第七話 侵入
数日後、無事に依頼を終えた俺達は宿に戻った。
キアはベッドの上ですやすやと寝ている。
ニルティと椅子に座って向かい合い、非合法奴隷購入の証拠を見つける方法を話し合う。
今回、警備の任務に着いたことで警備の抜け穴を全て確認してある。
「これが屋敷の見取り図よ。こっそりと複製してきたわ」
パサ、と机の上に一枚の大きな紙が置かれる。屋敷の構造も全て書かれている。
「俺の単独潜入で行こう。魔力検知器が用意されているしな」
この屋敷で一番厄介なのが魔力検知器だ。登録された者以外の魔力が流れると屋敷内の衛兵に伝わってしまうのだ。俺は魔力の使い方を知らないため、魔力が漏れることはない。
屋敷の近くの路地裏で狙撃砲を構える。屋敷の壁に狙いをつけ、息を殺す。
壁めがけ狙撃砲を発射した。
ドガーーーン!!!!
発砲音と共に屋敷の壁が吹き飛んだ。警備の者や衛兵が集まってくるのを見た俺は屋敷に潜入した。
「あった、これか・・・」
潜入して数分後、誰にも出会うことなく執務室に潜入した俺は部屋を漁っていた。
金目のものを全部回収する。強盗に見せかけるためだ。前回送った鷹便の返信が作戦実行前に届き、潜入に関する屋敷の破壊工作と隠蓑の強盗が認められたのだ。
強盗の部分に関しては、
「ついでだから金目のもん全部スッちゃって構わん!ついでに言えば、それ報酬だ」というような内容が書かれていた。
タンスをひっくり返すと中に隠されていた宝石箱を見つけた。確認する時間も惜しいのでバッグの「その他・依頼品」スペースに放りこんだ。
他にも魔術具などを回収した。使えるかどうか分からないものばっかりだったが、取扱説明書まであったので後で確認する。壁の絵画を外して裏を確認する。何枚か捲ると壁に埋め込まれた金庫があった。
金属製だったが、微量のC4で錠前と蝶番を吹き飛ばす。中に入っていた資料や金貨の詰まった袋を全部回収する。
脱出直前に屋敷の壁に少量ずつ仕掛けておいたC4をいっせいに起爆し、
壁を上半分だけ崩壊させた。修理に手間取ることだろう。
宿に戻る。ニルティに抱きついて遊んでいるキアがいた。
「作戦完了だ。資料を強奪してきた」
机の上にバサッと一束の資料を置く。ニルティと資料を読み進めると、これらの資料がどういったのか
が分かった。奴隷購入の資料と、横領の証拠だ。
金庫の中に入っていた金貨の袋を開け、中身の枚数が一致していることを確認する。
手紙を一通書き、奴隷資料と横領の証拠である金貨をそのまま機密扱いとして即座に送付した。
―――数日後―――
「『リディー伯爵 処刑』か……」
あの後……ミッション遂行後に俺達三人は隣の領地であるピトル領に逃げ込んだ。城下町に逃げ込んだ俺たちはギルドに立ち寄り、鷹便で国王に次の拠点を知らせた。その足で食料品を買うと、
ギルドに紹介された宿に三人で泊まった。
今はギルドに併設された食堂で週一回で発行されている新聞を読みながら朝食をとっているた。
「さて、次はどうするの?」
もぐもぐとオムレツを頬張っていたニルティが尋ねる。
「国王からの返信では現状待機だそうだ。おそらく「パパ、あーん」……ん。リディー伯の後始末に追われているんだろう」
膝の上に乗っけたキアがプチトマトを口に入れる。それを咀嚼しながら王城で行われているであろうことを話す。
「ここは霊峰インテグラル山脈があるわ。確か大きな滝があった筈。観光でもしましょ」
「そうだな」
「ほえー、こりゃでかいな」
数時間後、山を登った俺たちは観光名所として有名で地元では「精霊の滝」と呼ばれる、地球でいえばナイアガラの滝に匹敵するぐらいの水量を誇る滝を見に行った。
爆音が続き、下からは白煙が立つ。
俺とニルティはなんともなかったが、キアは俺の体にしがみついてプルプルと震えていた。滝を見て竦んだらしい。
「キアがかわいそうだな……いったん休憩をとるか」
「そうね」
ニルティと相談すると、馬を歩かせてすぐそばにある宿場へと向かった。
食堂に入り、軽く昼食をとる。のんびりと食べ終えてコーヒーを飲んでいるときにそれは起きた。
Gyaaaaaaaaa!!!!!!
突如として響き渡る咆哮。
「ドラゴンだ!!」
一人がその咆哮をあげた怪物の名前をいう。その言葉に宿場は蜂の巣をつついたような騒ぎに包まれた。
食堂にいた冒険者達は己の武器を片手に飛び出す。
「ニルティ、キアを頼む」
「あなたはどうするの!!」
その問いに俺は狙撃砲を指輪から元の姿に戻し、ボルト・ハンドルを引いて弾丸を薬室に装填する。
「まさか……無茶よ!!そんな銃でどうするっていうの!!」
(そうか、ニルティはこの銃の本当の性能を知らなかったな……見せてやるか)
「ちょっとドラゴン潰しに行ってくる」
そういって俺は食堂を飛び出した。
「いた。大体1500Mぐらいか……『風の精霊よ 弾に遮風の加護を』」
馬で宿場を離れる。狙撃によさそうなポイントを探し当てた俺は双眼鏡で大まかな距離を計測すると、謎の神によって不変の魔法が掛けられているマガジン内の弾丸に精霊の加護を掛けた。
これで弾丸は湿度、温度に加えて風の影響を受けずに直進する。
「さて、一仕事やりますか」
そういって伏射体勢をとると、スコープを覗いた。レンズ越しには宿場に向かって火を吐いて町を燃やそうとするドラゴンが7匹いた。
「まずは一匹目……」
深く息を吸い、止める。体のブレを止めたあとは引き金を引くだけだ。そうすれば、町を襲うドラゴンはただの肉塊と成り果てる。
ダンッ!!
俺は迷うことなくトリガーを引いた。その瞬間に撃針は雷管をたたき、爆発で生じたエネルギーを受けて弾丸は回転しながら一直線に目標目がけて進んでいく。
そして、その弾丸はドラゴンの体に跨る人物の胴を貫き、弾丸は止まること無くドラゴンの胴を貫通した。
文字通り一人と一匹は爆散した。