熊族の勇猛
俺に追いすがる闇の蠢きは、光に包まれてやっとその姿を明らかにする。
昼に見れば、リザードは細長い円筒形で、長い吻と扁平な長い尾を持つ生き物だ。大人の両手を広げたほどの大きさで、体高は、大きいもので、大人の膝のなかば辺りまでといったところだ。
身は灰褐色から灰色の硬い鱗板で覆われ、四肢は太く短い。口は深く裂け、多数の鋭い歯が並ぶところが昼のリザードの狩りの難しい部分だが、背後から口を縛ればさほど苦労せずに捕まえられる。皮は革となり、肉は淡白ながら柔らかくうまい。
しかし、夜のリザードはそのような形を崩す。
無影ランタンの光が照らす明るいなかで、風もないのに、炎の揺らぎのように黒い魔物の体の形が変わり続ける。基本的な体高や大きさはそんなに変わらないものの、ときに大きく体の一部を伸ばしたりする。殺せば肉を残さず、光とともに霧散する。夜を境に全く違うものに変質する。魔物となる。人を食う。
イズは、俺が走りこんできたのを匿うように俺の背後にまわる。追いかけてきたリザードを斧で畑を耕すように、軽快に殺戮をはじめている。
俺の、エルフより授けられた対魔物用の片手剣とは違い、イズの斧は先ほど武器屋で魔物を切れるように加工したものだ。
切れ味が落ちる。俺の剣では切りつければ、そこから裂けるように魔物は消滅する。致命傷を負わせなくても、ある程度の傷を負わせればいい。傷から形を保てないようにちぎれ消えていく。
イズの斧で叩き潰されていく魔物は、消える前の一瞬体を震わせて生き物らしく消えていく。
イズの屠っていくリザードの蠢きは、何か歌を歌っているようだ。青い光はランタンであまり見えない。だが、恐ろしいほどのリザードが消滅していってる。
匂いのきつい血止めの薬を傷にまぶして、血止めとこれ以上魔物を呼び込まないようにしながら、俺は熊族の勇猛という言葉に納得していた。