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セピア色の盾  作者: 青葉
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夕暮れどき僕は学校の屋上に来ていた。 金網越しに中庭を見下ろす。四方を校舎に囲まれた小さな中庭がある。 一週間前この中庭で僕の幼馴染みは17歳という短い生涯を閉じた。幼馴染みの名前は上條雪見。近所に住んでいて同じ年、幼稚園から高校まで一緒だった。異性なので中学生になるあたりから微妙に距離が離れたこともあったが、高校生になると再び近い存在になっていた。

僕は心の中に何かが引っかかる釈然としない思いを抱いて、ここ一週間を過ごしている。

中庭にはベンチが一つだけある。雪見は一週間前の夜、そのベンチで一人最後を迎えた。その夜が 最後になってしまった理由は何と爆死だという。ベンチに座っているところに爆発物を投げつけられ身体が木っ端微塵になったようだ。事件が起こったのは生徒も先生達も全員帰宅した後で誰も見ていない。また学校近隣の住民は音も聞いていないらしい。だから本当に爆発物を投げつけられたのかハッキリしたことは分かっていないが、そういう結論に至ったようで警察発表も報道もそのように伝えている。 どうあれ雪見の身体が木っ端微塵になったことは事実で葬儀のとき棺桶の中に雪見の遺体はなかった。代わりに中には雪見の遺品が納められた。

確かに雪見の身体が粉々になったが、だからと言って爆発物を投げつけられたというのは信じられなかった。僕が引っかかっているのは雪見が普通の高校二年生の女子だったこと。女子高生が爆発物を投げつけられるなんて普通は考えられない。それに雪見は棺桶に遺体をいれることができないくらいになってしまった。そうなるには相当の威力がある爆発物が必要だ。

本当にそんな強い爆発物を投げつけられたのか?

もし犯人が雪見に近づいて投げたのであれば犯人も無事で済まないかもしれない。 近づいたのではなく遠くから何らかの方法で雪見に爆発物を命中させたのならば、なぜそこまでの技術を使って雪見を亡き者にしなければならなかったのか。 誰かに恨まれていたとしてもその誰かは、つまり犯人は雪見一人を亡き者にするためには爆発物を選ぶだろうか? もっと簡単な方法があるじゃないか。そんなことを考えて釈然としない一週間を過ごしてきた。

事件後三日間学校は休みになり 、その間学校内は警察以外立ち入り禁止で検分をしていたが結局詳しいことは分からなかた様で新しい発表何もなかった。その後もしばらく中庭にはブルーシートがかけられ立ち入り も禁止になっていた。しかし今日、中庭の立ち入り禁止はおそらく学校側の配慮で解禁されなかったものの、ブルーシートは取り払われていた。

ついさっき僕は一階から中庭を事件後初めて見てきた。中庭は何も変わっていなかった。そして 僕は、雪見が爆発物を投げつけられて命を落としたわけじゃないと確信した。雪見が最後すわっ ていたベンチは、雪見は粉々になったというのに事件前と同じ形でそこにあり、ベンチ近くの 壁も全く損傷が無かった。

爆発物なんかで雪見は亡くなったんじゃないんだな。警察にも分からないような何かが起きて体がバラバラなっちゃったんだな。

そう思った瞬間、突然に悲しみがおそってきた。

僕が屋上に来ている理由は一人になる為にだ。涙を誰にも見せないようにするために。僕は雪見の訃報聞いてからこれまで泣いていなかった。葬儀のときも涙を流すことがなかった。雪 見の死因に疑問を持ち、そのことで頭を一杯にしていたからだろう。自分でも変だと思っていた 。雪見が亡くなったというのに悲しみもせず、そんなことに頭がとらわれていることに。もしかしたら僕は自ら考えなよにして現実から逃げていたのかもしれない。でも悲しみに追い付かれてしまった。結局僕は中庭を見下しながら泣いている。


「それは後悔の涙かしら?」 突然後ろから声をかけられた。 ビックリして涙もふかずに振り向くと、制服を着た女子が立っていた。顔に見覚えはないので 同学年ではないようだ。

3年生だろうか。少し大人びて見えたのでそう思った。 泣き顔を見られてしまい恥ずかしくなり、僕は何も言わずに中庭の方に視線を戻した。すると、

「雪見さんの事件の犯人、あなたでしょう?」

そんな言葉を投げかけてきた。

僕は涙をふいて再び振り向いた。

「あたしは山梨日和というの。三年よ。影が薄いから知らないでしょうね、あたしのこと。」

急に話しかけてきて一体あなたは誰か?と問おうとしたが、振り向いた瞬間そう言われてしまう。

「え?ああ、知らないけど……」

不意を衝かれて僕は言葉が上手く出ない。

「まあ、そんなことはどうでもいいんだけどね。どう?雪見さんの命を奪ったのあなたでしょう? 」

僕は幼馴染を喪い、悲しくて一人泣くために屋上に来ている。心は悲しみで充満している。泣いている初対面の人に向かって急に声をかけるだけでも配慮がないのに、話しかけた内容も酷い。

「僕が雪見を?」

何だか僕の声は上ずっている。当然のことだが図星を突かれて狼狽えているわけじゃない。少し狼狽えてはいるけど虚を突かれてのことだ。

「違うと言うの?あたしね、あなたが犯人だと思ってるの。真実を教えてくれない?こうゆうの は早い方がいいわ。あなたのためにもね。でも自覚ない場合もあるか。無いの?自覚。」

事も無げに僕が犯人だと日和は言った。

何なんだこの人は?雪見は幼馴染みだぞ。そう思いながらまじまじと日和の顔を見た。自分で影が薄いと言うだけあってこれといって特徴のない顔だった。明日には忘れていそうな顔だ。

犯人扱いされたのに不思議と僕は日和に対して怒りの感情がわかなかった。それどころか少し 同情をしていた。きっと目立たない存在で、あまり人と話す機会がないのだろう。だから寂しいんだな、と思う。 あまり人から相手にされない日和は、きっといつもこんな方法でしか人とコミュニケーションが とれないんだろう。人を怒らせて注意を獲得する。 そうだとすれば長く付き合ってくれる人がいるわけない。

僕もあまり関わらないほうがいい。

そう思ったが、考えてみると興味深いことを口にしている。

「なんで僕が犯人だと思うんですか?」

怒りや反感はない。ただ興味だけで僕は質問をした。その興味も日和に対してではない。日和と話をしたくて言葉を発したのではなく、純粋に僕が犯人と何を根拠に言っているのか知りたかっただけだ。

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