兎族と
美筋肉の求道者から金を借りることを諦めたマレイ。
果たしてどうするか?
マレイの休日の続きです
犬族の求道、猫族の執念。
この二つが合わさったのが犬族商店通りの名店「ドイルとナーサのお店」。
犬族ドイルと、ドイルの妻である猫族ナーサが営んでいた。
名前の緩さと対称的に、厳しく素材を吟味し、慎重に調味された料理で
里から出ないエルフさえも訪れるという噂だ。
最近になって土産用の焼き菓子も始めたという。マレイは店の前にいた。
この焼き菓子を神子に贈りたいと思っていた。
マレイは中央神殿祭事部(通称子守部)の神子付き神官だ。
神子のイデルは身体の清浄を保つために限られた食材しか食べられない。
一年に一度の誕生日に食べるくらいはお目こぼしされるので買ってやりたい。
しかし神殿から預かった財布を落とした責任をとり、
今から街を抜け、辺境に跋扈するリザード狩に行かなければならない。
てっとり早く現金収入が得られるのがその方法だった。
そして明日早朝には中央神殿に出勤しなければならない。
マレイはいまだ窮地にあった。今焼き菓子を手にいれないと店が閉まる。
手持ちの金がない事態をどうするか。
連れの熊族イズは、犬族の友人の武器屋に剣の調整をしにいっている。
リザード跋扈地域に近い地区に住む犬族と熊族は武闘派が多く気が合うのだ。
熊族の荒事好きは、熊族の勇猛、と言われる。高名な狩人の多くは犬族と熊族だった。
単なる人族であるマレイはまた、待ち合わせ場所の公園に戻りため息をついた。
ツケ払いの交渉ができないかと思ったが、遠くからの一見客も多い商店通りだ。
有名店である強気もあってかツケ払い不可らしい。
詰んだ、とマレイがうなだれていると
「さっきからここで座って見てみりゃ、行ったり戻ったりでため息ばかり」
と兎族の年寄りが話しかけてきた。
「若いもんが情けない。恋か、借金か、どっちだ」
さすがは機を見るに聡く恋と商売に生きる種族だ、とマレイは思う。
兎族の機敏。他族からは怯懦と侮られることも多いが。
「むしろ借金したいんです」とマレイは呟き、兎族に情けなく笑ってみせた。
マレイはそこで兎族の高利貸に引っかかることになった。
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