家にやってきたのは番犬…いや変態でした
昔書いた小説をそのままあげました。
若気の至りで文章もひどいものですがどうぞ~
変態─「正常ではない状態」 変質者─「性格・気質の異常な者」
ぱたりと、木戸律は広辞苑を閉じた。
自室のカーテンを小さく開き外の庭をみて、自嘲すると部屋を出た。
木戸家の庭ではつい最近、変態または変質者が庭で放し飼いされている。
今は春。
もうすぐ春休みが終わろうとしている。
そんな我が家の庭に西村ゆずきという変態が放し飼いされるようになったのは、春休みの始まった日に遡る。
「お母さん…それ何」
昼ごろから、散歩に出かけた母の隣にはボロクズのような背の高い男が立っていた。
「律の番犬よ」
何の戸惑いもなく母は説明する。
「……番犬?」
「お母さんね、やっぱりお父さんをおかっけちゃおうと、さっき決めたのよ」
父は今年から単身赴任が決まったが、今年でもう高校3年生になる律の環境が変わることがよくないと話し合いで決まり父だけが一人単身で出かけた。
しかし、結婚20年になるというのにまだまだ恋人気分の抜けない夫婦。
律もいつかは母は父を追いかけるだろうと思っていたが、こんなに早いとは予想外だった。
「だからってこんなの」
びしりと律はボロクズ男を指差した。
「だってお母さん律を一人にするの心配だから、さっき道に落ちてたから拾ちゃったのよ。事情を話したら番犬OKだっていうんだもん」
ねっ、て隣の男に微笑みかけ、ほら自己紹介してと肘で男を突付いている。
男は律の前に立った。
「西村ゆずきです」
ぺこりとおじぎした。
それほどおかしい男ではないようだと律は判断した。
そして釣られてあいさつすると、なぜか男は震えている。
「あの…どうかしたんですか?」
そう律が聞いた瞬間震えていた男ゆずきはがばりと律に抱きついた。
ヒッと律は喉の奥から悲鳴を上げた。
「きゃーーキャワユイぞ!マジでこれは一目惚れーーん。やんやん、もう最高!!俺を愛してくれ!りっつん love love りっつん」
パニック状態の律の頭はそれでも冷静に警鐘を鳴らしていた。
(危険。この男は危険である。異常極めて異常なり。直ちに回避せよ)
「お母さん助けて!」
母に助けを求め母を見ると玄関の扉を開けた晴れやかな顔の母がいた。
「もう仲良しなのね。ふふふ、お母さんもお父さんの胸に飛び込んでくるわ!律、ゆずき君、ばぁ~い」
母は襲われている娘に背を向け、父のいる場所へと旅立っていた。
その後、変態と二人取り残された律は母のいた場所を呆然と見ていたが、「ほっぺた~すり~すり~していい!りっつん!りっつん!すりすり」と頬を摺り寄せてくる変態に全身全霊のアッパーとエルボーをくわらせ、変態ゆずきを撃沈させた。
またさっさとこの変態を追い出そうとしたのだが、もともと責任感も強い律は、お金も無く帰る場所もないからここに置いてくれという変態の涙目ウルウルに負けた。
しかし、それでも危険を感じるため家の中ではなく庭に放し飼いすることに相成りました。
そして今に至る。
「りっつんの作ったご飯はさいこーだよぅ。パリの三ツ星レストランでも味わえないよーそんなはずは無いって顔だねーよく見えないけど…だって、最高の隠し味愛が入っているんだもーん。もう愛の食中毒になちゃうーん!」
ゆずきは庭で食事を取りながら窓向こうにいる律に話しかけてくる。
律は窓を開けゆずきを手招きするとそれに気付いたゆずきは瞬時に律の方に駆け寄ってきた。
その瞬間律の裏挙がゆずきの顔面に直撃しブバッと、音を発しながらゆずきは後ろに倒れ石に頭をぶつけた。
「大きな声をだすんじゃない!あんたみたいな変態を庭に飼ってあげているんだから。近所にばれたらどうするの!!」
律は叫んだが、無論変態は気絶していて聞こえていなかった…
「話って何何?りっつん!はっもしかして遂に俺をりっつんと家の中で同棲させてくれる気になったの!や~んマジで感激」
頭に包帯を付けたゆずきは話があると律にいわれ庭に正座しながら律を見上げていた。
「だまれ。変態、働かざるもの食うべからず。私はこの春休みが終われば学校だから、変態も働きなさい!家にお金を入れなさい」
「えーけど、俺はりっつんの番犬だから」
「だまれ!まずは身なりを整えなさい」
髪やらひげで顔の半分が隠れ服も汚い。
はいっとゆずきに石鹸とシャンプーを手渡すと庭の隅を指差し洗えと命令するが、
「えー外じゃ嫌なんですけど…俺」
これは至極当然なことではあるが…
「却下。変態は変態らしく外で洗いなさい」
「やーん冷たいよぅ!けど、りっつんのそんなところも」
みなまで言わせず律の回し蹴りが包帯を巻いたゆずきの頭にクリーンヒットした。
こうして私たちの飼い主と番犬としての生活がスタートした…?