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「あなたは雪見さんと近い存在だからね。」
少し期待していたが、どうしようもない答えが返ってきた。
「近い存在だと犯人にされちゃうんですか?だったら僕はただの幼馴染みだけど、雪見は新里と付き合っていました。」
ガッカリしながら僕は反論した。
「知ってる。新里君は有名人だからね。」
新里は雪見とは同じクラスで、二人は何ヵ月か前から付き合っていた。新里は小学校二年の時に僕と雪見の通う学校に転入してきたので、僕にとって長い知り合いではあるが馬が合わなかった。小学生の頃一緒遊んだことが一度や二度あったと思うが、仲良くなることはなかった。僕のことが嫌いなようで、そうなると僕も新里を好きにはなれなかった。そのため距離を置く関係がずっと続いている。
「新里だけじゃないです。雪見には何処に行くにも何をするにも一緒の女友達がいましたよ。僕より近い存在はいました。」
もうここは一人で泣く場所ではないと思い、早々に去ることにした。が、日和は僕の横に立ち夕日を少し眩しそうに見ながら、
「一緒にいる時間が長いからといって、雪見さんにとって心の距離が近かったとはかぎらないで しょう?」
そんなことを言った。
心の距離が近いと犯人ということだろうか。それだけで犯人とするには無理があると思う。もっと深い考えが隠されていると思うのが自然だろう。僕には言葉の真意が解らない。
「山梨さんはどうしても僕を犯人にしたいんですか?」
「日和でいいわ。下の名前を呼ばれるの好きなの。」
日和は微笑みながら言った。 「じゃあ、日和さんは僕を犯人にしたいんですか?」
17年間僕は異性に微笑みかけられることがほとんどなく過ごしてきたが、こんなに何とも思わないことだと今日初めて知った。もっと心踊るのかと期待していた。
「どうしても犯人にしたいことはないけど、犯人だと思っているの。」
この配慮のない言い方が日和なりのコミュニケーションなんだと思った。人と長く続く関係を築けるはずがない。
「あの日、僕は授業が終わった後すぐに家に帰りましたよ。雪見が亡くなった時間には家にいたんです。」
雪見は学校内で亡くなっている。
日和は振り返り金網に寄りかかる。
「その場にいたかいないかは問題じゃないのよね。」
「日和さんは不思議なことを言いますね。その場にいなくて、どうやって雪見の命を奪うと言うのですか?」
実行犯人がその場にいないのに事件が起こった。つまり日和はそう言ってることになる。雪見には悪いが、日和のその考えはとても面白いと思う。あり得ないことをどう説明するのか興味がわき上がってくる。だから、どうすればそんなことが出来るか聞いてみたが、実はあまり答えを期待していない。どうせ大したこと考えていないだろうと思う。
だが結果は違った。
「だからそれを犯人であるあなたに訊いているのよ。」
日和は何も考えていなかった。 予測を下回る結果だった。 まさか答えを僕に求めてくるとは思わなかった。思った以上に何も考えていない。 短い時間だったがもう充分に寂しい人の相手はした。ここにいる必要はない。そう思う。
「僕は知りません。知るはずがないですよ。日和さんは何か勘違いをしています。僕は日和さん が期待する話はできません。」
僕は話を終わらせるきっかけを探す。が、日和は会話を続ける。
「教えてくれないの?それとも自覚ないの?」
本来ならば雪見の事件の犯人と決めてかかられていることで、怒りを感じているというメッセージを込めて何も言わずに歩き出し立ち去ってもよかったが、僕は日和を寂しい人と同情しても怒りや反感はやはり感じない。
「その場にいなくても、それに自覚がなくても人の命を奪えるんですか?」
だから答えなくてもいいのに答えてしまう。
「最近はできるみたい。あなたがやったみたいにね。自覚ないならどうやったか自分でも解らないだろうけど。」
しかし一人になれないなら、ここにいる理由はない。
「そうですか。じゃあ僕はもう帰ります。」
この場を終わらせる為に僕は強引に突然に話を切り、別れの挨拶もなく階段に向かって歩き出した。
「また話を必ず聞きにいくからね。」
背中越しに日和の声が聞こえる。 だが僕は、もう話すことはないと思う。失礼かも知れないが日和の相手をする気がない。それについては声には出さず僕は屋上を後にした。年上なので一応は敬意を表して敬語を使ったが、僕は同情という形で上から日和をみていた。同情以外は何もなく、明日には顔も忘れていると思うほどに興味がない。
しかし次に日和に会った時、僕は衝撃をうけることになる。そのことを含めて既に動き出していた。幼馴染みである雪見と本当の意味での最後の時間が。




