狩り申請窓口にて
イズと合流して、犬族地区の外れ、辺境淵の防人詰所まで来ていた。
ここも、神殿関連部署ではあって、神官の武官がいる。辺境の監視と、リザード狩りの補助の役務を勤めている。
神殿は人を守る。そういう組織だから、リザードが襲って来ないように監視と、適度な駆除と、そしてリザード狩りをする一般区民の補助も行っていた。
具体的な補助としては、まあ食いつめ一歩手間の、「リザード狩りで、なんとかしのいでやる」ってやつへの食糧貸し付けとか、明らかに狩りが無理そうなやつをなだめるとか。
リザードは、爬竜類とよばれる、その名のとおり、這うタイプの竜だ。
爬竜類にもいろいろいるが、犬族地区南部には、小型のリザードが多く生息している。
熊族地区の東から犬族地区北西部周辺には爬竜類でも大型の土竜やら飛ぶ跳竜族がいたりして大変だが、犬族地区南部は、神官武官や傭兵でなくても普段ならなんとか狩れる小型のリザードなので、一般区民も簡単な登録免許で狩を許している。
詰所は、防災施設をかねている。
緊急事態に備えて、食糧の備蓄や武器や防具、天幕等の装備も保管されている。
大きなレンガ作りの倉庫横の小さな木造建物が詰所になっていて、看板が壁に打ち付けてあり、達筆で上から下に力強く「犬族地区辺境淵監視所」と墨書されている。
その横には狩り申請窓口が設けられていて垂れ耳の犬族の男が座っていた。
窓口に近づくと、なんか……ハアハアしていた。よくよく見ると垂れ耳男は椅子に座っていなかった。
空気椅子、と呼ばれる武官訓練でのしごきに使われるアレをやっていた。引く。支部長があんなだから、下部組織まで美筋肉道に走るやつがいるとは聞いていたが、一般区民が利用する場所でハアハアしながらすることじゃないだろう!
無意識に体まで逃げ腰になっていたらしく、後ろにいたイズにぶつかる。
「なんだ?」
とイズが前に出たのでイズに対応を任せてしまうことにした。
「ほう」
イズも空気椅子に気づいたらしい。な?引くよな?と思っていると、
「せいがでるな!」と意外に好評価。えええ。
「ありがとうございます❗」
爽やかに立ち上がって垂れ耳が答える。
「狩りの申請ですか?あなたも良い筋肉してますね。
でも今の時間からだと夜行性リザードを獲物にすることになります。夜の狩の経験はありますか?」
「ああ。何度か。実は俺らは中央神官なんだ」
神官は、夜のリザード狩りの研修がある。イズは勿論、俺も武官に属しているから何度か経験していた。
「そうでしたか。では一応身分証を提示下さい。」
神官であれば一般区民に発行する許可証がなくても狩りができる。イズは服の隠しから手帳を見せた。
「はい。ありがとうございます、犯罪取締部ですか。なるほどの筋肉ですね。で、そちらのかたは?夜の狩りで二人だけとなると相当の技量が必要なんですが……」
その言い方にちょっとひっかかる。確かに俺はムキムキじゃないし、非力で鼻も目も利かない人族だけども。
俺は帯剣していた剣を見せた。
垂れ耳男が息を飲んだ。