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第十四回の後

サブタイトル通り第十四回の後の話です。視点は翠で、「第十回の後」のように普通に書いています。

要するに暇つぶしに書きました(

「お疲れさまでした」


 いつものように皆で声を合わせて、ラジオの収録を終える。

 ただ「いつものよう」ではない、ユメちゃんだけは焦ったようにあわててて声を出していた。可愛い。

 対してまだ2回目のはずの桜ちゃんはぴったり私たちに合わせていて、抜け目なさを実感する。

 今日の企画も桜ちゃんが持ち込んだようだし、神は二物を与えない十は言うけれど、彼女は十物くらい与えられているのではないだろうか。


「今日は皆はこの後予定とかあるの?」


 ラジオの撮影の後、舞ちゃんと遊びに行くのは恒例になっているけれど、ゲストに来てくれた人とも遊びに行くのを恒例にしたいと思う今日この頃。

 ななゆめの二人を遊びに誘うことが出来る状況と言うだけでも、贅沢だと言う自覚はある。

 たぶん、後日ととのんからメールの嵐が来るだろう。


「ごめんなさい。今日は先約があるんですよ。ね、ユメ先輩」


「え? あ、うん。そうだったね」


 誘えるだけで贅沢だとはいっても、断られるとちょっと悲しい。

 なんだか、ユメさんが驚いたような反応をしていた気がするけれど、桜ちゃんがアイコンタクトを送っていた気がするけれど。

 もしかして、私嫌われてしまったのだろうか。


 でも私は大人なのだから、大人らしくスマートに話を進めなければ。


「そうなんだね。ごめんね、急に誘っちゃって。このあと何があるのかな?」


 理由を聞くなんて何たる失言。悲しさが言葉に出てしまった。

 すぐに訂正しようと思ったのだけれど、律儀にも桜ちゃんが話し出してしまう。断じて、気になったから黙ったわけではない。


「きっとこのあと、翠さんに遊びに誘われるので、楽しみにしているんですよ」


「よし行こう、すぐ行こう、どこ行こう?」


 桜ちゃんの小悪魔。下げて上げるとか、私のテンション振り切れちゃう。

 悪びれもしないその笑顔やばい。可愛い。

 少し離れたところで、舞ちゃんとユメちゃんがそれぞれ謝って居るようだったけれど、きっと気のせい。


「桜ちゃんがごめんなさい」


「ううん。可愛いよ」


「えっと、翠さんはどこに行きたいとかありますか?」


 申し訳なさそうなユメちゃんに正直な答えを返したら、困った顔をされてしまった。

 どこに行きたいかというのは、私が尋ねるべきだと思うのだけれど、先に言われてしまったのであれば、気の利いたところを提案しなければ。


「カラオケに行って、皆が歌う様を見ていたいかな。席は、ユメちゃんと桜ちゃんに左右に行ってもらって、舞ちゃんは私の上」


「はいはい。ふざけたこと言っちゃ駄目ですよ」


「でも、カラオケは良いですね。わたしとしても都合がいいです」


 最近、舞ちゃんが私の扱いになれてしまって、つれない事を言われることが増えてきた。

 それはそれで心が通じ合っている気がして嬉しいけれど。それに今日はちょっとはしゃぎすぎているかもしれない。

 ドリムである舞ちゃんの大ファンとはいえ、ななゆめだって注目の子達だから。


 それに舞ちゃんとユメちゃんの並びはやばいと思う。

 二人でユニットとか組んだら、最強じゃないだろうか。


「それじゃあ、お姉さんが案内してあげる。ついてきて」


 そういえば、なんだかユメちゃんの言い回しが変な感じだった気がするけれど、まあ良いか。三人の天使を連れて歩けるのだから、これ以上何を望むというのだろうか。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 カラオケ店に入って一時間。料理は何も頼んでいないし、ドリンクバーも最初にいれた分しか飲んでいないし、何より私は一回も歌っていない――このメンツで私が歌うとかありえない――のだけれど、こんなに楽しいカラオケは初めてかもしれない。

 カラオケって言うのは好きな者同士が集まって、わいわいするものだと思っていたのだけれど、認識を改めなければいけない。


 本当に歌唱力が高いが人が楽しそうに歌っているのを眺めるのを楽しむ場なのだ。

 こう言い切る理由はいくつかある。まず外れがない。どの曲が入っても、クオリティが保証されている。

 それから、友達とのカラオケだからこそ、普段見られない表情が見られる。普段は大人っぽい舞ちゃんが年相応の笑顔を見せてくれるこの場は、私の心のフィルムにだけ残しておこうと思う。


 何より、舞ちゃんとユメちゃんのかみ合い方が異常なのだ。

 ライブではないかと思うほどで、カラオケ代だけでは申し訳ないとすら思う。

 ただ二人の歌声を聞いていて、改めて気がつくこともある。


「やっぱり、二人の歌い方って似てるよね?」


「まあ、似るでしょうね。方向性は真逆かもしれませんが」


 舞ちゃんとユメちゃんが歌っているときに話をするなんて、もったいないことこの上ないのだけれど、どうしても気になったので桜ちゃんにこっそり尋ねてみた。

 その返答が理解できなかったので「どう言う事かな?」と続ける。


 しかしタイミングの悪いことに二人の歌が終わってしまったらしく、ユメさんが桜ちゃんに「何話しているの?」と尋ねた。


「舞さんとユメ先輩の歌い方が似ているなって話です」


「舞ちゃんとわたしが似ていると言うよりも、舞ちゃんとわたしがそれぞれ初代ドリムに似てるんですよ」


 桜ちゃんの言葉を聞いて頷いたユメちゃんが、私に話しかけてくれる。

 舞ちゃんは初代君を目指していて、名前を受け継いだのだからわかるけれど、ユメちゃんもそういった類なのだろうか。

 でも、さっきの桜ちゃんの言葉的には、違うような気もする。


「わたしは模倣ですけど、ユメちゃんは違いますからね」


「オリジナルって言い方をしてもいいのかはわかりませんけど。

 ごめんなさい上手く説明できなくて」


「ううん。こちらこそごめんね変なことを訊いて」


 二人の話を聞いていてふと「ユメさんは初代ドリムを完成させたものだ」と言った話を思い出したし、二人の話に違和感もあるのだけれど、謝るユメさんをこれ以上困らせる道理は私にはない。

 話せないと言うのであれば、話してくれるまで待ち続けようではないか。

 でも、あわよくば良い思いもしたい。


「舞ちゃんおいで」


 両手を広げて舞ちゃんを呼ぶ。きっと聡い舞ちゃんならば、これが私の代償行動であることを察してくれるだろう。

 舞ちゃんはやれやれと言わんばかりに首を振るけれど、近寄ってきて私の腕に収まった。

 相変わらず抱き心地が最高で、このまま抱き枕にして寝てしまいたいとすら思う。


 しかし今日のメインはこの次。名残惜しい中舞ちゃんを離して、今度はユメちゃんの方をみた。


「ユメちゃん」


 先ほどと同じように両手を広げて待っていたのだけれど、収まったのはユメちゃんではなく、桜ちゃんだった。


「翠さんには悪いですけど、桜で我慢しておいてください」


「我慢でも何でもないんだけど、もしかしてユメちゃんってこう言う事恥ずかしい感じの人だった?」


「ちょっと違いますね。むしろ飢えているとは思いますよ」


「飢えてはないよ。でも、なんて言うか、翠さんのためなんです」


 煮え切らないこの感じは、いったいどう言う事なのだろうか。

 私の為と言われても、私はユメちゃんとハグすることに何のデメリットもないのだけれど。

 もしかして、きれいなバラには刺があるを地で行っているのだろうか、なんて益体のないことを考えていたら、舞ちゃんがユメちゃんに耳打ちをしていた。


 首を傾げたユメちゃんが、頷いたのを確認してから、舞ちゃんがユメちゃんに抱きつく。


「舞ちゃん!?」


「どうしたのユメちゃん」


「わたしに抱きつくことがどう言う事か、知らないわけじゃないよね?」


「わかってるよ。だからわたしは気にしないの。

 でも翠さんは、せめて話を聞き終わるまで駄目ですよ?」


 ユメちゃんに抱きついても怪我をしないようだし、二人がいちゃいちゃしている間にこっそり近づいて行ったのだけれど、どうやらバレていたらしい。

 いたずらっ子のような笑顔を舞ちゃんが見せる。

 私に悔しがってほしいのかもしれないが、普段見られない表情が見られて私の中には幸福しかない。


「そっかあ。じゃあ、お話聞かせてくれるかな?」


 舞ちゃんをたてるべく、残念そうに応えると、ユメさんが迷ったように視線を動かす。

 こういう人を見たことあると思っていたのだけれど、あれだ。とんでもない秘密があって、なかなか素性を明かせないキャラだ。

 だとしたらユメちゃんは某国のお姫様なのかもしれない。


「えっと、翠さんは双子には不思議な繋がりがある、って言ったら信じてくれますか?」


「ニュースやバラエティでは見たことあるかも。遠く離れているはずの双子の兄弟が、同時に同じ病気になったとか、片方が怪我をしたらもう片方の同じ部分が赤く晴れたとか」


 これらを眉唾だと切り捨てたことはないが、真面目に考えたこともない。しかしここまで来ると、言いたいこともわかってくる。


「ユメちゃんは双子だったって事?」


「まずはその認識でお願いします」


 つまり違うのか。だが、それに近しい何かだと言う事ではあるのだろう。何なのかは全くわからないけれど。


「簡単に話すと、わたしに抱きつくと、その感覚が別の人にも伝わっちゃうんです。

 抱きつくだけじゃないですね。全ての感覚が伝わると思ってください。信じられないかもしれませんけど」


「その相手は男の子?」


「そうですね。だから、伝えておかないと翠さんに悪いと思ったんです」


 にわかに信じ難い話ではあるけれど、ユメちゃんがこんな嘘をつくとは思えない。仮にこれが嘘だった場合、私はユメちゃんにどうしようもなく嫌われていることになる。

 それは嫌だ。だから信じる。


 では、ユメちゃんと感覚がつながっている相手は誰になるのか。

 こちらは思い当たる節がすぐに出てきた。何せ舞ちゃんが抱きつくことを厭わない男の子になるわけだから。

 この仮説が正しければ、今日生まれた謎が大きく解決に向かう。


 が、この思考は全て投げ捨ててしまおう。きっと私は何も知らない方がユメちゃんに都合が良いから。


「恩もある翠さんにちゃんと話せないのは申し訳ないのですが、全部話すだけの勇気がなくてごめんなさい。いつかきっと、全てを話すのでそのときまで待っていてください」


「うんうん、わかったから。さあ、おいで」


 改めて両手を広げてユメさんを誘う。ユメさんは困惑しているようだけれど、こんな可愛い子を抱きしめられるのであれば、感覚が伝わろうが一向にかまわない。

 それにきっと感覚が伝わる相手はあの子だから、ちょっとくらい役得させてあげてもいいだろう。役得になるかはわからないけれど。


 私が「さあ、さあ」と迫った為か観念したようにユメさんが私の腕に収まった。

 舞ちゃんよりもちょっぴり小さく、儚げな感じがして、暖かい。


「ユメ先輩の抱き心地はいかがですか?」


「守ってあげたい感じがするよね。でも私は舞ちゃん派かな。

 壊れちゃいそうな感じがして、思いっ切り抱きつけないもん」


 目を閉じてユメちゃんを堪能しているところに桜ちゃんから質問がきたので、正直に答える。

 でもそっと背中に添えられたユメちゃんの両手は、とてもいじらしい。

 甲乙つけるべきではないのだろうけれど、私はあくまでもドリム派なのだ。


 ととのんならば、ユメちゃんの方が良いと言うだろう。ととのんはななゆめ派だから。でも、私はななゆめも好きだし、ととのんはドリムも好き。そんなものだ。


 何にしても今日という日は、最高の一日だった。これに尽きる。

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