第五話 ダークエルフ
王都を出て2日。途中で牙付きウサギやブラウンウルフを狩りながら俺は馬に乗って歩き続けていた。
水場で馬と休憩しながら毛皮や肉を洗い、バッグに収納する。最近判明したのだが、このバッグは5つの
ポケットごとに一つずつ空間魔法が掛けられていた。それぞれ
「武器・小道具・科学文明品類」
「貴重品・硬貨類」
「薬草・医療道具」
「食料・水」
「その他・依頼品」
と分類して活用している。これが銀貨70枚はお買い得だ。
馬と走っていると、横転している馬車が見えた。まだ新しい。向こうから持ってきていたサバイバルナイフを片手に駆け寄って中を確認する。
「なんだこりゃ・・・ん?」
馬車の中にはいるが、荷物は少なかった。そして、気になるのは布に包まれた人ぐらいのサイズの荷物。
布を接ぎ取ると、包まれていたものが見えた。ピンと尖った耳に、黒い肌。整った顔つき。
気を失ったダークエルフ族の女の子だった。
ひとまず縛られていた縄を解くと、馬車の側で一晩過ごすことにした。
女の子は日が暮れる頃に目を覚ました。
「ん・・・・・・ここは?」
「目が覚めたか」
「あれ、私、奴隷商に捕まって・・・まさか、あなたが助けてくれたんですか!?」
「いや、私が来たときには御者はいなかった。大方、魔物に襲われて逃げたんだろう。君を置いてね」
「あなたの、お名前は?」
「ヨシト・ハトウだ。Eランクの冒険者だ」
「私はキアっていいます。12歳。路地裏に住んでたんだけど、攫われたんです。リディーの金持ちに売られる予定だったんです」
「俺はリディーに向かうところだ。伯爵が非合法の奴隷を買っているとの情報があったのでね。情報を集めて売るのさ。キアはこれからどうするんだ?」
「何もすることないし、付いていってもいいですか?」
そのまま夜を過ごした。キアに見張りはさせられない。起きる時間、キアを起こす。
「時間だ。起きなさい」
肩を揺するが中々起きてくれない。揺らし続けていると、突然視界がぶれた。
「うわっ!!」
胸当りに見えるのは髪の毛。さらさらとした茶髪だ。
抱きつかれているらしい。
「ヒッグ、グスッ、ウェーーーン」
どうやら恐い夢を見たようだ。
「よしよし。もう大丈夫だよ」
ゆっくりと背中をさする。段々と落ち着いてきたのか、顔をグリグリと押しつけてきた。
時折見える顔は満面の笑みだ。相当懐かれてしまったらしい。
「ヨシト、大好きーーー」
そんなことまで言う。嬉しくて仕方ないよこんちくしょう。
「そろそろいこう」
「うん、パパ!!」
ヘ・・・・・・・・・・ッ?
パ、パ?
ドウイウコッタ?イミガワカラン・・・・・・
「な、なあ、キア。お父さん、って、どういう事?」
「強くて、かっこいいから。私のパパ」
んふー、という感じで息を吐くキア。胴に手を回してきて、
小さな腕でギュッと抱きついてくる。
(孤児なんだし、無理もないか・・・)
「よし、じゃあ、リディーに行くぞ」
キアを抱え、俺は馬に乗ってリディーに向かった。
旅の途中でキアに短剣の使い方を教え込む。途中にあった木の枝を切って
木刀に仕立て上げると、それで戦うようになった。
2日掛けてリディーに着く。ギルドに行ってキアのカードを登録する。
キアは苗字が無かった。だが、苗字の欄に『ハトウ』と記入しようとしていたのでやめさせた。
「ブーブー」と文句を言っていたが黙殺。ついでにパーティーも組んだ。
パーティーランクが上がると、審査ありで全員のランクが上がるらしい。
もちろん昇格条件は厳しいが。
武器屋にいってキアの使う剣を購入した。30分ほど掛けて選んだ剣は、
王都の有名な鍛冶師が打ったロングソード。金貨10枚もしたが、命が掛かっているなら別だ。
それに、金貨はまだまだあるんだ。問題ない。
キアの代えの服を購入し、本屋で俺は魔法の基礎の本を買う。
泊まる宿を決める。一応3週間分支払っておいた。
キアの安全も考えて二人部屋にした。二人部屋に決まったときにキアが、
「パパと一緒……!!」
と小さくガッツポーズしていたのは見なかったことにした。
早速討伐依頼を受けて牙や毛皮を裁く。小銭を増やすと、キアと一緒に市場に出た。
キアと手を繋いで屋台を見る。傍から見れば、白髪混じりの男と小さなダークエルフの女の子が歩くのは違和感がある。
俺は周囲の目が気になって仕方なかったが、キアは気にしていなかった。
周りに笑みを振りまく。その笑みに、喧嘩をしていた男達は手を止めてキアを見、道行く人はその笑顔に安らかな心になった。
「ねー、肩車して、パパ(・・)」
串焼きの屋台でブラウンウルフの肉を食べていると、突然キアがそう言った。
その言葉に、周りの人が全員振り返って、『ハァ?』という顔をした。
「旦那、どういう事で?その嬢ちゃんはどう見てもエルフですが・・・」
屋台の親父が一同気になっていることを質問する。
「ん?キアか?この子は昨日、道の途中で拾ったんだ。非合法の奴隷にされるところだったらしい。その時に懐かれてしまってね」
「パパ、だーい好き!!」
ギュゥ、と俺の体にしがみついて来る。軽くよろけるが、しっかりと受けとめる。
「(ここまでダークエルフの子が懐くなんて・・・)ちょっとお茶しない?」
そこに、一人の女性がやってきた。綺麗な肌をしているが腰に付いている物騒なモノが無ければ、
貴族のお嬢様で通るだろう。おそらく冒険者だ。
「私はニルティ・オーラン。冒険者よ。所で、お茶しない?」
俺は彼女の誘いに乗った。
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