32話 恥ずかしい名前
「真琴、こっちだ!」
それからの試合は常に2年の優勢であった。
オフェンスだけでなく、ディフェンスでもボールを奪い取る場面を増えている。
今も真琴から繋がれたパスを、烏山がしっかりとゴールを決めた。
「はぁはぁ...やるじゃねぇか」
苦しい展開ながらもバスケットを楽しむ事を止めないこの郷田という男は強かった。
それに、決めてほしくない場面でシュートを決めてくる。
(あの3年、実力もそうだが何よりも精神が強い...さすがはキャプテンなだけあるな)
真琴すらもそう思う。
しかし、郷田も真琴の動きをみながら考える。
(あの真琴とかいう後輩、上手く周囲を使ってやがる。烏山に対するパスもそうだが、他の奴らにも取りやすいパスを出しながら常に周りを見てプレーしてる...)
気付いたら同点だ。
残り時間もあと20秒となっている。
「くっそ...体格も運動神経も俺達の方が有利なのに!」
焦った3年生は、ゴール下に突っ込んできた。
その甘いドリブルの隙を真琴は見逃さない。
相手の死角から、ボールを奪っていった。
「させん!!」
しかし、郷田は真琴の前へと入り抜かせない。
他の生徒達はまだ後ろだ。
(...あんたとは別の形で戦いたかったよ、郷田先輩)
「っ!?」
この日一番のスピードで、軽々と郷田を抜き去っていった。
前にはもう誰もいない。
(あいつ...まだ本気を出してなかったのか!?)
郷田はその早さに反応すら出来なかった。
今までのプレーで早いのは分かっていた。
...しかし、それはまだ真琴の本気では無かったのだ。
終了を告げるブザーが鳴ったとき、真琴が放ったシュートはゴールネットを潜り抜けていた。
それは、2年2組が勝利した瞬間でもあった。
40:42 それが得点ボードに表示されていたものだった。
「う、うおぉぉぉぉ!!!」
「あいつら3年生に勝ちやがったぞ!!!」
「すげえ!」
ただの球技大会なのだが、この試合だけは特別だった。
バスケ以外の種目の選手達もわざわざ見にきていた。
「や、やった!!」
「...勝っちゃったよ」
思わず夏未も大きな声で喜んだ。
五十嵐は喜ぶというよりも驚きの方が強かったが...
「雀ちゃん!勝ったんだよ、真琴君達が!!」
「え、ええ...ビックリだわ」
「凄かったね!!」
「そうね、真琴君とってもカッコよかったわ」
「うんうん!本当にカッコよかったよ!!...え?」
「ふふふ」
「あ、あぅあ...」
今しがた自分が言った言葉を思い出し、顔から湯気が出るほど赤面をしていた。
そして決着がついたコートでは、互いが握手をしている。
「負けたよ、烏山」
「いえ...あのままだったら俺達は...俺は負けてました」
「ふっ、確かにな。だが驚いたぞ、まさかあんな奴がいるとはな」
「俺も真琴があんなに出来るとは知らなかったっす...エースだからって、調子乗ってました」
「それにしても真琴...ん?なぁ、あいつの上の名前って何だ?」
「えっと、東仙寺ですけど...」
「東仙寺...まさか」
何かを思い出した郷田は真琴の元へと向かっていく。
「...なぁ、東仙寺」
「たしか...郷田先輩でしたっけ」
「そうだ。この試合、楽しかったぞ...まるで大会のような緊張感だった」
「...俺も楽しかったですよ、まさかこの学校にこんな手強い人がいたなんて思ってなかったから」
「ふっ、よく言う。...本気、出してなかったんだろ?」
「....」
その質問に真琴は答えなかった。
「お前ほどの男が部に入らないのは気になるが聞かないでおく。だが」
「...だが?」
「お前と一緒にバスケが出来た事を誇りに思う」
「...」
「ありがとな、″消えた天才″」
「なっ、あんた知って...!」
「バスケ雑誌とかで意外と有名だぞ?」
「それは黙っててくれ...恥ずかしいんだ」
そう言って郷田は自分のクラスメートがいる場所へと戻っていった。
消えた天才...それは真琴が高校生になってから付けられた名前だった。
都大会での活躍により、最優秀選手に選ばれた真琴だったがどの高校からのスカウトも断っていた。
周りからの期待の眼差しが痛かったのだ。




