狩り開始
お菓子は、あらためてガトーに預かってもらった。また帰ったら受けとる予定。
それにしてもイズが俺を見る目がますます厳しい。
「剣を忘れるなよ」とまで言われた。大丈夫です。借りた無影ランタンもあります。水袋も漏れてません。血止めの粉末薬もガトーから借りてるし、さすが犬族。
必要装備はきちんと提供してくれてる。
防護壁を出ると、しばらくは平原が続く。淵までいくと足場が悪いから、夜の、こんな少人数の狩りでは無理だ。
この平原まで、リザードを誘き寄せる。
リザードは、昼と夜とで別の顔を持つ。昼間は動きも多少鈍く、何より形が定まっている。
チマと呼ばれている小動物を主すに餌にしている肉食だが、昼に人を襲うことは、普段なら無い。
夜になると、魔物と呼ばれてしかるべき存在となる。
夜になると形が崩れて、定まらないものになるからだ。そして人を襲う。
ランタン2つを、なるべく戦う空間を保てるように後方かつ、防護壁から離して設置する。
防護壁に近づけすぎると、仕留め損じたら詰め所の仕事を増やすかもしれない。
また、ランタンを離しすぎると無影にならない。
夜のリザードは、一般的なチマみたいな動物とは違い、火を怖がらない。
むしろ、熱のある場所に寄ってくる。熱のある場所に人がいるとわかっているのだと言われている。
このランタンを越えさせず、この場で仕留める。
イズと、ランタンで切り取られた明るい空間で視線をあわせる。
いよいよか。
イズをおいて淵の近くまで、剣を抜いて歩いていく。
ランタンの熱で寄せるには距離がありすぎるからだ。
「油断するなよ!」とイズが叫ぶ。大丈夫だよ。慣れた作業だから。
剣の石を親指でなぞる。
熱のない青い光があたりを浮かび上がらせた。
……揺れる影がそこかしこに見える。単なる炎を使ったランタンては、炎の揺らぎで姿がとらえにくい。
だからこそ、無影ランタンを使う。あるいは、この石を。
この剣はそもそも魔物と呼ばれるものを切るためにある。
チッと、親指を刃に滑らせて血の臭いをさせれば、影が一斉に群がってきた。
さあ、来い!
久しぶりの本気で、俺は笑った。