犬族地区にて熊族と
世界は4つの動物族が住む各地区とその中央に位置する中央に加え、
人里離れた場所にエルフの里があり
その周辺の魔物が跋扈する辺境に別れています。
今回は犬族地区にて。
犬族地区には犬族が営む商店が並ぶ通りがあった。
犬族の求道精神に満ちた通りはどの店も有名だ。
犬族はその特徴として、突きつめる気質があると知られている。
その気質は犬族の求道、といわれる。
細工物屋も食べ物屋も、人族と同じ器用な手で、しかし並の人族ではもちえない気概を持って
職人が作り上げた商品が並ぶ。
だから通りは遠くからも訪れる客の喧騒に満ちている。
どの客も期待以上の物に出会って、笑顔で行き交っていた。
その通りのなかの突き当たりに公園があった。公園は食べ物を持ち込んでいる者もいたが比較的静かだ。
公園にまで、嗅覚に劣る人族マレイにもわかる美味しそうな匂いが満ちている。
しかしマレイはふらふらと公園に設置された椅子に腰をかけた。
顔を手で覆い、はああとため息とも呻きともつかない声を漏らした。
傍らには連れのイズがいた。イズはマレイと神殿が擁護する神子へ誕生日祝いを買いにきていた。
「買う物が決められない程度で悲壮感ありすぎだろ」
呆れた様子で熊族の神官が言う。熊族で傭兵や狩人を選ばず、神官になった変わり種。
しかしやっぱり熊族によくいる筋肉ムキムキの武闘派だった。
神殿は人を護る機関だ。犯罪取締から医療、子守まで引き受ける。
イズは犯罪取締部所属だ。普段は穏やかだが、動物族特有の警告音、唸り声をあげさせるとやばいと恐れられている。
「…違うよ」
通称子守部、神子付きのマレイは覆った手の中で呟く。
イズは優れた聴力で聞き取り「何が?」と穏やかに促す。
――さすが取調べに定評のあるイズだ、とマレイは思う。
確かにうっかり促されるまま吐いてしまいそうだ。
だが、これを言うと激怒されるかも。しかし言わないと。
ここからまた2時間かけて徒歩で帰るのだ。日があるうちに帰りたい。――
神官は緊急時以外は騎乗できない規則があるのが辛いところだった。
「財布を落としました…」
自白してちらりと指の間からイズを伺う。
イズもどうするか考えているのだろう。腕組みをしている。
「…でさ、支部に借りるって手もあ…、」
警告音がイズの喉から聞こえて口をつぐんだ。
マレイもわかっている。犬族地区神殿支部長の求道精神が問題だ。
美しい筋肉の求道者である支部長は警戒すべき存在だった。
彼は美筋肉を自ら創るのも好きだが、他人の筋肉をも鑑賞し真剣に愛でる……そういう道を走っていた。
犬族から見るとどうか知らないが、人族のマレイには
迷惑な道に迷いこんでいるように見える。
腕組みを解き、武闘派イズは言い放つ。
「街を出て辺境で狩だ。中央神殿に帰るのは明日の朝だ」
自力で金を稼ぎ補填する案か。確かに道理だが休みが肉体労働になるのは避けたかった…。
だが仕方ないとマレイは帯剣しているのを確認してよろりと立ち上がった。
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