第3話 臆病無謀☆パンツは男の夢の巻
あらすじ通りにいかないドラマ
「おっしゃー! 頚椎に直ヒットぉー!」
「キョーコ! 勝つのは良いけど、もっと魔法的に倒して欲しいペコ!!」
「してんじゃん。ほら、ここ見て? 魔法の石っぽい部分を当ててるから」
「ミステリアスジュエルの部分で殴ってるペコ!? そこ、一番壊しちゃいけない所ペコ!!」
3体目の影人間――ダークサイダーの首を刈った私。
そんな私に文句をつけるのはペコ丸だ。
ペコ丸は魔法の国の社畜で、ダークサイダーという組織と戦っている。
それに協力しているのが、私こと皆口キョーコ(20才)である。
心優しい私は、ペコ丸の願いによって魔法少女に変身し、ダークサイダーと戦っているのだ!
そんな優しさ満点の私に向かって、ペコ丸は絶叫と説教を同時にしてくる。
あーあ、ペコ丸マジウザイなぁ~。ちぇー。
私は舌打ちしながらそっぽを向いた。
私が頚椎を破壊した影人間が煙のように消えていった。
これはダークサイダーと呼ばれる存在で、人間の持つ夢を奪うらしい。
奪われた夢は結晶となり、奴らを倒すと『夢の雫』として手に入るのだ。
夢の雫の相場は1個5万円。
ペコ丸がどうしても質屋には売らないで欲しいとうるさいので、優しい私は1個3万で譲ってあげていた。
ダークサイダーが消えた跡には3つの夢の雫が残っている。
つまり今回は9万円の売り上げだ。やったー!
今度は何を出前に取ろうかな~と考えながら、私はペコ丸に近付いた。
「じゃ、今回は3個だから9万円ね」
「くぅ……きゅ、9万円ペコか……! 持ち合わせが……」
額にダラダラと汗を流しんがら、ペコ丸が小銭入れの中身を確認している。
勤労動物ペコ丸も、ポンと9万円は払えないみたいだ。
しかし優しい私は、おいしい仕事をペコ丸に斡旋してあげる事にした。
「じゃあ、今度いいお客さん紹介してあげるよ。ペコ丸の事が大好きって言っててね……」
「い、嫌ペコ!! 今度はボクに何をさせる気ペコ!? このケダモノ!!」
「ケダモノはそっちの方じゃないかよ~モコモコしてるくせに」
誤解しないで欲しいのだが、ペコ丸を紹介する相手は猫好きのごく一般的なお客さんだ。
猫好きな人の相手をする事が、そんなに耐えられない事だろうか?
べっつに、取って食われるわけじゃあるまいしー。ペコ丸はわがままだなー。
私は腰に手を当てて、怒ってます! というポーズを取る。
そしてペコ丸に諭すように言った。
「なんでそういう事言うかな~? ちょっと動物好きのお客さんの相手をするだけでしょ?」
「あいつらは変態ペコ! ボクはもうギリギリペコ!」
しかし、どうもペコ丸は納得がいかないらしい。
なおも血走った目で私に反論してくる。
「これ以上は耐えられないペコ! 腹を切るペコ!」
悲壮な覚悟を滲ませるペコ丸。
そんなペコ丸に、私は笑顔で告げた。
「じゃあ、夢の雫はどうするの? これでも友情価格なんだからね」
「ぐぬぬ……!」
1個5万円で売れる夢の雫を、1個3万円でペコ丸に譲って上げているのだ。
ほとんど半額の値段だ。これ以上は譲れない。
私の問いかけに、ペコ丸は苦渋を滲ませた顔で悩み出した。
結局、私の提案を受け入れたペコ丸は、悄然とした様子だった。
そんなペコ丸と一緒に帰り道を歩いている。
あれ~? 何だか元気が無いな~。
そう感じた私は、ペコ丸を励ますように言った。
「どうしたの? ペコ丸ファイト!」
「ボクは……皆の夢を守る……女王様……切腹……」
虚ろな目でぶつぶつと呟くペコ丸。
あちゃー、重症かな?
まあ美味しい物でも食べれば何とかなるっしょ。
私は今夜の夕食をちょっと奮発する事にした。
とりあえず財布を取るためにも、と自宅のアパートへ向かっていた私達。
アパートに着いたは良いけど、私の部屋へと続く階段に誰かが座っている。
「なんだ~? 邪魔だな~」
ぶつぶつ言いながら私は階段に近付いた。
すると階段に座っていた人物はにわかに立ち上がり、私に挨拶してきた。
あれ? 私の知り合い?
「皆口。その……久しぶり」
「あれ? えーと、確か……」
目の前の人物の名前を思い出そうとする私。
確かに見た事がある。確か、高校の時のクラスメイトの男子だ。
えーと、えーと……。
そうだ! ハーレム王子だ!
高校時代、男子達からハーレム王子と呼ばれていたのが彼だ。
そう言えばいつも複数の女子に囲まれてたな~と思い出す。
ハーレム王子は、私と何かにつけて縁がある男子だった。
大雪で学級閉鎖された時、間抜けにも学校に登校してしまった私。
その時に、同じく間抜けっぷりを披露して登校していたのがハーレム王子だった。
それ以来、私は彼をマヌケ王子と呼んでいる。
「マヌケ王子! 久しぶりだね」
「ははっ。相変わらずだな、皆口」
ズビシっ! と指差して言う私に苦笑しながら返すマヌケ王子。
私が懐かしさを感じていると、マヌケ王子は何か言い辛そうに私の方を見ていた。
そして意を決したように私の服を指しながら言った。
「皆口……その格好は……?」
言われて自分の格好を見てみると、魔法少女の格好のままだった。
あちゃー、変身解くのをすっかり忘れてた。
てへへと苦笑いしながら、私はストレートに説明した。
「ああこれ? バイトの衣装」
「バイト!? キョーコにとって魔法少女はバイト感覚だったペコ!?」
私の言葉を聞いたペコ丸は、何故か不服そうに叫んだ。
立ち話もなんだし、と言う事でアパートの1階にある喫茶店を利用する事になった。
私はアパートの2階にある自室で着替えたあと、トンテンカンと音を響かせながら階段を下りる。
カランコロン、と扉のドアベルを鳴らせて喫茶店の中に入った私は、ペコ丸達が座る席を探した。
薄暗い店内。
ムーディーというよりは照明が足りない感じだ。
安っぽい内装の店内を見回すと、ようやくペコ丸達を見つける事ができた。
私は空いているイスに座ると、さっそくカフェオレを注文した。
このクソ不味い喫茶店において、唯一安心して頼める一品である。
最近はカレーも出し始めたらしいが、怖くて注文した事は無かった。
「お勧めを聞いてもいいかな、皆口」
「カレーとか美味しいらしいよ?」
「ふーん。それじゃ頼んでみようかな」
あっさりと私に騙されるマヌケ王子。
間抜けだなぁ……と、私は人事のようにカレーを注文するマヌケ王子を見ていた。
「それで、このイケメンのお兄さんは誰ペコ?」
いつの間にか元気を取り戻していたペコ丸が、私にひそひそと聞いてくる。
「うん? マヌケの王子だよ」
「キョーコ、それは相手に対してあんまりだと思うペコ」
私の紹介を聞いて、マヌケ王子は苦笑していた。
やがて思いついたようにペコ丸を指して聞いてきた。
「ところで、皆口。この変わった動物は……?」
「ああ、ペコ丸の事? 見ての通りしゃべる猫だよ」
「キョーコ!? まさかとは思うけど、ボクが妖精って事を忘れてないペコよね!?」
「何言ってんのペコ丸? あ、クリームパスタくださーい」
「キョーコ!? どうして目を逸らすペコ!? 答えて! 答えてよキョーコ!!」
妙にペコ丸がしつこい。
連日連夜、猫として扱われているので妖精としてのアイデンティティを失いかけているんだろうか?
さっさと諦めてただの猫になればいいのに。
腕にしがみ付いて来るペコ丸を無視して、私はカフェオレをちびちび飲んでいた。
ウザいペコ丸から逃れる為に、マヌケ王子に話を振る。
「そんでさー? どうしてこんな所にいるの? 帰る家を間違えたの?」
「いや……そこまでマヌケじゃないさ」
マヌケ王子の元にカレーが届く。
案外普通のカレーだ。……レトルトかな?
「ふーん?」
苦笑するマヌケ王子に曖昧な返事を返しながら、私はカレーを観察し続けた。
あら? 上にハンバーグ的な物が乗ってる……。
やだちょっと美味しそう。B級グルメの香りがする。
私の注文したクリームパスタも届いた。
まだ何事か言い続けているペコ丸。
その口を塞ぐために、私はパスタをフォークで掬い上げた。
「キョーコ!? ボクは猫じゃないペコ! 猫じゃないペコ!」
「涙ながらに語らなくてもいいじゃん。ほら、あーん」
「そ、そんなんじゃ騙されないペコ!」
なおも文句を言うペコ丸の口にパスタを押し込む。
よし、これでしばらく黙っているだろう。
満足感に浸っていた私は、マヌケ王子の視線を感じた。
「うん? なに?」
「いや、羨ましいと思ってさ」
カレーを食べながら、しみじみとした口調でマヌケ王子が語る。
どうやらカレーは不味かったようだ。
危うくハンバーグの魅力に騙される所だった私は、自分では絶対に注文しないよう心に誓った。
何だかんだで、食事を食べ終わる頃には結構遅い時間になってしまった。
今日はお開きという事で、喫茶店の外でマヌケ王子と別れる。
「んじゃあね~」
手のひらを振る私に、マヌケ王子は真剣な表情で言って来た。
「皆口! ……また来ても、いいか?」
「? 別にいいんじゃないの?」
こんな喫茶店のどこが気に入ったんだろう?
私は不思議に思いながら言った。
皆口と別れた後。
俺は1人、さきほどの喫茶店で飲んでいた。
少しでも皆口の近くに居たいから。
我ながら、女々しいと思う。
カランコロン。
入り口のドアベルが鳴る。
新たに店内に入ってきた客が、俺の隣に座った。
「君は……」
「お兄さん、わけありみたいペコね」
俺の隣に座ったのは、皆口が連れていた変な動物だった。
なんで動物がしゃべるんだ?
そう思う反面、皆口なんら何でもありかと納得している自分がいた。
高校の時から、どこか変わっていた皆口。
そんな皆口に、俺は――。
苦笑いしながらカクテルを煽る。
さして美味くも無いが、この際酔えるならなんでも良かった。
隣に座る動物も同じように酒を煽った。
無言のまま時が過ぎる。
薄暗い店内の中、俺の胸に去来する物があった。
皆口……。2年ぶりに見たその顔は、あの時と変わらないままだった……。
しんみりとした雰囲気の中、俺と動物は飲み続けた。
いつしか、俺はポツリポツリと語りだしていた。
「初めて皆口と会ったのは、高校に入ってからだった」
その頃の皆口は、いつも窓から空を眺めていた。
不思議に思って聞いてみた事がある。
空を見て、何がそんなに面白いのかと。
「べっつにー。良いじゃん、空見たってさ」
何故か拗ねたように言う皆口に、俺は苦笑した。
そんな皆口の顔が、何故か忘れられなくて。
いつしか常に皆口を目で追うようになって……。
多分それが、俺の初恋だったんだろう。
そこで話を止め、ぐい、っとカクテルを1口飲む。
隣に座る動物も、静かに酒を飲んだ。
「初恋……ペコか。良い響きペコ……」
背中に哀愁を漂わせながら言う動物に、俺は首を横に振った。
「そんな良いもんじゃ無かった。特に、俺にはね……」
自分の気持ちを自覚しないまま、俺は日々を過ごしていた。
そんなある日。俺はクラスメイトの女子の1人から告白された。
「好きなの……。付き合ってください」
友達に見守られながら告白するその子を、俺はどうしても傷つけられなかった。
正直、付き合うという事を大きく考えていなかった事もある。
俺はそのまま、告白を受け入れてしまった。
数日後。今度は別の子から告白された。
「いや、俺は付き合ってる子がいるから……」
そう言って断ろうとする俺に、その子は涙ながらに言った。
「2人目でもいい! だから、お願い!」
ええー……付き合うってそういう物なのかなぁ?
一瞬悩んだ俺だったけど、やっぱり告白を断れなかった。
そうしている内に、何故か次々と『彼女』が増え始めた。
今では反省している。
「反省している、じゃ済まないペコ! お前みたいなのがいるから魔法少女が減るんだペコ!!」
「ご、ごめん」
激昂する動物に平謝りする俺。
人として俺の行いが悪かったのは確かだ。
しかし、と俺は言い訳した。
「付き合うって言っても、放課後に一緒に帰ったり、休みの日にちょっと遊ぶくらいだったんだ」
女をとっかえひっかえ、と罵られた事もあるがそれは誤解だ。
俺は告白を断れなかっただけであって、自分から告白した事は無かった。
彼女『達』は互いの存在を知っていたし、騙して付き合っていたわけでも無い。
感覚としては友達、と言った方がしっくりくる。
「それで、その彼女『達』は今はどうしてるペコ?」
その言葉に、俺は苦笑いを浮かべながら言った。
「実は、今も変わらない状況なんだ。高校から大学に場所が変わったくらいかな?」
「泥沼ペコねえ……」
しみじみとした口調で言われ、いよいよ俺は自嘲気味に笑った。
「間抜けな話さ」
そう、間抜けな話だ。
誰かを傷つけたくないから、好きでも無い娘と付き合う。
そして、本当に好きな人には想いを伝えていない。
俺は杯に残ったカクテルを一息に飲み干すと、話を続けた。
「自分の本当の気持ちに気付いたのは、そんなある日だった」
ある日、いつものように俺は彼女『達』と一緒に廊下を歩いていた。
そこに皆口が現れた。
俺の心臓は、面白いように動揺して飛び跳ねた。
皆口に彼女『達』を見られたく無い。そう思った。
「体育祭の実行委員会、今日やるんだってさ」
皆口が言う。そう、俺と皆口は一緒に体育祭の実行委員をやっている。
彼女が実行委員になった時、俺は即座に立候補した。
今思えば、少しでも皆口と一緒にいられる時間を作りたかったのだ。
各クラスの実行委員が部屋に集まる。
俺は会議用の長机に皆口と隣同士で座っていた。
会議が始まるまで、他愛の無い事を話す。
その時何を思ったのか、俺はこんな事を皆口に聞いた。
「こんな事、止めた方がいいのかな?」
「んー? 何がー?」
「その、沢山の女の子と付き合う事」
皆口が止めろと言えば、俺は彼女『達』と別れたのだろう。
もしも、皆口が少しでも俺に好意を持っていてくれたなら――。
そんな期待を込めた俺の言葉。
それに対する皆口の返事は、簡単なものだった。
「いいんじゃない別にー」
何の気兼ねも無い言葉だった。
好意どころか嫌悪すらも感じられないその言葉。
そんな皆口を前にして、俺のちっぽけな勇気は風に攫われるように消えて行った。
「結局、俺は怖かったんだ」
俺は追加で頼んだカクテルを飲みながら愚痴った。
「皆口に告白して、振られるのが怖かったんだ」
だから、自分からは告白出来なかった。
幾度と無く皆口と接点を作りながら、結局は傍で見ている事しか出来なかった。
「告白を断れなかったのも、沢山の女の子と付き合っているのも、俺が臆病なだけだったんだ」
一気に酒を煽る。酔いたい気分だった。
「それで……お兄さんは今さら何をしに来たんだペコ?」
渋い表情で語る動物に、俺は言った。
「忘れられると思った。初恋なんて。でもダメだった」
結局何も出来ないまま高校を卒業した時。
俺は、皆口とは縁が無かったのだと思った。
なら、新しい恋を見つければいい。
他の女の子と付き合っていれば、新しい恋をすれば――。
いつかはこの苦い気持ちも、忘れてしまえるものなのだろう。
俺に告白してくれた女の子達は、みんな素晴らしい娘達ばかりだった。
その中の誰かと、いつかは新しい恋が始まるのだ……漠然とそう考えていたのだ。
そうやって気持ちを誤魔化そうとした。だけど、ダメだった。
「皆口じゃなきゃダメなんだ。でも勇気が無い俺は、会いに来る事さえ出来なかった」
「でも、お兄さんは会いに来たペコ。……これからどうするんだペコ?」
動物の言葉が、俺の臆病な心を刺激する。
そんな気持ちに負けないように、ぐいっとカクテルを煽った。
どんっと杯を置く。そして、俺は宣言した。
「彼女『達』とは別れるよ。そして、今度こそ俺から告白する」
「そうかペコ……」
静かに酒を煽る2人。
しかしその静寂を破るように、1匹の獣が動いた。
ギラリと目を光らせながら、ぼそりと呟く。
「でも、キョーコが誰とも付き合っていないとは限らないペコ?」
ピカッ! ゴロゴロゴロ!
雷鳴が響いたかのような衝撃が、2人の男の間を走り抜ける。
マヌケな王子様は、震える顔をペコ丸に向けながら言った。
「……何か知っているのかい?」
そんな王子様に、ペコ丸は厳かに告げた。
「知っている、ペコ」
ごくり、と生唾を飲み込む音が響く。
しばらく考え込んだ後、マヌケな王子様は口を開いた。
「教えてくれないか? 皆口の事」
震える右手を左手で押さえる王子。
そんな王子の姿を横目で見ながら、ペコ丸は言った。
「それには条件があるペコ」
「条件……?」
「お兄さんにもキョーコに協力して欲しいペコ」
ペコ丸の言葉に、マヌケの王子は肯いた。
協力が何を指すかは分らなかったが、皆口の為になるなら。
そんな決意だった。
「お兄さんの名前は?」
「俺は結城カズトだ。よろしく」
「ボクはペコ丸。よろしく頼むペコ」
ピカッ! ゴロゴロゴロ!
ヘタレ同盟が結ばれた瞬間だった。
某所で秘密の盟約が結ばれている時。
暗い闇の中で蠢く獣達がいた。
「うぃ~ひっく。酔うのも仕事の内ですよ~っとくりゃあ」
千鳥足で歩く1人のサラリーマン。
そんな彼は、目の前に人だかりが出来ているのに気付く。
「なんだなんだぁ? オジサンは野次馬大好きですよ~っと」
フラフラと千鳥足で近付く。
人ごみを掻き分け、騒ぎの中心となっている光景を見た瞬間。
サラリーマンは歓喜に打ち震えた。
「おおっ!? なんだこれ? JK? 女子高生の生足やでぇえええ!!」
サラリーマンがそこで見た物。
それは、少女のパンツが見えそうな光景だった!
何をとち狂ったのか、ミニスカの変な衣装を着た少女。
そしてその隣に座り、うちわでスカートを煽り続ける黒衣の男。
一体なんのプレイなのか?
だが一番の問題は、パンツが見えるかどうかだった。
恥ずかしそうに体をくねらせ、必死にスカートを押さえる少女。
その横で無言でうちわで扇ぎ続ける黒衣の男。
そして、熱狂する男達。祭りの姿がそこにあった。
「ちょ、ちょっとちょっと! これは一体何なのよ!」
あたしは半泣きで叫んだ。
黒衣の男、ミスター・ノワールに誘われるままダークサイダーの一味となったあたし。
今ではダークネスガールと名乗り、奇妙な扮装をしている。
そこまでは良い。いや、あんまり良くないが、今の問題はそれ所では無い。
ダークネスガールとしての扮装は、一言で言えばエロいだった。
極端なミニスカ。胸を強調するようなボンテージ。肌の露出部分も多い。
そして何より解せないのは、スカートをうちわで煽られる事である。
「ちょっと! 止めて! し、下着が見えちゃうでしょ!」
私がいくら制止の言葉を投げかけても、ミスター・ノワールはうちわを止めようとしなかった。
「これは必要な事なのだよ、ダークネスガール」
「何がどう必要なのよ! このスケベ!」
あたしの侮蔑の言葉も意に介さず、ミスター・ノワールはスカートを捲り続ける。
「見るが良い。人々の姿を」
「あの変態共が騒いでる姿は、嫌でも目に入るわよ!!」
あたしが絶叫すると、ミスター・ノワールは鷹揚に肯いた。
「人のユメには、様々な物がある」
突然何を言い出すのか。
話をうやむやにして誤魔化すつもりなのか?
反論しかけた私を手で制しながら、ミスター・ノワールが続ける。
「この世を救おうと言う願い……誰かと愛し合いたいという願い……そして、パンツ見たいという願い」
「最後の1つは、絶対に何か違うわよ!」
あたしは全力で否定した。
何が悲しくて、世界平和とパンツが同列に語られなければいけないのか。
絶対に何かが間違ってる。
そんなあたしの言葉に、ミスター・ノワールは平然とした様子で答えた。
「いや、違わないのさ。どれもユメだ。もっとも、俺達はそれを欲望と呼んでいるがな」
「それが、私のスカートを捲る事とどう関係しているのよ!!」
羞恥で顔を染めながらあたしは言った。
み、短い! 何なのよこのスカート! 見えて無いわよね!?
必死にスカートを押さえるあたしに、ミスター・ノワールは言った。
「見るがいい。集まった人々を。皆満たされた顔をしているだろう?」
言われて、あたしは周りを見渡した。
集まったスケベ親父達が鼻の下を伸ばしているのが分る。
おっさんから大学生、夜遊びの高校生や中学生まで。
ありとあらゆるスケベ男達が集まっていた。
そんな人々を一瞥して、ミスター・ノワールが嘲笑うように言った。
「そうだ、俺達は彼らの欲望を叶えてやったのさ。もっとも、代償はいただくがな」
「代償?」
そう尋ねるあたしに、ミスター・ノワールは事も無げに告げた。
「そう。彼らのスケベ顔は、録画されて実名付きでインターネットに流されている」
「マジで!?」
「タイトルは『女子高生のパンツが見たくて破滅したオッサン達』だ」
「そのタイトルの女子高生ってあたしの事でしょ!? ふざけないでよ!」
憤るあたしを無視するように、ミスター・ノワールは集まった人々を見つめていた。
「そして……欲望を叶えた代償に、彼らの夢を奪い取る」
スッ、とミスター・ノワールが群集の一角を指差した。
それに釣られて視線を向けたあたしは、そこに奇妙な光景を見た。
「なに……あれ……?」
群がる男達から黒い影が抜けていく。
何人も、何人も。人々から影が現れては抜け出て行く。
遂には、その場に居る全ての人から影が抜け出て行った。
影は悲痛な叫び声を上げていた。
自分の存在を知らしめるかのように。
……しかし、誰もその叫びには気付いていないようだった。
「見るがいい。あれが夢のなれの果て、ダークシャドーだ。行き場を無くした夢の亡者」
影が蠢く。苦しげに、狂おしく呻く。
人型になりながら、何かを探すようにねり歩く。
その姿は、泣き喚きながら何かを必死に探す人の姿のようにも見えた。
「欲望の為に失った夢だ。ダークサイダーはな、あれを増やしているのさ」
「なんで? 何の為に……」
そう尋ねるあたしに、ミスター・ノワールは答えなかった。
しかし、まるであたしの心を見透かしたような言葉を紡いだ。
「ダークシャドーの中には、夢の結晶がある。それを集めれば、いつか貴様の欲望も叶えられるだろう」
あたしの、欲望。
ごくりと息を飲み込む。
ジュン。あたしは、あなただけ居れば良い。
業火にも似た想いが、あたしの心の中に渦巻いていた。
「う~ん……頭が痛いペコ」
結局あの後、酔い潰れるまで飲んでいたペコ丸。
痛む頭を振りながら起き上がった。
「くぅ……しかし、これでキョーコに新しい仲間が出来たペコ」
グッとガッツポーズを取るペコ丸。
イケメンがいれば愛の力が増す法則がある。
愛の力が強まれば、魔法少女はさらに活躍出来るのだ。
「さっそくキョーコに伝えておかないといけないペコ」
新しい仲間――結城カズトの事を頭に思い浮かべる。
少し頼りないが、キョーコに対する愛は本物だと感じた。
ならば、大丈夫だろう。ペコ丸はそう思った。
カランコロン。
喫茶店のドアベルが鳴る。
明るい朝の日差しと共に誰かが喫茶店に入って来た。
「キョーコ?」
ペコ丸はきっとキョーコが自分を迎えに来たのだろうと思った。
しかしそれは、全くの間違いだった。
「んふ……ペコ丸ちゃん、こんな所に居たのね」
「ゲゲェ!? あんたはボクを舐めまわすように触って来るマダムペコ!」
それは、猫カフェでバイトするペコ丸のファンのお客さんだった。
妙に湿った目でペコ丸を見つめ、なんだか異様な手付きで触ってくるのだ。
「な、なんでこんな所に居るペコ!?」
愕然としながら叫ぶペコ丸に、悲劇的な言葉が投げかけられる。
「なんでって、ワタシ今日1日ペコ丸ちゃんを自由に出来るって聞いたんだけど?」
「ええ!? な、何ゆえペコ!?」
「あら? キョーコって店員さんから聞いて無い?」
その言葉に、ペコ丸は呆然と思い出す。
キョーコがペコ丸に、お客さんを紹介すると言っていた事を。
「さあ……今日1日、楽しみましょう……?」
「ああああああああああああああああ!?」
迫り来るマダムを前にして、ペコ丸の絶叫が響いた。
次回予告
遂にキョーコに迫るダークネスガール!
その正体は保志少年の同級生だった!
「誰かを選ぶって事は、他の誰かを傷つけちゃうのかな?」
悩める少年とマヌケな王子が交差する時、物語は始まる――!
次回「ペコ丸は空も飛べるはず」絶対見てくれよな!(製作未定!)
第4話公開未定!
いい話にはしたいんですけどね~。
どうですかね~。