都合の良い男
「なぁなぁ、教えてくれよ〜」
「やだ。てか出てけ」
その日、僕は梓の部屋で梓に質問を浴びせていた。
そんな中、梓は窓の前で暖かそうに本を読んでいる。
日当たりの良いこの部屋はお昼過ぎの今、少し暑いくらいだった。
「誰なんだよー。この超ラブリーでキュートなうちの梓をたぶらかすドブよりも汚い不届き者は」
「誰でも良いでしょ。てかキモいし、私の彼氏悪く言うのもウザいし」
「教えてよー教えろよーじゃないとー…」
「?」
梓が可愛らしく首をかしげる。
そして僕は飛びかかった。
ーーーーー梓のベッドに。
「寝る!」
梓が本を置いてこちらへ掴みかかる。
でも、そんな攻撃は通用しない!
「…っ、はぁ!?ちょっと!何言ってんのあんた!こら、のるなって!」
「やーだねー」
「あー!布団に潜るな、匂い嗅ぐなぁ!!」
「お、これはなかなか…」
さすが梓。お花のような匂いがしているぞ。
とても良い匂いだ。あ、このまま寝ても良いかも…
「やめろって…言ってんでしょうがぁ!!!」
「ゔっ」
腹にかかと落としをされた僕は部屋から叩き出された。
「さっさと出てけ!」
「もー。恥ずかしがり屋なんだから…」
しばらく経ってから、本を読み終えたのであろう梓が僕のいるリビングに降りてきた。
「おかーさん。なんか飲み物あるー?」
『あー…ごめんなさい、ないわ。あ!そうだちょうど良いから買ってきてちょうだい?」
「えー」と、つぶやく梓がふとこちらを見る。
そして、にっこりと笑った。
なんだか嫌な予感がする。
ゆっくりと開いた口からは、僕の予想した通りの言葉が出てきた。
「おにーちゃん。お願い?」
「…」
(全く…都合の良い時だけ『おにーちゃん』なんだから。ま、そんなところも可愛いけどね!)
上機嫌でおつかいに行く僕の姿はさぞ気持ち悪く映っているに違いなかった。