キュエレのボツ能力
この話を読む前に本編の三章までお読みください。
「というわけで新機能を追加したんですよ」
「いきなり現れて何言ってんですかルオさん」
陽太の認識では家を訪ねられてからの第一声がそれなので『というわけで』と言われても分かるわけがない。
「大丈夫です、既にキュエレさんには伝えてありますので」
「え、マジで?」
『うん、もうやり方も分かるよ!』
「いつの間に……」
「では説明しますので、サヤさんも呼んできてください」
そうして小夜が疑問を感じながら陽太と一緒に部屋に入ってくる。
「えっと……何を、するんですか?」
「さあ」
「ではまず、スマホの画面をサヤさんに向けて近付けてください」
キュエレが小夜の胸元に向けられる。
「ではキュエレさんお願いします」
『うん。えいっ!』
その声と共に、スマホから半透明の腕が生え、小夜に刺さった。
「うっ!」
「なっ!?」
その腕が小夜から何かを抜き取りスマホの中に戻ると、小夜の体が前に力なく倒れそうになり、陽太が受け止める。
「おい! 小夜! しっかりしろ!!」
外傷こそないが陽太が懸命に声を掛けても反応は全くない。
「落ち着いてください」
「……っ!」
「サヤさんなら――」
『う~ん……』
ルオの言葉を遮ってスマホから声が漏れる。
「え? さ、小夜?」
その声は、確かに小夜のものだった。
『あれ? え? え!?』
スマホの画面の中で小夜がキュエレや周りを見て混乱している。
「え? なんで!?」
陽太も自分が受け止めた小夜の体とスマホを交互に見て混乱している。
「結論から言いますと、サヤさんの魂がそのスマホの中に入ったんです」
『「え~~!?」』
ルオの言葉に同時に驚く陽太と小夜。
「な、え、そんなことが……」
ルオのいつも通り長い説明を簡略すると、キュエレの魂に触れる能力とスマホの改造により近くに居る者から魂を抜き取りスマホの中に入れてしまうことができるというものだった。
本来魂だけになれば意識はなくなってしまうのもどうにか解決できたものの、容量の関係で一人が限界らしい。
「更に、抜け殻は魂が入っていないので【空間魔法】の対象にすることができます」
「え!? ……ホントだ、ポーチに入った」
『あの、陽太さんだから、いいんですけど、躊躇いなく、人の体を、しまうのは、どうかと……』
何の気なく小夜の体をポーチに入れて出した陽太だが、実はピアスの精神干渉が働いた結果だったりする。
「……あれ、てことは第3章で魂を盗られたロティアの体もしまうことができたり?」
「そうなりますね」
「その発想はなかった……」
あの時は落ち着く余裕がなかったため、普段はできないことに意識を向けることができなかっただけである。
「でも、これ使い道は?」
「そう、そこなんですよね……」
ふと陽太が尋ねるが、ルオは溜め息をついて答える。
『え? 何か危険が、あった時に、陽太さんが、一人になった方が、逃げやすいんじゃ、ないですか?』
実際にそうなった場合陽太を一人にさせるなんて認めないだろうとは思いつつも口に出す。
「一人しか入らないから他の奴はどうしようもないし、誰かと二人の状況だったら転移した方が早い」
『確かに……』
「2章の結界もインフィさんの技術だからそうそう使われることもないだろうし、3章のキュエレも霊的スポットを作る能力が結界としても機能するだけでそんな敵がうじゃうじゃいるとか考えたくもない」
『そうですね……』
『待って、さっきからわたしの能力番外編で語っちゃっていいの?』
自身の能力について語られていることにキュエレが困惑して待ったをかける。
「いや、ただ単に分かってることをまとめてるだけだぞ?」
「はい、キュエレさんの種族スキル【心霊現象】について分かってることをおさらいしてるだけですね」
『スキル名まで出しちゃった! 絶対今考えたでしょ!!』
そんなことありませんよ?
「このスキルですが、物理無効、認識阻害などが常に発動しています」
「そういえば最初は姿も見えなかったな」
「他人の魂に触れる能力、抜け殻に憑依する能力、自己再生能力も含まれています」
『もういい……知らない……』
画面の角で体育座りをして泣いているキュエレを小夜が慰めている。
「ヴラーデの魔法を使ってたのは?」
「スキルについて完全に解明されてるわけではないですが、大体のスキルは魂と体の両方に宿っていて、ユニークスキルは魂のみに宿っていると考えられています。なので通常スキルである【火魔法】は憑依状態でも使用できたのではないでしょうか」
「ややこしっ!」
「入れ替わりネタをやらないのはスキル関係の設定をちゃんとするのが面倒だったのでしょう」
「例えば小夜の射撃の実力はこの世界に来る前のものだしな」
「ついでにヨータさんがルナさんからもらったスキルは魂のみに宿っていますね」
「……マジですか」
「私も原因までは分かっていません」
……なんかすいません。
「魂を抜かれた体自体が健康そのものだったのは?」
「恐らくですが、魂を抜かれただけでは脳の機能は止まらず、心臓や肺など無意識に動いているものは正常に機能していたのではないでしょうか」
「つまりお腹が空いたり、トイレにも行きたくなると?」
「かもしれないですね。そのあたりは面倒を見ていたギルドの職員の方が詳しそうですが」
こういう設定はちゃんと組まないと苦労しますよ(現在進行形)。
「話を戻して、キュエレさんは更にフィールドを指定することで自身を強化し、その中でポルターガイストを起こせるようになります」
「色々飛んできたり、床や壁に穴を開けたりしてたな」
「他の人に作用できないのは【空間魔法】と一緒ですね」
「あ、やっぱりそうなんですね」
「可能だったら体を操ってキュエレさんの元に移動させ、魂を抜いておしまいですからね」
「それがなくてもとんでもない能力ですよね……よく勝てたな俺たち」
「一応視覚化しなくても魔法は当たるので、フィールドごと魔法で殲滅すれば倒せます。フィールドも強化されてはいますが無敵ではないので」
「そんなことしたら捕らわれた魂も殲滅されますけどね」
「ヨータさんたちが負けていたらあり得た話です」
「えっ」
「あの時点での情報は拠点を持つ見えない敵に魂を抜かれるところまでですから、捕らわれた数十の魂と正体不明の敵による未来の被害の阻止、どちらを取るかは明らかでしょう。あとは死刑囚などから囮を出してその魂が抜かれるであろう瞬間に複数の高レベル魔法をぶつけて拠点ごと倒すだけですね」
「怖え……異世界怖え……」
「ヨータさんみたいに視覚化する案も出たでしょうが、相手の力も不明なので殲滅した方が早いと判断されるでしょうね」
「ホント勝てて良かった……」
陽太が魂を殲滅されてたかもしれない恐怖から体を震わせてしまう。
「あ、そろそろサヤさんを出してあげないとですね」
「完全に忘れてた……キュエレ、小夜を出してやってくれ」
『……つーん』
「……拗ねてらっしゃる」
拗ねた表情を見せながらも小夜を画面に押し付けると、小夜の魂は炎のような形状になって出てきて体に入っていった。
「結局キュエレの能力解説回になったな」
「どういう話、でしたっけ?」
「他人の魂をスマホに入れる能力は使い道がないからボツになった、というお話です」
『最後までひどい!!』
しばらくキュエレは不機嫌のままだったとかなんとか。