109-if. 隠し事をし過ぎると怪しまれるのは当然のことですよね。
陽太(性転換中、ソルルと名乗ってる)たちが人為に体験させてもらったアロマの話をしていると何かに気付いたロティア。
しかし、どうやら確信が持てないようでそれが何かを教えてくれない。
陽太はどうする?
いつものことだ、今回も見逃そう
>我慢の限界だ、無理矢理吐かせてやる
「なあ、結局なんだったんだ?」
「今のあなたたちに言っても信じないでしょうし、信じたところで余計な混乱を招くだけだから言わないでおくわ。認めたくないけど私の思い違いの可能性も残ってるし」
……またか。
こいつはいつもそうだ、何でもかんでも隠しやがって。
俺たちには、それどころか長年一緒に過ごしたはずのヴラーデにさえ何も教えない。
「そうか。もう……うんざりだ」
「……ソルル?」
「ヴラーデ、五秒で良い、押さえてくれ」
「分かったわ」
それだけで察してくれたヴラーデがロティアを押し倒して手足を押さえる。
「んにゃっ、ちょっとヴラーデ!? いきなり何――」
「サンキュ。もういいぞ」
「あっ、手足が……!」
ヴラーデが押さえている間に【空間魔法】でロティアの手首と足首の周辺を固定してやった。
普段であれば先に逃げられてしまうか、固定する空間に割り込まれてキャンセルされるので意外と使い道が少ない……って今は良いか。
ロティアは僅かに動く手足で床を叩くなど抵抗をしているが、その体勢じゃロクに力も入らないだろうし床を壊されたりはしないだろう。
「小夜」
「どうぞ」
「サンキュ」
相変わらず小夜は何も言わなくても俺の求めるものを渡してくれる。
「ソルル、あんた……!」
「もうお前の秘密主義には付き合ってられん。折角だ、全て話してもらおうか」
受け取ったものを見てロティアが俺のことを睨むが、自業自得だと冷たい目を返す。
溶かせば他人に命令を聞かせられる魔力を生み出す飴を持った手を口に運ぼうとし……不意に手首を掴まれた。
「……離せよ」
「それは、ダメだ。それが何かはよく分からないけど、やってはいけないことだけは分かる……!」
「うるせえな、そいつらが何するか分からねえぞ」
「えっ?」
「ソルルさんに何するんですか」
「悪いけど、加減はしないわよ」
「くっ……!」
心が見えるだけでなく、心に影響を及ぼす【精神魔法】やその魔導具の色も見える善一のことだ、この飴を知らなくても止めに来るとは思っていた。
むしろ、どうして今まで邪魔してこなかったのか……いやヴラーデがロティアを押さえて俺が【空間魔法】を使っただけだ、突然の事に感じたなら入る隙もないか。
そんな善一の頭には、小夜の銃とヴラーデの杖が当てられている。善一も【闇魔法】で戦えはするが、この至近距離じゃどうにもならないだろう。
それを理解したのか、大人しく俺の手を自由にするが、邪魔を諦めたわけではないらしい。
「多分、支配する類のものだろう!? そんなもの使って良いと思っているのか!?」
「……はぁ、こいつは黙り通したい、俺たちはそれを喋らせたい。そこに良いも悪いもねえことぐらい分かれよ」
「だからって――」
もうそれ以上は聞かないと言わんばかりに飴を口に放り込む。砂糖のように甘い。
抵抗を諦めたのかただ俺を睨むだけのロティアに近付き、その耳に飴を溶かした息を吹き込む。
一度体を震わせたロティアの顔から表情が抜け落ちる。もし自分だけ対策してたら、なんてのは杞憂だったようだ。
「もう俺たちに隠し事はするな。……ああ、折角だ、俺たちに逆らうな、というのも追加しておこうか」
「いくらなんでもそれは――」
「黙ってください」
善一が反応したことで小夜が引き金を引いた。ちゃんと威力は加減していたようで気絶するに留まった。
そういえばヨルトスは男子部屋から動かないな。少しでも変な動きを見せたらこっちに転移させようと思っていたのだが……まあ邪魔が増えないなら良いか。
「……分かったわ。もう何も隠さないし、あなたたちの言う事も聞くわ」
命令が入ったのを確認して数秒、ロティアの意識が覚醒した。
「……今の気分はどうだ」
「最悪」
「本当は?」
「今まで積み上げてきたものが今から崩されると思うと怖くて堪らない……チッ」
普段なら素で怖いなんて言わないであろうことから飴がちゃんと効いてると判断し、色々と尋ねることにした。
まずは今回の発端である、人為さんへの疑念を聞いたが……あの人がそんなことするはずない、というのが俺たちの正直な感想だった。
続いてヴラーテたちの素性。本人でさえ知らなかった情報の連続に驚きが隠せなかった。
というかこれは勇者パーティ全員に共有すべきだったんじゃないのか? 後で人為さんかニルルさんに相談しとくか。
それからも、今まで気になってたことなども含めて聞いた後、一つの命令を与えることにした。
「じゃあ最後だ、もう普段から人為さんを疑うな」
「え!? い、嫌……それだけはやめて……」
余程の拒絶からか素直に受け入れる様子がないが、最早普段のロティアはどこにもおらず、怯えて涙を流している。
その様子に少し心を痛めながらも追い打ちを仕掛ける。
「何言ってんだ、今回のこともお前のその態度が原因じゃねえか」
「や、やめて……お願いだから……私だけは、私だけは疑い続けるって誓ったのに……」
「……誓った?」
逆らえないはずの命令に抗うくらいだ、その想いは余程強いのだろう。
ロティアは過去にあった事件を話してくれて、そこからその誓いはヴラーデのためだということが分かった。
流石にそこまで言われて強要するほど鬼でもない、仕方なく見逃すことにする。
「分かった。そこまで言うなら無理にとは言わない。ただ、何でもかんでも隠すのはやめてくれ」
「そのくらいなら良いから、お願い……!」
「仕方ねえな。じゃあもうこの話は終わりにしよう」
「うん、ありがと……」
さて、この後どうしようか。
―――――
ふと、善一は男子が寝泊まりしている部屋で目が覚めた。
「あれ、どうして……?」
「……ソルルが運んできた」
「ヨルトス……そうだ、ロティア!」
善一が気を失う前のことを思い出すと、ヨルトスに掴みかかった。
「どうして助けに来なかった! 言われてただろう!? 『何かあったら頼む』って!」
「……俺は気配を消して近付くのは得意だが、向こうには絶対的な探知がある。……助けに行く前に先手を打たれて終わりだ」
「だったら助けに行かなくても良いっていうのか!」
「……待機の合図も受けた、俺が行く理由はない。……それに、わざわざ行かなくても全て聞いていた」
「何だって?」
善一に教える気はないが、ヨルトスは【土魔法】を建物に忍び込ませ、僅かな振動を全て自身に伝えさせていた。
ロティアはそれを利用して、抵抗するふりで床を特定のリズムと強さで叩いてヨルトスに指示を出した。
当然会話も全て筒抜けでソルル、もとい陽太たちへの怒りが生まれる一方で自業自得だという諦観もあった。全てを隠してきたのは自分たちなのだから。
「……飴の効果が残っていてもニルルに頼めば回復してくれるだろう。……だから今日は何もなかった、それでいい」
「嘘偽りの色はなし……君たちもどうかしてる。ヴラーデのためなのは見えたからさっきは黙ってたけど、仲間の疑念を生んでまでして隠さなきゃいけないものなのかい?」
言葉は丁寧に、しかし明確な怒気を込めて尋ねるがヨルトスは答えない。
「僕は今回の件を見逃すつもりはないよ。ちゃんと全員に共有させてもらう」
「……好きにしろ」
翌日、善一が今回のことを話したことでどうなったか……それはこの未来を進む者のみぞ知る。
というわけで、109話で陽太君改めソルルがブチ切れてたら、というお話でした。
最初はこのルートだったんですが、ロティアにここで真実をバラされるわけにはいかないのにどうやっても詰んでました。
ヨルトスが助けに入っても同じです。戦おうにもロティアを連れて逃げようにも、そのために動こうとしたところで陽太君が転移させて捕まえてしまうので。
どうしようもなくなってしまったので仕方なく陽太君には我慢してもらいました。