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ヴラーデたちのバレンタインデー

この話を読む前に本編の一章までお読みください。

 バレンタインデー前日。どこかの薄暗い部屋で怪しい取引が行われていた。


「この度はテストご協力ありがとうございます。こちらが試作品になります」

「はい、ありがとうございます」


 と感謝を述べると共に青い髪の女性が女の子――否、ドワーフの女性からブツを受け取る。

 一通りの説明の後、最後に注意事項を述べる。


「こちら試作品ですので、動物や人には使用しないでくださいね? 大丈夫だとは思いますが万が一がありますので」

「はい、わかりました」


 そう返事した彼女の顔は……嬉しさ半分、これからを妄想したニヤケが半分で、本当に話を聞いていたのか少し怪しい。


「うふふふふ……」

「それでは……きゃっ」


 やがて笑い声を漏らし始めた女性に引きつつも挨拶をするとその場を後にしようとして何かに躓き転ぶが、その女性は気付いた様子もない。

 ドワーフの女性が今度こそ立ち去り残ったのは不気味に笑う女性ただ一人。しばらく妄想の世界に入って笑い続けていたとか。






 バレンタインデーの朝。


「これがロティアで、それがヨルトス。あれが……」


 と幼馴染やお世話になった人へ渡すチョコを丁寧に確認しているのはヴラーデ。

 料理の才能に長ける彼女のチョコは全て手作りで、食べたものに極上の幸福感をもたらす。例えそれが融かして固めただけのものでさえ。

 チョコが余ればそれを巡って戦争が起きるとまで言われているほどだ。まあ余らせたことはないが。


「そんでもってこれが……」


 と一つのチョコを見る。作っている時はそんなつもりはなかったはずだが、無意識のなせる業かこのチョコの出来が一番よく、大きさも少し大きい。ということをラッピングも少し気合を入れ始めたところでようやくそのことに気付いた。


「ヨータ、喜んでくれるかしら……?」


 彼が自分のチョコを食べることを思い浮かべるだけで動悸が激しくなる。


「おはよう」

「わひゃぁっ!」

「わっ、何よ……」


 自分の世界に深く入っていたところに声を掛けられて思わず過剰反応を示したヴラーデに驚いた彼女に平静を装って挨拶を返す。


「い、いえ、なんでもないわ。おはよう、ロティア」

「……妄想もほどほどにしときなさいよ?」

「なっ、ちっ、ちがっ……」

「まあいいわ。はいこれ」

「え?」


 図星攻撃にまともな声を出せなくなるヴラーデに何かが手渡される。


「『え?』じゃないでしょ、チョコよチョコ」

「え?」

「……何よ?」

「……大丈夫?」

「……大丈夫よ、市販品だから」


 実はロティア、料理はヴラーデに任せっきりだったために苦手。流石に何でも炭にしたりとか謎の生物を誕生させたりとかはしないが。

 一応本人もそれを自覚しているためイラッとはしつつも簡単に喧嘩は買わない。


「……そういうことなら」


 と包みを開けて一口。


「うん、おいしいわ。ありがとね」

「どういたしまして」


 とここで、もう一人の幼馴染がその姿を見せないことに気付き、


「あれ、ヨルトスは?」

「ヨルトスならヨータを呼びに行ってもらってるわ」

「えっ!?」

「別にいいじゃない、どうせ渡すんでしょ? そ・れ」


 と明らかに気合の入ったチョコを指差して言う。ヴラーデ的には少し差がある程度だったのだがそんなことはなかったようだ。


「なっ……いや、まあ、そうだけど」

「でも、どうせならもっといいものをあげたくない?」

「え? 何を言って――」

「はい、喋らないで、動かないで?」

「!!」


 ヴラーデの体が動かなくなる。声も出し方を忘れてしまったかのように出せなくなってしまった。


(これは……まさか……)


 そんなヴラーデの心中を察したかのようにロティアが話し出す。


「さっきのチョコ、あのジュースを混ぜてあるの」


 そう聞いたヴラーデは、いつだったかロティアがオークションで手に入れたという【精神魔法】の支配系魔法の効果があるジュースを飲んでしまった日を思い出す。詳しくは本編13話で。


(でも、確かに最後の一滴まで使ったはず……)


「番外編ってことで特別にね。そもそも本当はこの世界にバレンタインなんてないし」


 やめてくださいロティアさんぶっちゃけないでください。


「さて、あの魔導具も試さなきゃだし、ヨータもそろそろ来るかもだから手短に行くわよ?」


(くっ……今度は何を……)


「じゃあまず……ついて、来て?」


 そう言って歩き出したロティアに、ヴラーデは体が勝手に動かされてついていくことしかできなかった。






「というわけでここまで来たわけですが」

「……ヨータ?」

「……気にしないでくれ」


 いきなり喋り出したところを真顔で返され恥ずかしくなり、陽太は現実逃避としてここに来た経緯を思い出す。

 今日はバレンタインデーだということで朝起きた時からそわそわしていたのだが、朝食後に早速一つチョコを貰ったので喜びながら食べていたらヨルトスが訪ねてきて、


「……これから大丈夫か?」


 と言われ断る理由もなかったのでついて行った。

 何故か人気のない道を通ったため誰とも会わず、着いたのはヴラーデたちの家だった。


(回想みじけー……)

「……どうした?」

「あぁ、なんでもない。お邪魔しまーす」


 中に入り、リビングのドアを開けると、


「……は?」


 その光景を信じられず、思わずドアを閉める。


「……なんだ、今の?」

「……さあ」


 ヨルトスも何も知らないらしいのでもう一度、今度はちゃんと受け入れようとドアを開ける。

 そこには、ヴラーデによく似た茶色い物体。しかも等身大。

 膝立ちをつま先で支え、ハートを形作った手をこちらに向けて腕を伸ばしている。表情は強気な性格の彼女なら滅多に見られないであろう、優しい微笑み。

 陽太的にはこのまま色を塗ってフィギュアにすれば大売れするのではないかと思えるほどの出来。


(いつの間に像なんて……いや、これは……チョコ?)


 最初はその見た目から像かなにかかと思っていたが、匂いから察するにこれはチョコ。


「凄いな……これ知ってたか?」

「……いや」

「しかし、肝心の女子二名はどこに行ったんだ?」

「……さあ」






「ふふ……驚いてる驚いてる♪」


 その様子をどこかから眺めているのはロティア。近隣の家に絶好のポイントがあるのでそこの住人と仲良くなって時々使わせてもらっている。はっきりリビングの様子が見えて声もちゃんと聞こえる絶妙なポイントなのだ。


「ヨータも来たところで、あれも使ってみましょうか。ポチっとな」


 と何かスピーカーのような魔導具のスイッチを押すと、


『……いて、ヨータ!』


 音声が流れ出す。その声はヴラーデのもの。


『気付いて! お願い!』

「なるほど、自分だと気付いてもらおうと思ってるのね。まあ無理だと思うけど」


 そう言いながら視線を家のリビングに戻す。


「しっかしよく出来てるなーこれ」

『気付いてってば!』


 陽太がじっくりとヴラーデ型チョコを観察している。その様子を見て笑みが深まる。


「だって、まさかこんなところでヴラーデ本人がチョコになってる、なんて思わないでしょ♪」






 時は少し遡る。

 ヴラーデが連れられて来たのはリビング。そのままロティアはドアのところに立ち自分の少し前を指差して、


「まずそこに膝立ちね」


 それを始めとしてヴラーデにポーズをさせて表情も作らせると、先端に球体が付いた筒状の何かを向け、


「チョコ」


 と言うと、その球体から光線が発射され、ヴラーデの膝に当たる。


(何この感覚……)


 光線が当たった膝からじわじわと変な感覚が広がっていくが、視線すら動かせないために何が起きているのかが分からない。


「意外と遅いわね……もう一発、チョコ」


 今度は光線が手に当たる。すると違和感の正体が視界に入る。


(何これ……体が茶色く……?)


 足の変な感覚が手から腕に広がっていくことから足も茶色くなっているのだろう。

 しかしこの茶色いのは一体なんなのか。ロティアが光線を発射する前に言ったことを考えれば答えは明らか。


(でも、そんなことあるわけ……)


「驚いてくれたようね? まあ笑顔のままだから見た目じゃ分からないのだけれど」


 そのまま手に持ったそれを見せびらかして続ける。


「これはね、『変化の遊技場』の特殊な魔力を元に作られた魔導具よ」


 その『変化の遊技場』とは、元々は一つのダンジョン。状態変化の罠がたくさんあるそこは特殊な魔力が充満していて、生命を維持できない姿にされても生きたままでいられるという『特殊型』のものだ。

 先代の勇者がこのダンジョンを制覇した後にテーマパークとして開いたのが『変化の遊技場』である。

 普段体験できない状態変化を扱うそこはこの大陸の三国の国境が集中する場所にあることも加わって一度は行ってみたい人気スポットとなっていて、ヴラーデもいつか行ってみたいと思っている。

 もちろん安全性を考慮し、外に出たり一定時間が経てばどんな状況でも自動で元の姿に戻れるという安心設計。

 因みに大陸随一の魔導具研究員であるルオ・シフスの協力が加わってからは発展速度が加速しているとかなんとか。


 だがここは『変化の遊技場』ではない。なのに何故ヴラーデの体がチョコになっていくのか。


「最近『変化の遊技場』の外でも状態変化できるように開発が進んでるんだって。そしてこれはそのテストというわけ。さっきの光線は『変化の遊技場』の特殊な魔力を改良したものらしいわ」


 それだけ聞けばこの世界に新たな娯楽を提供する素晴らしい企画のような気もするが、そのテストとしてチョコにされる側としては堪ったものではない。


「もちろん『変化の遊技場』と一緒で命に危険はないし、一定時間経てば元に戻れるから安心しなさい」


 話を聞きながらもチョコ化は確実に進んでいる。変な感覚が体の中まで広がっているのでコーティングではなく体そのものがチョコと化しているのだろう。


「む……服の変化がかなり遅い……テストに協力してることになってるしこれは報告しとかないとね」


 服はまだでも体の方は胸に達し息ができなくなるが苦しくはない。特殊な魔力による生命維持と苦痛のシャットアウトのおかげだ。


「さてもうすぐ完成だけど……ヨータたちもそろそろ来るだろうし別の場所でじっくり鑑賞させてもらうわね♪」


 と言ってヴラーデを放置して出ていく。変化した口には甘い味が広がり、甘い匂いもする。


(ヨータが来る……?)


 彼はどんな反応をするのだろうか。自分は食べられてしまうのだろうか。

 いくら戻れるとはいえ食べられて喜ぶ趣味など当然ない彼女は、彼に気付いてもらって少しでも早く戻れるようにしてほしいと願う。

 やがて目もチョコになったことで視界が魔力によるものへと切り替わり、服も含めた全身がチョコと化した。






 そして今。陽太と彼を連れてきたヨルトスが驚いている。ヴラーデが気付いてもらおうと心の叫びをあげている。

 その光景に自分の心が満たされていくのがわかる。


 ヴラーデの声を出しているこの魔導具は光線を発射したものと連動していて、それによって変化したものが声を出せなくなった時の代わりに用いるものだと説明を受けた。

 特殊な魔力に満ちた『変化の遊技場』ではその魔力が声の代わりにもなるが、それに該当する魔導具らしい。


 因みにロティアは何かを企んだ際にヨルトスにも協力してもらうことが多いが、今回は珍しく彼にも何も話していない。陽太を連れてくるよう頼んだだけだ。


「なあ、これって食っていいのかな?」

「……いいんじゃないか?」

『えっ!? 待って!!』

「いや、でも勝手に食べちゃうのもな……」

「……別にいいと思うが」

「うーん……」

『食べないで! お願い!!』


 彼らの会話にヴラーデが焦り、ロティアの興奮が高まるが、彼女の期待に反してなかなか手を出さない。


(ヨータはたまに必要以上に謙虚になるし、ヨルトスはヨータに先に食べてもらおうと気遣ってるっぽいから仕方ないと言えばそうなんだけど……じれったいわね)


 陽太はこういう時に前に出ないというのは半分正解だが、人型のものを食べることに対する忌避感と、いつかのジュースのような大変な目に遭った経験が彼に一歩踏み出せなくしているということにロティアは気付いていない。


 しばらく悩んでいた陽太だったがヴラーデの髪、結んでいる片方の先に手を出すと、


「ちょっとだけならバレないよな?」


 ポキッ。


『っ!』


 小さく折って口に放る。その光景にヨルトスがため息をつく。


「……うまいな」

『ひっ!』


 ヴラーデを見つめる目には明らかにもっと食べたいという欲が見えた。




『うぅ……』


 ヨルトスも陽太に合わせたのか結局二人は髪の部分ばかり食べ、結んでいた箇所はなくなり、長かった髪もセミロングみたいになってしまった。


『もう好きにしてぇ……』


 ヴラーデは気付いてもらうことを諦めたようだ。


「しかしこの大きさはどう頑張っても食べきれないよな……どうすんだこれ」


 当然人間等身大のチョコとなれば量も相当なもの。もう二人とも手を出さなくなっていた。

 チョコから意識を外し始めた二人を見て、ロティアは尚笑う。


(まあ、こうなるだろうとは思ってたわ。これを準備しといてよかったわね)


 そのままどこかに繋がっている紐を手に取り、


「イッツ、ショータイム!」


 思い切り引っ張ると、繋がっている先から連鎖反応を起こしていく。


「っ!?」


 ヒュン!

 スパッ!


 何かが襲ってくるのを察知した二人は咄嗟に避けたが、何かを切断する音が聞こえた。


『え?』


 まず異変を感じたのはヴラーデ。首を何かが通った後、動かないはずの視界が傾く。

 二人は視界にいるので動かされているわけではない。ならば何故。


「おいおい……」


 体勢を戻しその光景を目撃した陽太の声が漏れたと思ったら側頭部に衝撃が走る。


『何……?』


 そして陽太が近付いてくると、また視界が急に動く。今度は持ち上げられたのだろう。


『きゃっ、ちょっと何す……え?』


 視界の向きが戻ると同時、見てしまった。

 それは膝立ちをつま先で支え、ハートを形作った手を前に伸ばしている茶色い人型の物体。ただし、そこに首はない。


『う、うそでしょ……』


 理解してしまったが故に逆に受け入れられない、受け入れたくない光景。


「マジかよ……人型、しかも知り合いの首が落ちる図とかチョコだとしても気分悪いぞ……」


 客観的事実というとどめを刺され、現実を受け入れざるを得なくなる。

 あの瞬間、細い糸のようなものがチョコと化しているヴラーデの首を横から切断し、その勢いのままに落ちたのだ。

 その受け止めきれない事実に心が絶叫をあげる。


『いやあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!』


 その瞬間、ヴラーデの体と頭が光る。


「うぉっ!」


 チョコだと思っていたものが急に発光したことに驚き、つい手を離してしまう。

 しかしその頭は落ちることなく浮かび、体の方に近付くと光が融合する。

 しかし異常はそこで終わらない。


「えっ!?」


 陽太の体からも小さい光の球が漏れ出ては大きい光に吸い込まれていく。

 やがてその光が弱くなっていくとそこにいたのは、


「……え? ヴラーデ?」


 床に座り込んで呆然と涙を流しているヴラーデだった。首は繋がっていて、髪も元通りだ。


「……え?」


 陽太のその反応に首を傾げるヴラーデ。直前のショックが大きかったのか、思考が追い付かないようだ。


「あれ? え?」


 だが、やがて自分が声を出し、自由に動け、首を触って繋がっていることを確認すると、


「うわっ!」

「うああああぁぁぁあぁぁ!!」


 陽太に抱き付き大きな声で泣き出した。

 陽太としては、謝ったりこの状況について話したかったりしたかったが、とりあえずは何も話さずヴラーデが落ち着くまで頭を撫でることにした。




(うーん、ちょっと予想外だけど結果オーライかしら)


 まさかあそこまで泣くとは思っていなかった。

 本来『変化の遊技場』では精神的苦痛も軽減し心が壊れてしまわないようになっている。今回もそうだと思っていたが、あの光景を見るに不完全だったのだろう。

 だがヴラーデが陽太に抱き付き、陽太がヴラーデを慰める結果となった。これで二人の距離が少しでも縮まればいいなと思う。

 さて戻ろうかとしたその時、


「……ここで何をしている?」

「わっ!」


 後ろから声を掛けられ驚き振り向くと、


「ヨ、ヨルトス……」

「……答えろ」


 リビングにいたはずのヨルトスがいた。いつの間にこっちに来たのか全く分からない。

 そして普段感情を見せない彼にしては珍しく尋常でない怒気が漏れ出ている。


「えっと、その、これはね?」


 焦った頭では誤魔化しの言葉が思い付かず、じりじりと距離を詰められていく。


「あー、うー……」


 そしてヨルトスの手が届く距離まで近くなると、


「や、やさしくしてください」


 引き攣った笑顔とまるで今まで声を作ってて素に戻ったのではないかと錯覚しそうな声で最期の言葉を遺した。


「ふにゃあああああああああああ!!」




「落ち着いてきたか?」

「うん、ありがと。でももう少しこのままでいさせて」

「お、おう……」


 しばらく陽太が撫でているとヴラーデは泣き止んだが、陽太の顔が赤くなっていることには気付いてない。


「その……なんだ、ごめんな」

「いえ、いいの、悪いのは全部――」


 ガチャ。


「ん? なんだ、ヨルトスか……っていつの間に外へ!?」


 どうやら陽太も目の前で起きた惨劇に気を取られて気付かなかったようだ。


「肩に担いでるのは……ロティアか」


 ヨルトスの後ろに回り誰かを確認したらロティアが目を回して気絶していた。そしてもう片方の手に持っていたものを確認しようとしたら、ヴラーデが奪い取って、


「これよこれ!」

「落ち着け、何がだ」

「これでチョコにされたの!」


 そう聞くと陽太が目を見開く。そのままヴラーデがロティアから聞いた魔導具の説明と経緯を語り、


「なるほど、そういうことだったのか」

「……どうする?」

「……えーとヨルトス? なんかちょっと怖いぞお前」

「……気のせいだ」

「そ、そうか。で、どうする? 一番の被害者であるヴラーデが決めていいと思うが」

「そりゃもちろん――」




『ん、んん……? あれ、体が……声が……?』


 ロティアが目を覚ますと、まず体が全く動かないことに気が付く。

 それに自分の声が別の場所から聞こえてくる。


「おはよう、チョコになった気分はどうかしら?」


 笑顔なのにどこか怖いヴラーデが鏡をロティアに向ける。映っていたのは立った状態でチョコと化した自分の姿。


『え……これは、どういう……』

「お返しに決まってるじゃない、チョコにされただけじゃなく首を切られたことのね」


 ロティアが気絶している間、まず男二人でロティアを立たせ、足を先にチョコにすることで自立できる状態にし、丁寧に少しずつチョコ化を進行させた。

 その際視界がどうなるか不確定だったために瞼を開けさせようとしたところチョコ化に巻き込まれないようにするのが大変だったのだがそれは置いておく。


「ヴラーデ、準備できたぞ」

「ん、ありがと」

『きゃっ』

「ヨルトスは足を持ってくれ」


 男二人が姿を現し、陽太が丁寧にロティアの体を倒してヨルトスに足を持たせ、


「せーのっ」

『わっ!』


 二人で持ち上げると、ゆっくりとどこかへ運んでいく。しばらく天井を眺めることしかできないロティアだったが急に視界が前を向く。

 何か冷たい物の上に立たされたようだ。足の裏にひんやりとした感覚が伝わってくる。


『あなたたち、一体どうするつもりなの?』

「大丈夫、すぐに分かるわ。[加熱(ヒート)]」


 ヴラーデがしゃがみ魔法を使うと、足の裏がどんどん温かくなっていく。


『これは……』


 足に伝わるのは気持ちいい温かさ。だがすぐに異変は起きた。


『え!?』


 視界が下がり始めた。同時に足の感覚がなくなっていく。


『まさか……!』

「ええ、ロティアには融けてもらうわ」

『!!』


 ロティアが目を覚ます前、ヴラーデの提案でヨルトスが【土魔法】で金属のような材質の容器を作った。

 人の体積を考慮し十分に大きく作ったそれはハートの形をしていて、陽太も一緒に形を確認しながら作ったため綺麗にできている。

 その容器の中央にロティアを立たせ、容器ごと加熱することで融かす。

 当然この容器は人が触っていい温度ではなくなっているが、


「熱くないでしょ? むしろ温かくて気持ちいいはずよ」

『くっ……』


 苦痛が遮断され、気持ちいい温かさのみが広がる。体が融けていくこともあってゆっくりとお風呂に沈んでいく気分だ。

 胸に差し掛かる頃には、いつの間にか少し仰向けになり、


『ふにゃぁぁ……』


 体と共に意識もとろけ始めていた。温かさもそうだが、融けていく感覚は体の力が抜けるようで特大のリラックス効果をもたらしていたのだ。


「さて、後は余熱で大丈夫でしょ。固まるまでは時間かかるでしょうし、先にチョコを配ってこなきゃ」


 その言葉を聞き、かろうじて残っている意識で抵抗を試みるが、


『ちょっと……まって……おいてか――』


 ポチっとヴラーデがそのスイッチを切り、ロティアが意思を届ける手段を無くす。


「じゃ、また後でね」


 そのまま陽太たちを連れて出ていってしまった。




 空が暗くなった頃三人が帰ってくる。チョコを配ったり逆に貰ったりついでに昼食にしたりと色々あったがそれは別の話。

 ロティアを融かした部屋に入り、様子を確認する。


「うわぁ……」

「おおう……」

「……」


 三者三様の反応をする彼らの目に映るのはハート型に固まったチョコ。そこにはロティアの顔が表面に浮かんでいた。半分潰れてはいるが融けきらなかったのだろうか。

 しかもその表情はとろんとした笑顔。気絶している間にチョコになったため無表情だったはずだが融けたことで多少は動けるようになっていたのだろうか。


『……』


 声を聞こうと魔導具のスイッチを入れても何の反応もない。意識もとろけきってしまったのだろう。

 固めた後のことを考えていなかった三人がどうしようか悩んでいると、そのチョコが光り出す。

 大きさ的に無理があったのか容器の外に出て、しばらくすると光が次第になくなると同時に仰向けになったロティアが現れる。

 その表情は先程と同様とろんとしていて、息はしているが意識は帰ってこなさそうだった。

 結局そのまま陽太は自分の家に帰り、ヴラーデとヨルトスもいつも通りの夜を過ごした。


 ロティアの意識が戻ったのは翌朝だったとかなんとか。

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