も残した事もある)
そんな真琴は今、周囲から不良と恐れられぼっちである。
「次はCチームとDチームで試合だ!コートに出て始めるぞー!」
体育教師である岡部が進めていく。
少し固いところがあるが、真面目でしっかりとしている先生らしい。
真琴はDチームの為、コートへと出る。
男女混合であるので女子も一緒だ。
その中には結城の姿もある。
「....」
チームメイトからの視線が痛い。
「それじゃ、開始!」
岡部がボールを頭上に投げ、試合開始だ。
それからの真琴は積極的に動かず、周囲の生徒達へと丁寧にパスを捌いていく。
周りから見れば、多少運動ができるくらいの些細なプレーだ。
(へぇー、あの転校生うまいな!)
しかしさすがはバスケ部。
烏山はそのプレーで、真琴が経験者である事を何となく察した。
(あいつ、うちの部活に入ってくれないかな...)
バスケ部は部員数たったの5人。
三年生が1人、二年生が3人、一年生が1人とギリギリだ。
今年で三年生は引退してしまうのでメンバーが足りなくなる。
そんな烏山の視線に真琴は気付かないまま、試合は終わっていった。