35話 写真
夏未と真琴は、ただ今下校中だ。
...真琴の家に向かって。
(...ど、どうして私あんな事を...)
(ま、真琴君の家に行くなんて...は、恥ずかしいよお!!)
夏未の顔は真っ赤だ。
それもさっきからずっと。
「なぁ、無理して来なくてもいいんだぞ?」
「えっ!?で、でも寝ちゃうんでしょ?」
「多分な...どうしても今日じゃないと駄目なのか?」
「えっと...その...」
夏未は口ごもる。
何て言ったらいいのか分からないからだ。
(...他の子に取られたくないからだなんて絶対に言えないよ!!)
「う...その、お母さんも言ってたし...」
「...まぁ、別に家に来るくらい良いんだけど...」
「え?そ、そうなの?」
「ああ、ただ面白い物は無いぞ?必要最低限の物しか置いてないからな」
「そうなんだ...」
そうこう話しているうちに、真琴が住んでいるマンションへと来ていた。
「ん?どうしたんだ?」
「...何か、大きいなーと思って...」
「叔父さん、金持ちだからな...それにここらへんは家賃も安いみたいで、別に負担にはならないって言ってた」
このマンションは築10年、15階建てなのだが駅まではそこそこ歩くし思ったよりも家賃は高くない。
それに部屋自体もそこまで広くは無い。
真琴が住んでいる階まで行き、とうとう着いてしまった。
「まぁ上がってくれ」
「は、はい」
(と、とうとうここまで来ちゃった...お母さんにメールは送ったけど、″頑張れ、わが娘″ってどういう事なの...)
「...俺はとりあえずシャワー浴びて来る。飲み物とか冷蔵庫に入ってるから勝手に飲んでて構わない。あ、それと適当にそこらへんにある本とかも読んで良いからな」
「あ...うん!分かった!」
夏未は中を見渡す。
特にこれといった目立つものはなく、ベッドやテレビ、机などといったごく一般的な物が置かれている。
(何か、いい匂いがするなあ...)
顔を赤らめている。
(...あれ?)
部屋の隅っこの本棚。
本数は多くないが、夏未が見つけたのはとある1枚の写真だ。
(これ、真琴君のご両親かな...?二人ともとっても優しそう。それに、幸せそうな顔してる...)
中学の入学式の写真だろうか。
3人とも笑顔で映っている。
(真琴君も、小さくて可愛いな...)
今では少し不愛想だが、元々明るい生活の持ち主だ。
両親が亡くなってから真琴から笑顔が減っていった。
...今では色々な人物に囲われ、笑う事も多くなったが。
「でも、写真って1枚だけなのかな」
独り言のように呟くと、後ろから声が聞こえる。
「ああ、他は叔父さんの家に置いてある」
「っ!?ま、真琴君!?は...はやいね!」
「汗を洗い流すだけだしな。帰ってきたらまた洗うつもり」
「そ、そうなんだ...」
「見れば分かると思うけど、それは中学の入学式の頃の写真だな」
「ご両親、とっても優しい顔しているね」
「...そうだな、毎日が幸せだった」
「...あっ、ごめんなさい...」
「別に謝る事は無いよ、それに...」
「...それに?」
「お前らのおかげで、俺はこうして楽しい生活を送れてるんだ。本当に感謝してる」
「真琴君...」
「...それじゃ、俺はそろそろ寝るから適当な時間になったら起こしてくれ」
そういってベッドの中に入っていった。
寝顔は見られたくないのか、壁際の方へ顔を向けて。




