ロティアサンタからのプレゼント?
この話を読む前に本編の五章までお読みください。
「メリークリスマス!」
唐突にミニスカのサンタ服で現れたロティアにその場にいた陽太・小夜・ヴラーデの動きが止まる。
「……そんなに見ないでよ恥ずかしい」
わざとらしく身を捩じらせるロティアに三人が冷めた目を向ける。
「え~っと、色々突っ込みたいところではあるが……とりあえず、クリスマスはこの世界にない」
「ここは番外編だからそんなの関係ないわ。私がやりたいからやるのよ。PP○Pだろうと恋ダ○スだろうとやりたい時はやるわ」
「時事ネタやめろ。というかお前は知らないはずのものだぞ。……で、何しに来た?」
陽太たちとしては嫌な予感しかしないが、ロティアはそれに気付きながらも全く気にせず続ける。
「クリスマスだからあなたたちにプレゼントよ。でもその前にこれに着替えてちょうだい」
担いできた大きな白い袋から三人用の衣装を取り出す。ここはギャグ時空が働いているので着替えなんて一瞬です。
小夜とヴラーデにはロティアが着てるものと同じミニスカサンタ。
「おい、なんで俺だけこんなのなんだ」
陽太にはトナカイ。フードは外してるし、付け鼻は断られました。
ついでにスマホは没収、キュエレはサンタ服に夢中になっている。
「男一人がトナカイになるのって定番だと思わない?」
「知らねえよ。そもそもヨルトスはどうした」
「最近阻止されることが多いから眠らせてきたわ」
「悪戯するって言ってるようなもんじゃねえか」
悪戯といえばハロウィンの存在を忘れてました。気が向いたらやります。
「おい作者。……まあいい、何かされる前に逃げるぞ!」
「逃がすと思う?」
「何を言って――」
「ヨータ! 窓が開かない!」
当然ロティアは先に逃げ道を塞ぐのを忘れていなかった。
陽太の【繋がる魂】の転移も対策してあり、唯一のドアはロティアの真後ろ。
「こっちも、です。割れる、気配も、ありません」
「……えっとサヤ、ここ一応私たちの家だから、ナチュラルに窓割ろうとされると困るんだけど」
「あ、ごめんなさい」
逃げるためとはいえ躊躇なく銃で窓を攻撃していた小夜に、ヴラーデも冷静になって注意する。
「さて、そろそろね」
ロティアがそう呟いた瞬間、三人の体に異変が起こる。
「何、これ? 重い……」
「というか、固まってる……?」
「何しやがった……!」
「その服ね、体温で温まるとどんどん固まっていくっていうシンプルな効果の服よ」
当然ロティアが着てるのは普通のコスであるが、そのせいで三人は似たような服を警戒していなかった。
因みに小夜とヴラーデはミニスカでも何故か足まで動かない都合の良い仕様だ。
「というわけで、お楽しみのプレゼントターイム! ……の前に」
再び白い袋に両手を入れて取り出したのは……
「んーっ!!」
「何でこいつらが!?」
転生者エルフのハルカと王族のジョットだった。例によってサンタコスで、口と手足が縛られている。
「どっから拉致ってきたんだ!?」
怒りというより驚きを濃くした疑問を問い掛ける。
「番外編だから時系列も距離も関係ないわ。何か5章の要素入れたかったから連れてきたの」
「予想以上に酷い理由! というか投稿日時の時点じゃ87話だからハルカって誰だか分かんねえだろ! 89話に出てくる奴だぞ!」
「そして更に……じゃーん!」
「無視すんな!」
「それって……!」
陽太の指摘を無視して、次にロティアが取り出したものにヴラーデが最初に反応した。
「バレンタインの時にもお世話になった変化銃よ!」
ネタに困った時のお助けアイテムです、はい。改良されて精神的ダメージが少なくなったらしいです。
「というわけで、ジョットはレンガになりなさい!」
銃から放たれた光線に当たったジョットの体の形が変わり、四角くなっていく。
やがて完全に直方体になるとその体に切れ込みが走り、バラバラに崩れて複数のレンガになった。
元の姿の面影を残したままのレンガを見て、陽太たちの表情が恐怖に染まる。
特に初の変化体験となるハルカは狂乱して籠った叫びをあげている。
「組み立てるのは自力か、仕方ないわね」
レンガは丁寧に間を詰めて組み立てられて植木鉢になり、土が入れられる。
植木鉢の表面にはジョットの面影。体のどの部分か分かるものもあれば全く分からないものもある。
当の本人はバラバラにされて組み立てられる奇妙な感覚に混乱しているが、そこから声が漏れることはない。今回は意思疎通用のスピーカーがないからだ。
「さて次はハルカちゃんね」
「っ! ん~~っ!!」
もはやエルフとしての美少女顔を完全に崩して泣き叫ぼうとしているが、やはり口を押さえられては声量も出ない。
更に植木鉢の土の上に乗せられて恐怖が加速する。
「ハルカちゃんはクリスマスツリーよ!」
為す術がないハルカにも無慈悲に光線が当たり、その体を真っ直ぐ立たせると変化が始まる。
頭は少し小さくなりながら形を変え、上半身からは葉が生えて体が硬くなる。
出来上がったクリスマスツリー、服にも見える大量の葉には元サンタ服と思われる飾りが付いており、土に近い部分の幹は両足であったことが分かる。
頂点の星はハルカの頭で、エルフの長い耳もその一部になっている。中央の顔は動けないのがもどかしそうだが、銃の効果でさっきよりは落ち着いている。
「よし、これで部屋の飾りつけはオッケーね」
「どこが!?」
部屋にはクリスマスツリーしか増えていないために陽太が思わずツッコむ。
「ヨータには……これをプレゼント!」
「耳と、尻尾?」
ロティアが陽太のために取り出したのは猫耳カチューシャと猫の尻尾付きベルトが二セット。
それを小夜とヴラーデに着けると、それぞれの髪の色に染まってカチューシャやベルトの部分が透ける。
着けられた二人の表情がとろんとするのを見て、陽太は嫌な予感がした。
「さあ、二人を思いっきり……あ、その前に服冷やさないとね」
全く動く様子を見せない陽太たちを見て思い出したようにロティアが【氷魔法】で三人の服――ただし陽太は上半身のみ――を冷やす。
「改めて……さあ、甘えてくる二人を存分に弄びなさい!」
その言葉をきっかけに小夜とヴラーデが足を動かせない陽太に飛びついて甘え始める。
「ちょっ……お前ら、しっかりしろ!」
「ニャー?」
「ニャ~♪」
「無駄よ、今回は【精神魔法】の部分の効力を上げてもらったから猫として甘えることしか頭にないはずだわ」
正気を失っている二人に説得など通じず、逆に猫耳に心を奪われそうになる。
「更に甘えた相手に対して魅了効果も発動するから……撫で回したくて堪らなくなってきたんじゃない?」
その言葉通り、陽太の心には猫耳に対する欲望が湧き出ておりロティアの言葉も半分聞こえていないが、丁度『魅了』の部分だけ聞こえたが故に必死に堪える。
「ふふっ♪ 我慢しなくてもいいのよ?」
ロティアの囁きにも必死で耐えるが、いつまでも続くはずもなく……
「「ニャー?」」
二人の上目遣いがとどめとなって陽太の理性は崩壊した。
「う~ん、意外とつまらないし、次行こうかしら」
陽太はまず二人の頭を撫で、しばらく経つと尻尾も触り始めた。
陽太はもちろん、されるがままの二人も幸せそうな表情を浮かべていたのだが、見るだけのロティアにとっては退屈だし面白くもなかった。
因みに変化させられたまま放置の二人は色々と諦めて傍観に徹することにした。
三人が動けるように発動し続けていた魔法を消し、動きづらくなっていくことにすら気付かない小夜とヴラーデの猫耳と尻尾を外す。
「……?」
「……あれ?」
「……ん?」
三人はすぐに我を取り戻すが、当然記憶がなくなるわけではない。
戻った思考力で数分間のことを思い返すと揃って顔が赤くなり、小夜が恥ずかしそうに、ヴラーデが睨むように陽太を見る。
「ま、待て、一旦落ち着――ぐはぁ!」
ダブルアッパーが炸裂。陽太は空に輝く星に……ここ室内でした。
それを最後に服が再度固まり、陽太は吹き飛ばされたポーズで天井にぶつかった後床に倒れ、小夜たちはアッパーの姿勢で固定された。
「じゃあ次、サヤちゃんとヴラーデへのプレゼントね」
その光景を何もなかったように流すロティアの言葉に、まだ終わりじゃないのかとげんなりする。
「ヨータにはケーキになってもらうわ」
「……は?」
驚いている間に光線が発射され、動けないままの陽太に当たる。
今回は変化の仕方によるのか陽太の体が光り輝き、完全にシルエットのみになると少し浮いて形を変え始める。
浮いている間にロティアが皿をその下に置くと、ほぼ円柱状になった陽太が乗っかって光が弱まっていく。
「……うん、立派なケーキになったわね」
皿の上にはケーキと化した陽太の姿。
髪は黒いチョコレートクリーム。均された白いクリームの上にチョコペンで描かれた表情は戸惑っていて時折動いているが声は出ないようだ。
トナカイの格好をしていたからか、側面は茶色いチョコレートクリームで彩られている。手足など体の各部分の面影は一切ない。
「はい、というわけで二人へのプレゼントはヨータケーキよ」
「ロールケーキみたいに言うんじゃないわよ。そもそもヨータを食べるわけないでしょ!?」
以前チョコ像にされた際、髪を食べられはしたが体には一切触れられなかったことを思い出しながら言うと、陽太の表情が感動に変わる。
「でも、サヤちゃんはそうでもないみたいよ?」
「え?」
「陽太さんのケーキ……おいしそう……」
「サヤ!?」
しかし小夜はカニバリズムも許容できるのか、よだれを啜りながら呟く。
これにはヴラーデも陽太も驚きを隠せない。ロティアも予想通りすぎてちょっと引いている。
「じゃあ、サヤちゃんからね」
ロティアが再び【氷魔法】で小夜の服を冷やして動けるようにすると、ナイフとフォークを渡す。
「陽太さん、失礼しますね?」
小夜が躊躇いなくナイフをケーキの端に当てる。
いつの間にか増えているチョコの縦線は顔が青褪めているのを表現しているのだろうか。
恐らく必死に救済を訴えていたであろう陽太を無視し、顔を縦に半分に割るようにナイフを入れる。
「中は普通のスポンジケーキ……ホッとしたような残念なような……」
小夜の独り言の通り、断面は別に内臓と分かるようなものがあるわけでもなく、チョコクリームを挟んだ何層かのスポンジケーキだった。
因みに何が残念だったのかは誰も聞かないことにした。
「それでは、いただきます」
今度はフォークで一口大に切って口に運ぶと、小夜の目が見開かれる。
「おいしい……!」
饒舌ではない小夜はそれ以上の感想を述べることもなく黙々と食べ続け、あっという間に半分を食べ終わってしまった。
一方陽太はナイフが通され始めた頃には全てを諦めており、視界の片方が小夜の体内を映し出したくらいで思考を放棄した。そのため残った半分の表情は虚ろなものになっている。
「陽太さんが私の中に……しあわせぇ……!!」
逆にとろけそうなほど恍惚とする小夜だったが、ふと思い出したように皿を持ち上げると、
「さあ、ヴラーデさんもどうぞ!」
「え、ええ?」
いつになくテンションが高い小夜にヴラーデはついていけない。
「あ、ヴラーデさんは動けないんでしたね」
ヴラーデの様子など全く気にすることなく、先程と同じくフォークで一口大に切る。
「はい、あーん」
「え? あ~ん?」
「えい」
「むぐ」
訳が分からないまま開けたヴラーデの口に、身長差が理由で背伸びした小夜がケーキを突っ込む。
「どうですか?」
(これ用意したの私なんだけど……)
ロティアの心の訴えが届くわけもなく、小夜は自分が作ったかのように尋ねる。
「……人肌を思わせるスポンジの柔らかさ、走馬灯を凝縮したかのようなクリームのハーモニー、フルーツがないシンプルさが逆に味を高めてる……私の負けね。この味は私には出せないわ」
(いつから勝負になったの?)
「それだけではありませんよ」
「え? ……はっ、これは!」
「ふふ、気付きましたか」
「人を食べてしまった背徳感とヨータが私の中に居るという幸福感が同時に……!?」
「そうでしょう? 後味バッチリです」
「くっ、これはもう……食べる手が止まらないじゃない!」
「……お~い、帰ってこ~い」
予想以上の反応にロティアが素で呼び掛けるが、二人は完全に別世界に旅立ってしまったようだ。
動けないはずのヴラーデがいつの間にかその手を動かしているあたり、人の欲望とは恐ろしいものである。
「ごちそうさまでした」
「……もっと食べたいですね」
「えっと、そろそろヨータを戻したいんだけど?」
「「え?」」
素でとぼける二人に呆れながら銃のスイッチを押すと二人の体が光が溢れ、一箇所に集まると人の形を成していく。
元の姿の陽太が現れたが、その表情は虚ろ。二人に食べられたショックで全てを投げ出した者の顔だった。
「あ~あ、これは一晩しないと帰ってこないわね~。一応精神ダメージも抑えてたらしいけど、限度があると思わない?」
そこでようやく陽太にしたことを理解した二人の顔が青褪める。
(『ヨータが美味しくなったのが悪い!』なんて言わないだけマジね)
二人はお互いに見つめ合ったり、陽太やロティアの方を見たりを繰り返している。
「……はぁ、テンション下がっちゃった。今年はこのくらいにしといてあげるわ。二人はヨータに対するお詫びでも考えることね」
最後にそう言い残し、ロティアは部屋を出ていった。
翌日、綺麗に記憶が飛んでいた陽太が異様に優しく接してくる二人を不思議に思ったのは別の話。
(あれ、オレたちは!?)
(ちょっと! オチ担当なんて聞いてないわよ!?)
おしまい。
((元に戻してぇ~!!))