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(おまけ)第十回の後

両声類だった俺は両性類にLvUPしたの番外編終了一周年企画その2。

いつもとは違い、普通に書いてます。そもそも視点が、舞でも翠でもないです。

 こうやって、舞のラジオを見るのは二回目だろうか。


 翠さんと舞がやっているラジオは、何回か聞いたのだけれど、テストとかライブで正直それどころではなかった。


 ユメにフラれて、今も何かしたい気分ではないのだけれど、あまり引きずっていたらユメに悪い。


 ユメは次の日にはいつも通りに戻っていたし、ユメの歌にあったように、この関係に騙されるのが良いのだろう。


 何より今日は、ただ舞の様子を見に来たわけではないのだから。


 自分の事にばかり構っていられない。


『四月から本格始動って言うのも驚いたけど、卒業ライブ終わってすぐに、桜ちゃんが宣伝にここまで来るって言うのも驚いたな』


 頭の中に心地よく響くユメの声に、一度頷いてから、横に首を振った。


『確かに、稜子と桜ちゃんだから、あんまり驚くことも無いんだろうけどね』


 始まってまだ十分もたっていないが、他人様のラジオだと言うのに、桜ちゃんがいつも通り過ぎて呆れるばかりだ。


 頭の中で時折漏れたように聞こえる、苦笑がユメも同じことを考えていることを教えてくれる。


 何処となく初めて舞がラジオに出た時を彷彿とさせる、はっちゃけ具合に、難しい事は後回しにして、目の前のラジオを楽しもうと決めた。


     *


 ラジオの収録もいよいよエンディング。桜ちゃんは自分の仕事を果たしていたが、あれでよかったかどうかは俺には判断できない。


 もうすぐ終わるかと思ったら、緊張が押し寄せてきた。


 今日は桜ちゃんと一緒にラジオ局まで来たけれど、目的は全然違う。


 出来れば今日ここに来ることを、舞に伝えておきたかったけれど、こちらも急に桜ちゃんに呼ばれたので連絡している暇がなかった。


 やること自体は別に緊張する事ではないのだけれど、もしかしたら舞の活動に支障が出るかもしれないと思うと、慎重にならざるを得ない。


『緊張してるよね? 代わってあげようか?』


 ユメの提案に、否定を示す。


『今日は遊馬じゃないと駄目だもんね』


 ユメの言葉に頷いたところで、雑な挨拶があって、収録が終わった。


 桜ちゃんが、翠さんたちに何かを言ってから、すぐにこちらにやってくる。


 俺に着いてくるように促して、スタッフの一人に「例の部屋借りますね」と声を掛けて、俺を例の部屋に連れて行った。


「先輩、やることはわかってますよね?」


「お礼言うだけだよな」


「そうです。だから、緊張しなくて大丈夫ですよ。


 舞さんも連れてきますから、話して良い事悪い事は、舞さんに直接訊いてくださいね」


 返事を待たず、桜ちゃんが部屋から出ていく。


 今日俺がここまで来た理由は、翠さんにお礼を言うため。ドリム問題解決に、一役買ってくれたと言うのに、お礼も言えていなかった。


 今さらだけれど、初代ドリムとして、顔を合わせてお礼を言おうと言うわけだ。


 いつかはお礼をしたいとは思っていたけれど、まさかいきなり桜ちゃんに呼び出されて、「じゃあ、今から翠さんにお礼を言いに行きましょう」と連れ去れるとは思っていなかった。


『ただお礼を言うだけで終わればいいんだけどね』


「そうもいかない可能性は大いにあるんだよな」


『わたしの事は言わないんだよね?』


「まだ早いと思う。今日は初代ドリムとしての話だけで留めておきたい」


『うん、了解』


 ユメとの会話で多少緊張がほぐれたところで、桜ちゃんが戻ってくる。


 しかし、扉を開けた状態で入って来ようとはせずに、何かを説明しているらしい。


「この先に今日三人目のゲストがいます。


 呼んでおいてにはなりますが、この中での事は他言無用でお願います。


 守って頂けないようでしたら……ご想像にお任せします」


「そんな怖い顔しなくても、話すなって言われたら話さないよ」


「信用しますね。あっけなく終わるかもしれませんが、どうぞ」


 桜ちゃんに促されて、舞と翠さんが部屋の中に入ってくる。


 立ち上がって迎える俺を見て、不思議そうな顔をする翠さんとは対照的に、舞は驚いた様子も無く手を振った。


「やっぱり遊馬君だったんだね。って事は、翠さんに全部話すのかな?」


「俺の事だけ、な」


 あまり「ユメ」と口に出したくなかったので、回りくどい言い方をしたが、舞は何とか察してくれたらしく、力強くうなずいた。


 首を傾げる翠さんは「君は確か、ドリムちゃんのマネージャー君だったよね?」と確認してくる。


「あの時にはお世話になりました」


「いえいえ、こちらこそ。あれ以来見ないからどうしたのかなって、思ってはいたんだけど」


「結論から言うと、舞のマネージャーではないんですよ。


 順を追って話しますので、座ってからにしませんか?」


 座るように促して、二人が座った後で座る。


 順を追ってと言っても、追う順序が無い。しかし、黙ってはいられないので、思いつくままに話すことにした。


「始めにお礼を言わせてください。手を貸していただき、本当にありがとうございました」


「話が見えないんだけど、教えてくれるかな?」


「ドリム問題を解決する手助けをしてくれましたよね。俺が初代ドリムなんです。


 お礼が遅くなって申し訳ありませんでした」


 頭を下げる俺に、翠さんが「頭下げないで」と慌てる。


「えっと、確認したいことがあるんだけど、気を悪くしないでね?


 ドリムちゃん、彼は本当に初代ドリムなの?」


 俺と翠さんは以前にちょっと顔を合わせた程度、いきなり俺が初代ドリムだと言っても信じがたいだろう。


 翠さんにしてみたら当然の事だから、気を悪くする要素はまるでない。


「間違いないです」


「ありがとう。


 初代君、ドリムって言うものについて、話を聞いてもいいかな?」


 やはり来たか。舞に視線を送ったら、舞は頷いてから話し出す。


「遊馬君の話の前に、わたしから説明してもいいですか?」


「うん」


「翠さんは大体分かっているとは思いますが、元々遊馬君がドリムと言う名前で、歌を投稿しました。


 始めの方のコメントで傷ついた遊馬君が、ネットから離れた後で、再生数がどんどん伸びて行ってドリムと言う名前が残ります。


 名前だけ有名になって、中身の無かった『ドリム』をわたしが勝手に名乗り、その知名度を利用してアイドルとして名が売れました。


 ここまでが前提になります」


 舞の言葉を翠さんは、時折頷きながら聞いている。


 特に驚いた様子も無く、怒る様子も無く、事実を確認しているだけのようで、俺は一人ホッと胸を撫で下ろした。


「わたしと遊馬君が出会ったのは、遊馬君の学校の文化祭に呼ばれた時です。


 出会った時には遊馬君が初代ドリムだとは知らずに、だいぶ勝手な事を言ってしまいました。いえ、勝手な事を思っていただけで十分に、咎めるに値するでしょうね。


 遊馬君が初代ドリムだと知った後、わたしは自分がしてしまった事の重大さに気が付きました。


 二代目ドリムって事にコンプレックスを持っていたわたしは、遊馬君を傷つけるような事も言ってしまったんですけど、そんなわたしに遊馬君は『ドリムに縛られずに自分の歌を歌って欲しい』って、一度だけチャンスをくれたんです」


 ユメの事を話せないままだが、舞の言っている事はおおむね正しい。


 舞が話せる範囲を最初に示してほしかっただけなのだけれど、ここまで話したのならあとはユメの存在だけを言わなければ問題ないだろう。


「でも、わたしはそのチャンスも不意にしてしまいました。


 ずっとドリムを目指していたわたしにとって、ドリムの歌こそがわたしの歌になっていましたから。


 だけど、遊馬君はわたしの友達になってくれて、ドリムもわたしにくれました。


 代わりにわたしは、遊馬君が見られないモノを、アイドルのドリムとしてしか見れないモノを遊馬君に見せると約束したんです」


「初代君、今の話に何か付け足したい事はある?」


「無いですよ。舞が言っている通りです」


「じゃあ、質問」


 真剣だった翠さんの雰囲気が、幾分か和らいだ。


 長々と話していた舞は、疲れてしまったのか、心配そうにこちらを見るけれど、何も話そうとはしない。


「初代君は、ドリムをあげた事、舞ちゃんが初代君が望む歌を歌わなかった事、そして今の状態に対して後悔してない?」


「いいえ。まったく。


 俺がドリムを名乗り続けても、舞ほど有名になる事はなかったでしょう。


 俺がドリムだと分かって舞に近づいたのは、さっき舞の話にも有った通り舞の歌が勿体ないなと思ったからですから、ドリムに執着があったわけでもありませんでしたし。


 歌に関しても、俺が勝手に勿体ないと決めつけていただけで、俺の真似がいつしか舞自身の歌になっていると気が付かなかった俺の落ち度です。


 最後に、こうやってラジオのメインパーソナリティを任されるような人物が生まれる手伝いが出来て、その人と今も友達でいられる。この状況に不満があると思いますか?」


 言いたいことは間違いなく、虚偽も無く、ちゃんと言えただろう。


 この後、改めてお礼を言って終わりかなと思ったのだけれど、どうやらそうもいかなくなったらしい。


「初代君、ありがとう」


「何で翠さんがお礼を言うんですか、俺が言いに来たのに」


「何でって、舞ちゃんにドリムも歌もくれたんだから。それに、君がどこかで舞ちゃんを見捨ててしまっていたら、舞ちゃんは多分この場に居ないから。


 だから、ありがとう。


 舞ちゃんも、ちゃんと反省したから今があるんだよね。自分が悪かったんだって、認めて、受け止めて。許してくれる人がいてくれた。


 一つの物語みたいだけど、現実にこんな事ってあるんだね」


 翠さんは読み終わった本に思いを馳せるかのように、目を閉じた。


 しばらくして、ゆっくりと目を開けた翠さんは、改めて俺にお礼を言ってから立ち上がる。


「さて、ドリムちゃん遊びに行こうか」


「はい、そうですね」


「初代君も一緒に来る?」


「今回は俺はいけませんね。十戸倉さんに、俺の事を説明するのは大変でしょうから。


 あと、正直なところ、女性四人と一緒に遊びに行って楽しめる気がしません」


 翠さんは「残念」と笑ってから手を振る。


「遊馬君、またね」


「また何かあったら呼んでくれよ」


 別れの挨拶も終わって、二人が部屋を出ようとしたところで、ふと思い出す。


「いつ、どこで、は言わないでほしいですけど、初代ドリムにあったと言う事だけは話して貰って大丈夫ですから」


「そんな事言うと、次の収録で喋っちゃうよ?」


 翠さんが悪戯っぽく言ってから、舞を伴って、部屋を出て行った。


『翠さん、良い人だったね』


「舞が信頼を寄せている人だから、悪い人なわけがないんだけどな」


『それにしても、ドリムの話をすると疲れるね。半当事者ながら、頭が混乱して来るもん』


「人によって呼び方変わるもんな。舞は俺の事を名前で呼ぶけど、翠さんは初代君だったし。


 いつまでもここには居られないし、帰るか」


『遊馬、わたし帰りにクレープ食べたい』


「了解。いっそどこかで入れ替わるか」


 駅へと向かいつつ、何処か入れ替わるのにちょうどいい場所はないかと、考えていた。

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