これを何と呼ぼうか
となりで幸せそうに眠る顔が、あまりにも綺麗で見惚れてしまう。俺とは比べ物にならないそれ。神様は不公平だよなって何となく思う。その肌に触れたくなって、思わず右手を伸ばしてみたけれど、頬に触れる前に君が消えた。空を切る腕と、背中を伝う汗が気持ち悪くて、もう目を瞑ることはできなかった。
汗を流そうと風呂場に向かう。廊下にかかった全身鏡に映し出される自分の顔は、やっぱり君とは違って冴えないものだった。寝癖で髪の毛はボサボサ。目も浮腫んでつぶれ気味。どこをどう見ても魅力もクソもない。
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二人、逢わない日がどれくらい続いているのだろう。
週に一度は君に逢う日。自分の中でそんなルールを決めたせいで、逢えない週は死にそうなくらいに苦しい。付き合ってこれまで、好きって気持ちは治まってくれないどころかパンクしそうで、愛されたいという欲求もそのままだ。どうにも、愛に貪欲である。
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一階に部屋がある俺は、窓を開けると外の景色が丸分かりな生活を送っている。それはつまり、車の通る音まで分かってしまうわけで。うん。俺は君が来るのを今か今かと待っているんだ。それはもう、ストーカーにされてもおかしくないくらいに。
ねぇ、もうこっちから逢いに行ってしまいそうだよ。そうしたら、「迷惑だ」って顔を真っ赤にして怒るんだろうなぁ。あぁもう。きっとその顔すら可愛い。
そんな妄想をしていたら、自然と顔がにやけてきたのがわかった。とっさに、先ほど見た冴えない自分を思い出して吐き気がする。こんなときに自分の顔を思い出すなんて最悪だ。早く、頭の中を君ので埋め尽くさないと。そう思い、ベッドの引き出しから取り出したアルバム。実は内緒で作ったものだ。そこに載ってある顔はどれもよく撮れている。と、自負している。一枚一枚、笑顔が可愛いこいつはいったい何なのだ。―――あ、俺の天使か。顔の表情筋が緩みっぱなしだろうが、今はそんなことどうだって良く感じられる。やっぱり俺は幸せ者だな、と下唇をかみ締めた。
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どのくらい経ったのだろう。あれほど白いカーテンから燦々と降り注いでいた太陽の存在は、今では真っ暗な闇の中に飲み込まれている。腹が減って仕方がなかったので、何か満たせるものを作ろうと立ち上がる――ところで呼び鈴が鳴り響いた。たぶん、この時間に、この部屋にやってくるのは一人しかいない。そう思うと、ずっと緩んでいた頬がさらに緩んでしまった気がする。
玄関へ向かう。今回はどうか消えないでくれと願いながら。この指先に、熱を感じるまであと1秒。もう俺は、我慢できそうにない。